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2026.01.16

「日本酒を、もっと遠くへ連れて行く」。 老舗酒造「七賢」とアラン・デュカスが探求する、世界の料理とのペアリング

日本酒が、海を渡って世界を巡る。それもフレンチの巨匠、アラン・デュカスとともに——。そんな大冒険に挑んでいるのが、創業276年を迎えた老舗酒造「七賢」です。「美酒美食の旅」と銘打ったワールドツアーは、’25年で2回目を迎えることに。そのプログラムに組み込まれていたのが、次世代のシェフやソムリエを対象にしたスペシャルマスタークラス。日本料理とフレンチにどんな日本酒を合わせるのか。その特別講義は実に学び深いものでした。

老舗酒造とフレンチシェフの美しきマリアージュ

お互いのビジョンが一致し、握手を交わす「七賢」北原社長(左)とアラン・デュカス氏(右)

1750年、初代・北原伊兵衛が旅の途中で名水に出合ったことから、山梨県の白州に蔵を構える酒造「七賢」。
ビストロから3ツ星レストランまで、世界9か国で約30のレストランを統括するフレンチの巨匠、アラン・デュカス。
美酒美食を愛するもの同士が共鳴し、’21年に生まれたのが、スパークリング日本酒「アラン・デュカス スパークリングサケ」でした。さらにその2年後、酒粕を蒸留して醸した「アラン・デュカス サステナブル・スピリッツ」が誕生します。この2本を含めた銘酒を携え、’24年、世界7都市を巡るワールドツアーを敢行したのです。

’25年のワールドツアーは、パリ16区にある「デュカス・バカラ」からスタートした。

日本が誇る老舗酒造と21世紀を代表する天才シェフ。このコラボレーションは日仏の職人芸術として高く評価され、’25年にはワールドツアーの第2弾が行われました。パリ、N.Y.、マイアミ、東京、マカオ。世界各地にて日本酒とフランス料理の完璧なマリアージュが展開されたのです。
注目すべきは、ペアリングディナーとは別にシェフやソムリエを招いたマスタークラスが行われたこと。次世代の食を担うプロや学生に向けた教育の場として、日本酒の可能性をさらに深掘りする貴重な講義となりました。

白州の水が育む、「七賢」の柔らかな味わい

マスタークラスは、東京・代々木にある服部栄養専門学校にて行われた。

当日のマスタークラスには「山梨銘醸・七賢」北原対馬社長とアラン・デュカス氏に加えて、フレンチレストラン「エステール by アラン・デュカス」のシェフ、小島 景氏、「デュカス・パリ」アジアのエグゼクティブ シェフパティシエ、アリテア・ロシニョール氏、日本料理「旬菜おぐら家」の料理長、堀内 誠氏も登壇。3人の料理人が「七賢」の日本酒とペアリングする実演が行われました。

山梨銘醸 代表取締役社長 北原対馬氏

最初に登場したのは北原社長。「七賢」ついて、熱く語り始めます。
「日本酒にとっていちばん大切なものは何でしょうか。『お米』と答える人も多いなかで、私は『それは水である』と答えます。創業者の北原伊兵衛が白州に蔵を構えた理由は『水が大変おいしかったから』。今日は皆さんにその水を飲んでいただきたいと思います」
そっと口に含んでみると、とてもやわらかな味わい。体にすーっと染み渡っていきます。

「日本の軟水のなかでも硬度が極めて低いのが白州の水。私が蔵を継いだ当時はこの特性を生かす酒がまだつくられていませんでした。探求を続けて導き出されたのが、華やかさとフルーティさを楽しめる酒。それが明確になり、大きく舵を切ったのです。今日は3人のシェフが腕によりをかけたひと品に、『七賢』の日本酒を合わせてくださいます。どうぞそのマッチングをお楽しみください」

純米酒「風凛美山」には甘辛く炊いたニシンを

実演のひとり目は、池尻大橋にて日本料理「旬菜おぐら家」を営む堀内 誠氏。供されたのは、低温調理したニシンと真昆布に、大浦ごぼうと長なすを添えたひと品です。

日本料理「旬菜おぐら家」料理長・堀内 誠氏

「ニシンというと乾燥した身欠きニシンのイメージがありますが、今回使っているのは生のニシン。それも80〜90度を保ちながら長い時間をかけて、真昆布とともにゆっくり煮るという手の込んだもの。酒と醤油と三温糖を使った甘辛い味つけなので、『七賢』のなかでもどこか力強い印象のある『風凛美山』を合わせました」

純米「風凛美山」

「風凛美山」は、米の旨みが口いっぱいに広がる純米酒。ふっくらと味の染みたニシンと真昆布のコク深い味わいを優しく包んでくれます。冷やでも常温でも、またぬる燗まで温度を上げても、好みの温度帯で楽しめる酒だからこそ、日本料理との完璧なペアリングに、深い満足感を覚えた時間でした。

フレンチにスパークリング日本酒を合わせる愉悦

さて次は、パレスホテル東京にあるフレンチレストラン「エステール by アラン・デュカス」のシェフを務める小島 景氏が登場。
アラン・デュカス氏と長く働き「世界で最も私の料理哲学を理解し、実践する日本人シェフ」と称される人物です。彼が用意したのは、「一本釣りの銚子産キンメダイ ポロネギ、海苔のコンディマン(自家製ソース)」。キンメダイを豪快に備長炭で焼くという実演パフォーマンスが行われ、会場全体が彼の手元に注目します。

「パレスホテル東京」フランス料理「エステール by アラン・デュカス」シェフ・小島 景氏

「一本釣りという環境に配慮したキンメダイで、旬を迎えた今の時期は旨みがのっています。今回は、『アラン・デュカス スパークリングサケ』に合わせることを考えて、ソースに海苔を使いました。丸山海苔店の佐賀のはしりという海苔で、これは絶対に合うとひらめいたんです」

スパークリング日本酒「アラン・デュカス スパークリングサケ」

「アラン・デュカス スパークリングサケ」は、「七賢」の貴醸酒を国産の桜樽で醸し、シャンパンと同じ瓶内二次発酵できめ細やかな泡へと仕上げたスパークリング日本酒。一気に花開くのは、野イチゴ、アニス、ヨーグルトなどを思わせる香り。その後、ゆっくりと樽由来の甘みや苦味が押し寄せ、穏やかな余韻が心地よく過ぎ去っていく優雅さが魅力です。

「日本酒はワインと同じくとても繊細。だからペアリングを考えるときは、『ワインだから』『日本酒だから』ではなく、純粋に味と香りから判断します」と語る小島シェフ。世界で活躍してきた日本人シェフのひと皿と、老舗酒造による最高峰の1本。誇らしい気持ちで満たされたことは言うまでもありません。

酒粕の蒸留酒にマロンのデセール。斬新かつ美しい体験

最後に登場するのは、「デュカス・パリ」アジア地域のエグゼクティブ シェフパティシエを務めるアリテア・ロシニョール氏です。
実演するのは「栗と日本酒のデザート」という魅惑的なメニュー。日本酒を加えたマロンクリームとマロンジュレ、さらにマロンのマリネとローストマロン…さまざまなマロンが美しい層になった芸術のようなスイーツが完成しました。

「デュカス・パリ」エグゼクティブ シェフパティシエ アジア、アリテア・ロシニョール氏

合わせるのは、「アラン・デュカス サステナブル・スピリッツ」。日本酒をつくる際に出る酒粕を蒸留して醸した焼酎で、「七賢」特有の吟醸香による爽やかさ、ウイスキー樽で熟成したことによるまろやかさなど、複層的な風味を感じる特別なお酒に仕上がっています。

本格焼酎「アラン・デュカス サステナブル・スピリッツ」

タヒチ出身で、現在アジアエリアを統括しているロシニョール氏は、どこかエキゾチックなムードをまとわせるのが得意。このスイーツにはオレンジを効果的に効かせていて、それが見事に蒸留酒とマッチしていました。

日本酒×世界の料理という次のステージへ

「日本酒を、もっと遠くに連れて行く」。
これは「七賢」が長期的ビジョンを描く際に掲げたテーマです。
老舗に必要なのは「伝統と革新」であり、酒造として「高付加価値化と国際化」を推し進めていきたいと語る北原社長。

「だからこそ合わせたいと考えているのは、世界各国の料理です。日本料理はもちろん、今回のフレンチもそう。さらにイタリアン、チャイニーズ、コリアン、南米まで。ワインが世界へ広がったように、日本酒も視野と舞台を広げていきたい。そのために華やかでフルーティなファーストインプレッションだけでなく、渋みと苦味というアフターフィニッシュを深めていくことにもなるでしょう。アラン・デュカス氏とのコラボレーション、そしてワールドツアーは私たちにとって新章の始まりなのです」

これまで日本酒に抱いていた思い込みをすべて外すことで、新たな口福が訪れることを教えてくれたエデュケーショナルなマスタークラス。ここで新しい潮流を体感した人々が、次世代の食を担い、羽ばたいていくのかもしれません。

山梨銘醸・七賢

山梨県北杜市白州に蔵を構え、甲斐駒ヶ岳の雪解け水と地元産の米を用いた日本酒を醸造している。1880年には、明治天皇の巡幸の折に行在所に指定された蔵としても知られる。代表銘柄は「七賢」。近年はスパークリング日本酒や長期熟成酒にも注力し、国内外で高い評価を得ている。現在は13代目・北原対馬氏が蔵元を務め、伝統と革新を融合させた酒造りを進め、白州の豊かな自然と清冽な水を生かし、持続可能な酒造りを通じて地域と世界を結ぶ新たな価値を追求している。
公式ウェブサイト

アラン・デュカス

フランス南西ランド地方出身。ヨーロッパで500以上のレストランとホテルが加盟するネットワーク「レ・コレクションヌール」や、料理本の出版社「デュカス・エディション」、そして料理・製菓学校「デュカス・エデュカシオン」を設立し、知識の伝承に尽力している。また、厳選したカカオ豆から自社で一貫製造を行うショコラ工房「ル・ショコラ・アラン・デュカス」と、コーヒーの自社工房ブランド「ル・カフェ・アラン・デュカス」を展開。食べる人の健康と地球環境への敬意、そして料理人が果たすべき社会的責任、個人農家による農業の保護を提唱し、シェフと質の高い生産者が集う団体「コレージュ・キュリネール」を創設。
公式ウェブサイト

構成・文/本庄真穂

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和樂web編集部

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