“手しごと”として語られる、生活工芸・伝統工芸・民藝
日々の暮らしに温もりをもたらしてくれる“手しごと”の道具たち。人の手を介して創られたものを“手しごと”と呼びますが、“日本の手しごと”には生活工芸、伝統工芸、民藝(民衆的工藝)などがあります。その違いをわかりやすく説明してくれたのは、『「生活工芸」の時代』(共著)や『民藝のインティマシー「いとおしさ」をデザインする』の著者であり、NHK Eテレ『趣味どきっ!私の好きな民藝』で民藝案内人として日本各地の作り手を訪ね歩いた、明治大学の准教授であり哲学者の鞍田崇さんです。

「生活工芸は、現代の暮らしに合わせて、作り手が手掛けた器や道具です。いわゆるライフスタイルショップやギャラリーなどで、作家ものとして取り上げられているものです。伝統工芸とは、文字どおり、特定の地域で伝統的な技術や材料を使ってつくられた工芸品です。伝統的工芸品産業の振興に関する法律に基づき、経済産業大臣の指定を受けた『伝統的工芸品』も含まれます。そして民藝は、日本各地の名もなき職人が暮らしのためにつくってきた実用品を指します。伝統工芸と重なる部分もありますが、作家よりも職人の手になるものが基本ですね」
さらに民藝は、哲学者の柳宗悦が仲間たちとともに、いわゆる「用の美」(用いられるものだからこそ宿る日用品の価値)を提唱した民藝運動から広まった背景があり、ものづくりを通しての思想性が強いとも、鞍田さんは言葉を続けます。
「作り手はもちろん、買い求める使い手のほうも柳宗悦の思想をどこかで自覚している。民藝のものづくりに宿る思想性は、生活工芸や伝統工芸のものづくりとの大きな違いだと言えます。ただ今の時代の使い手は、柳宗悦のことは知っていても、見た目やデザインで民藝の道具を選んでいるでしょうけどね」
暮らしを大事にする時代に、手しごとへの関心が高まる
ここ数年、手しごとの道具に対する興味や関心が高まっています。東京は銀座の百貨店、松屋で毎年開催されている『銀座・手仕事直売所』の盛況ぶりは言うまでもなく、ライフスタイルショップやギャラリーで開催される人気作家の個展には、入店するために朝から多くの人が列をなします。手しごとがこれほど注目される理由について、鞍田さんはこう話します。

「バブル景気のころまでは、海外などの遠くに行くことや憧れブランドを手に入れることに人びとの関心がありました。日々の暮らしとは離れたところに価値があると多くのひとが考えていた。でもバブル経済がはじけて社会状況が大きく変わっていくなかで、2000年ごろから暮らしのなかに価値を置くことを大切にする風潮がじわじわと広がってきた。『百均のコップでもいいのだけど、もう少し温もりのある器でお茶を飲みたいな』というように、身のまわりを豊かにしていきたいと考えるひとが増えてきたのではないかと感じます。ちょうどそのころから民藝の再評価がはじまり、また産地でのものづくりを広くアピールするような取り組みも増えてきました」
若い世代の担い手が手しごとの魅力を広げる
手しごとに関心をもつ若い世代が増えるなかで、手しごとの道具をあつかう担い手(店)も世代交代が進んでいきます。若い店主による時代の空気をとらえた道具の選びやディスプレイ、またSNSの情報発信によって、新たなファンが生まれていきました。産地の土産屋でしか置いていなかった器や民具が、センスのあるショップやギャラリーに並ぶようになり、手しごとに触れる機会が広がっていったと、鞍田さんは話します。

「その変化は、作り手ももちろん感じていたようです。木工作家の三谷龍二さんは、昔は暮らしに余裕がある40、50代が作品を買ってくれることが多かったけれど、2000年を境に若い世代も作品を買い求めてくれるようになってきたと話してくれたことがあります。道具はもちろん、産地や工房に出向く若い世代が増えました。クラフトフェア人気が高まっていったのもこのころからです」

茶道具から手しごとへ、気になる作り手と愛用道具
研究の対象であるとともに、手しごと愛好家である鞍田さん。自宅には日本全国の産地や工房で買い付けた道具がずらりと並びます。そんな鞍田さんですが、手しごとに興味をもち始めたのは、大人になってから始めた茶道がきっかけでした。
「京都に暮していた30歳のころに茶道を始めました。そこで茶碗や漆器などの茶道具に興味を持つようになりました。千利休の創意した『樂焼(らくやき)』の伝統を愉しめる樂美術館を皮切りに、京都や大阪の茶道具を蒐集する美術館を訪ね歩きました。お茶碗ひとつとっても大きな違いがあることや、それまで触れる機会のなかった漆器の奥深い世界にもはまっていきました」

その後、柳宗悦の民藝論や、古今の作り手の言葉に触れたこと、さらに独自の美意識と審美眼で知られる『古道具 坂田』の故・坂田和實さんとの出会いなどをきっかけに、研究者として生活者として、手しごとへ深く関心を持つようになったそうです。全国各地のものづくりの現場を訪ねてきた鞍田さんが、注目する作り手(の一部)や愛用の道具について教えてくれました。
「生活工芸の第一人者である木工作家の三谷龍二さんです。三谷さんとは20年近くにわたってお付き合いをしています。生活工芸を牽引してきた活動も尊敬していますし、器といえば焼き物と思っていた私に、木の器やカトラリーのよさを教えてくれた作り手です。伝統的な技術を大切にしながらも、伝統をなぞるだけではなく、今の暮らしになじむ道具をつくり続けているところにも魅力を感じています。そしてもうひとり注目している木工作家が大久保ハウス木工舎・大久保公太郎さんです。我が家では、大久保さんの手がける木の調理器具を愛用。右利き用と左利き用があって、使い手に寄り添ったものづくりの姿勢に惹かれます。おふたりとも長野県松本市でものづくりをしています」
さまざまな作り手の焼き物も蒐集してきた鞍田さん。そんな鞍田さんが新たな作品を愉しみにしている作陶家も挙げてくれました。
「まずは島根・温泉津町(ゆのつちょう)に窯をもつ作陶家の森山雅夫さん。民藝を代表する河井寛次郎氏の最後の内弟子です。80歳を超えてなお新たなことに挑戦する姿にいつも刺激をもらっています。生き方も、つくるものも、本当にかっこいい作り手です。そして森山さんに師事し、秋田に窯をもつ中嶋健一さんにも注目しています。中嶋さんは青森出身で、東北の焼き物に多い、藁灰や籾殻灰でつくる海鼠釉を生かす作品づくりをしています。東北人らしい実直で少し不器用な人柄を感じる力強い器が彼の持ち味です。彼の器を使っていると、なんとなく温かい気持ちになるんです」
かわいいな、すてきだな、と感じたら、買って使ってみること
産地や作り手はばらばらなのに、鞍田さんの集めたものは、シンプルでどこかモダンな雰囲気を纏っています。鞍田さん自身、作り手の想いや道具に触れて、さまざまな道具を買い求めるなかで、自分の好きなものへたどり着いたそう。最後に、手しごとの道具が気になり始めたひとに向けてアドバイスをいただきました。
「手しごとの魅力は、見た目や使いやすさだけではなくて、作り手の想いや姿勢、土地に根づく歴史、技術が込められています。まずは手しごと道具をあつかったお店などに出掛けていいなと感じたものがあれば、ぜひ手にとってみてください。その作り手や背景について、お店のかたに尋ねてみるのもいいですね。そして、自分がいいと思ったものは、買って使ってみてほしいです。自分なりの使い方をいろいろと見つけることで、それが暮らしに欠かせない道具になっていきます」

手しごとの道具を迎えることは、作り手や土地のものづくりに触れることです。まずは「いいな」と感じた道具を、暮らしのなかで使ってみる。そんな出合いを繰り返し、暮らしに欠かせない自分らしい道具を見つけてください。
鞍田崇(くらた たかし)
1970年兵庫県生まれ。哲学者。京都大学大学院人間・環境学研究科修了。現在、明治大学理工学部准教授。著作に『民藝のインティマシー 「いとおしさ」をデザインする』(明治大学出版会)、『「生活工芸」の時代』(新潮社/共著)など。手しごとの道具を探すときに訪れるお気に入りの店は、その審美眼に信頼を置く店主小林和人さんが営む東京・吉祥寺の『OUTBOUND(アウトバウンド)』や代々木上原の『Roundabout(ランダバウト)』、また自分好みの民藝の器や道具が揃っている世田谷上町の『工芸喜頓(キートン)』など。
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