色も光も深みを増してゆく秋──豊かな実りのすべてが、眩い輝きとなり解き放たれる

優美な曲線を編み上げた、鳥の巣を思わせるデザイン
絵画のような色彩を纏って、宝石に佇む“伝説の小鳥”
花、枝、蔓(つる)の奔放な美しさ──類いまれな才能が、躍動する自然を輝きに変えて

リボンの花びらが風にそよぐ、優美なダリアの躍動する姿
しなやかな蔓の生命力を、ダイヤモンドの光で描いて
名作の意匠を受け継ぎ、未知なる果実が夢と幻想の世界へ誘う
豊潤な秋の恵みを讃える、想像を超えた色彩の調和

遊び心溢れる“夢の果実”は、アーカイブの名作が着想源

時を超えて共鳴する、自然と語らう“ふたつの才能”
ティファニーが年に1回発表する「ブルー ブック」は、稀少な宝石と卓越したクラフトマンシップの結晶ともいえるハイジュエリーコレクション。その最新作となる「ブルー ブック 2026:ヒドゥン ガーデン」は、自然界の知られざる神秘を巡る3章で構成され、今回の「フォール コレクション」でついに完結します。
最終章が讃えるのは、光に育まれ、成熟を迎えた自然の豊かさ。蔓、花、果実といったモチーフが、鮮烈なジェムストーンやゴールド、エナメルと響き合い、しなやかな曲線と軽やかな動きを宿すジュエリーへと昇華。豊かな実りが、色と光を纏って瑞々しく輝きます。
その世界に深く息づくのが、ジャン・シュランバージェの自然への眼差しと、尽きることのない想像力です。彼が見つめたのは、鳥や花、海の生き物の姿だけではありません。むしろ、その動きや生命力に心惹かれ、鮮烈な色彩や大胆なフォルムへと自由に想像を広げていきました。そこに時にユーモアを忍ばせ、現実と幻想が交錯する独自の世界を築いたのです。自然から得た着想をだれも見たことのない美へと飛躍させる類いまれな感性。それこそが、偉大なデザイナー、シュランバージェの真骨頂だといえるでしょう。
その豊かな創造の世界を、現代の感性で再解釈する、もうひとつの才能。それが、ティファニーでジュエリーとハイジュエリーのクリエイションを統括するナタリー・ヴェルデイユです。彼女はアーカイブの代表作だけでなく、遺されたデザイン画や資料を丹念にひもとき、彼の創造の軌跡をたどりました。同時に、自然そのものを科学者のように観察し、花びらが開く過程や、そこに見られるわずかな不規則性に着目。完全な均整を求めず、あえて揺らぎを残すことで、ジュエリーに躍動感を生み出したのです。
シュランバージェが見出した、自然の奔放な美。それは今、ナタリーによって現代の息吹を纏い、新たなハイジュエリーとなって鮮やかに花開いています。

Nathalie Verdeille
ジュエリー & ハイジュエリー部門
シニアヴァイスプレジデント 兼 チーフアーティスティックオフィサー
ジャン・シュランバージェが遺した、豊かな想像力を次代へ──
パリ装飾美術館とともに ティファニーが挑むレガシーの継承
伝説のデザイナー、ジャン・シュランバージェとはどのような人物なのでしょう。彼が宝飾界にもたらしたものとは? その偉大なレガシーを未来へ継承すべく、今まさにティファニーとパリ装飾美術館による画期的なパートナーシップが始動します!
自然の本質を見つめた異才が、ティファニーに開いた新たな扉
ジャン・シュランバージェは、20世紀を代表する最も先見性に富んだジュエリーデザイナーのひとりです。1907年、フランス・アルザス地方の織物業を営む名家に生まれ、独学で美術を学びました。1930年代のパリで、エルザ・スキャパレリのためにボタンやコスチュームジュエリーのデザインを手がけ、注目を集めます。第2次世界大戦を経てニューヨークへ渡ると、1947年にサロンを開設。彼が生み出す、自然を題材にした色彩豊かで遊び心溢れるジュエリーは、セレブリティや上流階級の女性たちを魅了しました。
1956年、当時の会長ウォルター・ホーヴィングに招かれ、副社長としてティファニーへ迎えられます。5番街の本店に専用のスタジオとサロンが設けられると、希少な宝石と最高峰のクラフトマンシップを背景に、彼は創作の可能性を大きく広げていきました。
自然をつぶさに観察し、その動きや不規則な美を、大胆なフォルムと鮮烈な色彩、ウィットに富む表現へと変換する類いまれな才能。その圧倒的なクリエイティビティはジュエリーに生命力と物語を与え、数々の名作が誕生しました。また、伝統技法を甦らせる一方、定石を外した色使いや彫刻的造形にも挑み、ティファニーに新たな創造の扉を開いたのです。
そんな彼は、創作の出発点として常にスケッチを重んじていました。遺された膨大なデザイン画は没後の1995年、パリ装飾美術館へ寄贈され、回顧展も開催。1本の鉛筆から始まったシュランバージェの豊かなイマジネーションは、傑作となって宝飾史に深く刻まれ、今なお新たなクリエイションの源泉となっています。
アメリカの名門ジュエラーが、パリの文化遺産を未来へ
シュランバージェが遺したクリエイティブなレガシーを未来へ継承するため、2026年秋、ティファニーはパリ装飾美術館と画期的なパートナーシップを発表しました。ザ ティファニー アーカイブ主導のもと、約5千点のオリジナルデザイン画とほぼ同数の歴史的資料の修復、保存、デジタル化を進める壮大なプロジェクトです。
米国を代表するジュエラーが、フランスの文化・芸術の殿堂である同館を支援することは、国境を超えて優れた芸術を後世に残すうえで極めて大きな意義をもっています。パリで頭角を現し、ニューヨークで名声を確立したシュランバージェ。その人生と創作を伝える資料を守り、研究者やキュレーターへ手渡すことで、彼の軌跡は新たな研究やデザインに生かされていくのです。
この提携の始動を記念し、パリ・ファッションウィーク2026に合わせて、同館ではプライベートプレビュー「I Am Only a Pencil(鉛筆なしでは何も生まれません)」を開催。会場には、シュランバージェのスケッチやデザイン画と、完成したジュエリーやオブジェが一堂に集められました。それらを見比べれば、紙の上の線が、卓越した職人技によって躍動感溢れる立体へと昇華するさまが見えてきます。さらに本展では、彼の最大の理解者だったレイチェル・ランバート・メロン(愛称バニー)旧蔵の貴重なコレクションも特別公開されました。
偉大な美の足跡を守り、次代へと伝え、そこから新たな表現を生み出していく──。今回のパートナーシップは、文化を未来へ繫ぐティファニーの強い意志を鮮やかに物語っています。


「パリ装飾美術館」とは?

バージニア美術館 ヨーロッパ美術部門長 シルヴァン・コルディエ博士が語る
ジャン・シュランバージェの自然への眼差しと、 傑作に秘められた創造の源泉
ティファニーの最新ハイジュエリーコレクション「ブルー ブック 2026:ヒドゥン ガーデン」。その豊かな発想の源流に息づくのが、伝説のデザイナー、ジャン・シュランバージェの精神です。彼の生涯と創作を深く研究するバージニア美術館のシルヴァン・コルディエ博士に、比類なき創造の秘密を伺いました。
自然の本質を読み解く、類いまれなる才能の“芸術家”
現在、ジャン・シュランバージェの包括的な伝記を執筆中のシルヴァン・コルディエ博士。18・19世紀の装飾美術を専門とし、バージニア美術館が所蔵する膨大なアーカイブにも精通する、シュランバージェの生涯と創作を熟知する有数の専門家です。
そんな博士にまず伺ったのは、シュランバージェの作品を象徴するボタニカル・モチーフについて。18世紀以来、ヨーロッパのジュエリーでは動植物の姿を忠実に写す表現が主流でした。しかし、彼の自然への眼差しはその伝統とは異なる、と博士は指摘します。
「彼は、自然の形を厳密に模倣するナチュラリスト(自然主義者)ではありません。自然に宿る生命力を捉え、身に纏うことのできるジュエリーへと昇華しようとしたのです」
植物や動物を形づくり、生かしているものは何か。その根源的な仕組みを学び、装飾へと置き換えるために、シュランバージェは飽くなき探究を重ねていました。棘や絡み合う枝も、生命のエネルギーを伝える重要な要素です。棘は、植物が外敵から身を守るために生み出すもの。敬虔なキリスト教徒だった彼にとっては、イエス・キリストの茨の冠を連想させるモチーフでもありました。それでも関心の中心は、あくまで自然そのものの営みにあったと博士は語ります。
「絡み合う枝も、形を写すことが目的ではありません。彼は自身のジュエリーを纏う女性に、自らもまた自然の一部であり、その力と繫がっていると感じてほしかったのです」
こうした自由な発想の出発点となったのが、スケッチでした。
「彼は宝飾家(ジュエラー)ではなく、図案家(ドラフツマン)としてジュエリーに向き合いました。宝石学は独学でしたが、体系にとらわれない自分なりの知識こそが、創作の自由を支えると考えていたのです」
シュランバージェが重んじたのは、調和のとれたフォルムと色彩、作品に宿る精神性。スケッチに託した構想を実現するため、職人による制作工程の監修にも熱心に取り組みました。博士はそんな彼を、宝石と形を自在に操る“芸術家”と評します。
想像の世界を高みへと導いた、生涯の友と、響き合う美意識
シュランバージェの自然観に大きな影響を与えたのが、最大のパトロンにして生涯の友、レイチェル・ランバート・メロン(愛称バニー)です。著名な園芸家であり、美術コレクターでもあった彼女との交流を通じて、彼はバージニア州オーク・スプリングの広大な庭園で、季節の移ろいや自然の営みをつぶさに観察しました。
「もともと海洋生物に惹かれていた彼に、植物への深い知識をもたらしたのは、間違いなく彼女です」
ふたりの響き合う美意識を物語るのが、1956年に誕生した蝶のブレスレットにまつわる逸話でしょう。彼が数か月をかけてこのブレスレットのデザインを仕上げていたちょうどその頃、バニーもまた、蝶を描いた17世紀のオランダ絵画を蒐集していました。図らずも同じモチーフから、双方はインスピレーションを得ていたのです。
さらに、彼女の花への尽きない情熱を讃えて生まれたのが、名作オブジェ「フラワー ポット」。並外れて大きく美しいサファイアを手にした彼は、それを身につける宝飾ではなく、彫刻的な作品に仕立てることを思い立ちます。その土台に用いたのは、バニーの温室からこっそり持ち出した小さな素焼きの鉢でした。最も素朴な園芸道具と、至高の宝石との奇跡的な出合いです。
「実在する花を模したのではなく、完璧な花はどんな姿かを想像して生まれた作品です。あらゆる花の象徴であり、生命力と美しさが凝縮されています」
美術館に収められた彼の一大コレクションは、研究者にとってもデザイナーにとっても、かけがえのないものだと博士は言葉に力を込めます。
「彼の生涯にわたる創作の歩みを全体として見渡せると同時に、その遺産は、未来の新たな解釈を生む源として尊重され、受け継がれていくのです」
作品や記録を通し、長年にわたりシュランバージェと向き合ってきた博士は、最後にこう結びました。
「スケッチからドローイング(図案)、そして完成したジュエリーまで、彼の創造は無限の魅力と精神的な深みを湛えた“ひとつの宇宙”です。その真価を、多くの人々が理解してくれることを願っています」

Dr. Sylvain Cordier
バージニア美術館
ポール・メロン・キュレーター 兼 ヨーロッパ美術部門長

※※文中のPTはプラチナ、YGはイエローゴールドを表します。
※この特集での価格表記は、すべて税込価格です。
※本記事は『和樂』2026年12・1月号の転載です。
※価格は2026年10月30日時点のものです。

