日本文化の入り口マガジン和樂web
12月5日(日)
慶良間見しが、まつげ見らん(沖縄のことわざ)
日本文化の入り口マガジン 和樂web
日本文化の入り口マガジン 和樂web
12月3日(金)

慶良間見しが、まつげ見らん(沖縄のことわざ)

読み物
Craft
2019.11.22

室町時代の本も修復する「和綴じ本」とは?過去と現在を綴じる文化の魅力・特徴を解説

この記事を書いた人

皆さんは、「本」と聞いて、どのようなものを想像しますか?
恐らく、多くの人がこのような形を思い浮かべるのではないでしょうか。

右が表紙・裏表紙・背表紙に芯が入っている上製本(ハードカバー)、左が簡易的な造りの並製本
(ソフトカバー)。

現在流通している本の多くは、明治期に入ってきた西洋式の「洋装本」の流れをくんだ形をしています。
もちろん、開国前から日本は独自の書籍文化を持っており、特に江戸時代は出版が大きく発展して多くの書籍が流通しました。
しかし、洋風の綴じ方が主流になるにつれ、それまでの日本で一般的だった「和綴じ」(和本、和装本とも)は少しずつ姿を消していきました。
現代では、和綴じ本に馴染みが薄い……という方が少なくないかもしれません。
そこで今回は、時代に合わせた和綴じ本のサービスを提供しているトウキョウワホン(株式会社エー・ディー・ピー)の荒木愛子さんにお話を伺いながら、和本の魅力をご紹介いたします。

和綴じ本の特徴

ひとくちに和本といっても、その形はさまざまです。
横に長く繋げた紙を巻物状にした「巻子本(かんすほん)」、同じく横長に繋いでいった紙を一定間隔で折り畳んだ「折本(おりほん)」といったものもありますが、重ねた紙を糸で綴じた冊子状のものを指すことが多いです。

折本は、近年の御朱印帳ブームのおかげで、日常で見かけることが多くなりました。

糸を使って綴じる方法自体は洋装本や現代の本でも行われているものの、和綴じはこの綴じ方が特徴のひとつとなっています。

紙に穴を空け、表紙・背・裏表紙にしっかり糸が渡っています。(撮影:Takashi Kanno)

「四ツ目綴じ」と呼ばれる形を基本に、「麻の葉綴じ」「亀甲綴じ」などのバリエーションがあります。

上から、基本の「四ツ目綴じ」、麻の葉文様を思わせる「麻の葉綴じ」、亀甲文様の「亀甲綴じ」。(撮影:Takashi Kanno)

トウキョウワホンでは、この和本を作る全工程を手作業で行っているそうです。

目指すは、誰にとっても身近な和綴じ屋

―他にもいろいろなサービスを展開されているようですが、和綴じ本のサービスを始めたきっかけはなんだったのでしょうか?

荒木:株式会社エー・ディー・ピーはコピー、製本、Tシャツ、あらゆる種類のプリントサービスを行っています。今はTシャツ部門がメインですが、元は青焼きと呼ばれる今のコピーよりも古い技法の印刷や製本からスタートした会社です。
もともとトウキョウワホンとしてのサービスを始める前から、習字の作品をはじめ、細々と和綴じのご注文を受けておりました。そこから「もっと幅広い層に需要があるのでは?」と思ったのをきっかけに、和綴じ本部門が設立されました。

―実際の反響はいかがでしたか?

荒木:お客様からは、「個人向けに和綴じ製本してくれるところを探していた」「和綴じサービスは高尚なイメージだったから嬉しい」という喜びの声を頂きました。
日本一敷居の低い和綴じ屋を目指しています。

古い時代の本の修復を手掛けることも

―送られてきた原稿を製本するほかに、修復も行っているのですか?

荒木:たとえば、浮世絵の和綴じ本のコレクターの方から、何度か綴じ直しのご依頼を頂いております。
実際に目にしたときは、江戸時代のものとは思えないほど、とても状態の良い本でした。大名の所有物だったとのことで、今もムック本の撮影に使われたり、博物館に貸し出して展示されたりしているそうです。
また最近では、国文学者のお客様からのご依頼で、室町時代の本を修復させていただきました。

―室町時代となると、相当古いですね!

荒木:とはいえ、本文の紙は丁寧に裏打ちされており、状態も悪くありませんでした。きっと、大切に保管されていたのだと思います。
和綴じで製本すると、たとえ綴じ糸や角ぎれが傷んでしまっていても本文の和紙は意外なほど綺麗な状態で残っているのだな、とその時実感しました。
実は当初、とても貴重な本としかお聞きしておらず、お渡しする時に初めて室町時代のものだと知ってとても驚きました。最初からそこまで古い本だと知っていたら、むしろ緊張して上手く綴じられなかったかもしれません。
そうした大事な本を信頼して託してくださったので、とても嬉しかったです。

伝統を大事にしながら新しい手法を考案

―和綴じの綴じ方にはいくつか種類がありますが、「××綴じ」は独自に考えられたのですか?

先述の綴じ方とは違う、背に「××」の形が現れる綴じ方。(撮影:Takashi Kanno)

荒木:トウキョウワホンは、伝統を大事にしつつ、新しい手法や材料を取り入れるというテーマで始めたものです。
他にないものを作りたいと思って、綴じ方の実験を重ねました。××綴じはその時に思い付いた創作綴じのひとつです。
特に若い女性からの人気が高くて、嬉しく思っております。

―オリジナルというと、WEBサイトで紹介されていた「wahon」という製本方法も気になっていました。

荒木:こちらの発想の元となったのは、弊社が50年以上製本を続けてきた建築図面です。
建築図面は建築現場で使うので、真ん中で途切れることなく、パタンと水平に開く必要があります。その製本方法は「観音製本」と呼ばれているのですが、職人が刷毛で糊付けして、手製本として仕上げます。
とても見やすいので、図面だけでなく他にも応用できないかと考えて、トウキョウワホンのサービスに取り入れました。


ほぼ180度開くようにできている「wahon」。(撮影:Takashi Kanno)

―伝統を守るだけではなく、いろいろな挑戦をされているのですね。

荒木:WEBやSNSを見て、新しいタイプの和綴じを求める方やフランス、カナダ、スペイン、フィンランド、インド、オーストラリアなど外国の方がたくさん来てくださっています。
お客様と接しながら打ち合わせを重ねると、思ってもいなかったアイデアに出会えます。特に、外国のお客様は柔軟な発想をされますね。
まだまだ新しいアイデアが生まれると確信していますし、もっとたくさんの人に和綴じ本のよさを知ってほしいと願っています。

過去から現在、そして未来へと受け継がれる文化

今となっては、書店でも目にすることが少なくなってきている和綴じ本。
電子書籍の利用が年々増えていく現代では特に、装丁・製本には目が向きにくくなっているかもしれません。
けれども、和綴じ本を大切にする人が存在する限り、少しずつ姿かたちを変えていきながらも、こうした伝統文化は未来へと受け継がれていくのではないでしょうか。
皆さんもぜひ、実際の和綴じ本に触れてみてください。

トウキョウワホン 基本情報

企業名: 株式会社エー・ディー・ピー「トウキョウワホン」
住所: 130-0014 東京都墨田区亀沢2-15-9
営業時間: 9:00-18:00 
定休日: 土日祝日休
公式webサイト: https://wahon.tokyo/

書いた人

日本文化や美術を中心に、興味があちこちにありすぎたため、何者にもなれなかった代わりに行動力だけはある。展示施設にて来館者への解説に励んだり、ゲームのシナリオを書いたりと落ち着かない動きを取るが、本人は「より大勢の人と楽しいことを共有したいだけだ」と主張する。