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読み物
Craft
2020.04.05

金粉を使ったパインアメ扇子も作れちゃう!1000年続く伝統技法「蒔絵」の小物オーダーが今アツイ!

この記事を書いた人

「パ、パインアメが…扇子に…蒔絵になっている…?」
ツイッターのタイムラインを眺めていたら飛び込んできた扇子の写真。
お馴染みの黄色いアメちゃん、パインアメが扇面と親骨に描かれているではありませんか…!

ツイートの主はパインアメの公式ツイッターの中のひと、係長マッキーさん。
親骨のパインアメは「蒔絵(まきえ)」で描かれたもの。社長の私物で、特注品だそうです。

蒔絵は漆を使った加飾の技法。8世紀頃、日本で生まれた技術といわれています。
日本生まれのスゴい伝統技法を使った特注品。これって、社長クラスのセレブじゃないと手に入れられないものなんでしょうか…?
もし、あんな図柄、こんなデザインでオーダーできるとしたら。手に入れられるとしたら。ちょっとときめきませんか? できるんですよ!

「パインアメ蒔絵扇子」誕生エピソード

見せられびっくり、リアルなパインアメ蒔絵

社長の「パインアメ蒔絵扇子」をツイッターで紹介されていた係長マッキーさんに、お話を伺うことができました。

――社長の扇子、とってもすてきですね! ツイッターにも「すごい! 欲しい!」というリプライがたくさんありました。マッキーさんはどういういきさつでこの扇子をご覧になったのですか?

係長マッキーさん(以下マ):先日、とあるところで社長の講演会があったのですが、その待ち時間に見せていただきました。
扇子の扇面にパインアメが描かれているのだろうなと想像していたのですが、まさか親骨にまで蒔絵が施されているとは思わず、とても驚きました。しかも、開封した個包装の細やかな表現など、とても素晴らしい出来栄えに「えええ!? 何ですかこれは!!! すごいです!!!」と感嘆の声を上げてしまいました。

パインアメは金粉、袋はプラチナ粉が蒔かれているそう

「冗談から駒」でできた特注扇子

――本物の蒔絵の迫力と、個包装からパインアメが顔を出す図案のかわいさの組み合わせがとても魅力的です。個包装の「プラ」表示など、細かなところまで蒔絵で再現されていてすごい! 誕生のいきさつなど、社長からお聞きになりましたか?

マ:社長は関西にいらっしゃったお客様に(筆者注:パイン株式会社の本社は大阪にあります)扇子をプレゼントすることがあるそうなんです。
それを依頼している親しい扇子店に「パインアメをモチーフに扇子を作ったらどうだろう」と相談したところ、それは面白い、ということになったそうです。
社長曰く、「瓢箪から駒」ならぬ「冗談から駒」だったとのこと。
扇子を広げながら、ニコニコと満足気な様子でした。

――社長のお人柄が伝わってくる楽しいエピソードですね。貴重なものを見せていただいて眼福でした。係長マッキーさん、ありがとうございました。

社長は「黄色いもの」や「パイナップルをイメージさせるもの」をコレクションしていて、この扇子もそのひとつなのだそう

うーん、かわいい。これは欲しくなります!

「蒔絵」は、日本生まれの加飾技法

平安時代には流行。歴史が長すぎる

蒔絵は、漆塗りの地の上に漆で絵や模様を描き、そこに金や銀などの粉を蒔きつける加飾の技法です。

蒔絵のルーツは、奈良時代に生まれた「末金縷(まつきんる)」と呼ばれるもの。この末金縷は漆の地に金銀の粉を散りばめたようなもので、正倉院におさめられている宝物の装飾にも見ることができます。
この末金縷が変化し、蒔絵という技法になります。
金属粉を蒔き付けたあと、漆を塗り重ねて表面を研いでなめらかにする「研出(とぎだし)蒔絵」は平安時代初期には完成し、流行していたといいます。その後も蒔絵は時代の影響を受けながら発展し続け、「平蒔絵」「高蒔絵」「肉合(ししあい)蒔絵」…など、さまざまなバリエーションが生まれていきます。

尾形光琳作 八橋蒔絵螺鈿硯箱(国宝) 江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵
出典:国立博物館所蔵品統合検索システム(https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/H-86?locale=ja

実は我々にも手が届く、現代の蒔絵

美術館のガラス越しに見る文化財だったり、旧家などで特別な時だけに使われる漆器だったり、やはり蒔絵って我々にとって「遠くから眺める、手の届かぬもの」なのでは…?
いいえ。
決してそういうわけではなく、日本の蒔絵はいま、若い世代の職人の活躍と、情報発信手段の進歩によって手の届くところにも「ある」んです。

蒔絵師さんにオーダー事情をお聞きしました

どんな絵でも蒔絵にしちゃいたい!

こちら、「ナマケモノ蒔絵」。

この特注品を制作した、蒔絵師の伯兆(はくちょう)さんにお話を伺いました。

――楽しい図柄の蒔絵ですね。

伯兆さん(以下伯):ナマケモノとカメラの好きなお父さんへのサプライズプレゼントとして、ご家族からオーダーがありました。ご希望を聞いて、図案を起こし、メールでやりとりをしながら仕上げていきました。
ナマケモノの体の部分には平目粉という種類の金粉を蒔いています。お尻の方は紛を多めに蒔いて、腕にいくにつれて少なくして…と変化をつけてあります。
カメラのレンズと、左上の花の部分は漆で貝を貼る「螺鈿(らでん)」という技法を使っています。

――蒔絵のもの、と聞くと昔のお姫様が愛用した調度品や古典的な図柄が描かれた漆器などを想像してしまいます。今の暮らしには馴染まない別世界のものという印象なのですが、こんなかわいい蒔絵も「あり」なんですね!

伯:基本、私はどんな絵も蒔絵にしますよ〜。シロアリとか心臓とかも蒔絵にした事ありますから(笑)

制作途中の心臓の蒔絵。蒔絵と螺鈿を合わせた「螺鈿蒔絵」が伯兆さんの得意とする作風

――ぱっと見、イチゴのようにも見え、かわいくて、それでいて貝のキラキラが心臓の鼓動のようにも感じられます。どんなふうに仕上がるのか、完成品も見てみたいです…!
古くからある技法だから図案も、出来上がるものも古典的、という先入観を持つのは大きな間違いなのですね。

贈り物用が多い、個人からの蒔絵オーダー

――「パインアメ蒔絵扇子」を見て、自分だけのオリジナルな蒔絵をオーダーすることができたらすごくステキなんじゃないかと思ったんですけど、お願いすることができるんですね。

伯:私の場合、ショップからの定番商品の注文が7、個人からのオーダーが3ってところでしょうか。ショップから一点ものの依頼を受けて、デザインを立ち上げることもあります。
個人からのオーダーはいちからデザインすることも、定番商品をアレンジすることもあります。手作業の一点ものですから、自由度は高いです。

――どのような用途での特注が多いですか?

伯:贈り物用が多いです。香合(こうごう・蓋付きの小さな容器で、もとは香を収納するもの)を出産祝いで臍(へそ)の緒入れとして注文されたり。亡くなったペットのヒゲや爪を入れておくって方もいらっしゃいました。

伯兆さんの定番デザイン、バンビ柄の香合。定番のものに名前を入れるセミオーダーも可能

ありえない図案もオーダーならできる

――印象深いご依頼があったら、ぜひ教えてください。

伯:一番印象に残っているのは「ミミズ」のオーダーなのですが。

――ミミズ!

伯:改めて図案を見てみたのですが、一般的ではないなぁ~と実感しました。妹思いのお姉さまが、ミミズを愛する妹さんのためにオーダーしてくださったんですけどね。

――般的にありえない絵柄が実現するなんて、特注ならではですね。ご本人にとってはまさに宝物。

伯:小学6年生の女の子からのオーダーも印象深いです。中学入学を機に、それまで続けていたバレエをやめるとのこと。そこでバレリーナのマトリョーシカを注文してくれたんです。
最初のメールや代金の支払いはお母さまでしたが、デザインの打ち合わせはご本人とお手紙で。
ゆっくり進むやりとりがなんだか楽しかったな~。
私の作る蒔絵が小さな女の子にも愛らしく見えるんだと嬉しくなったものです。

こちらは別デザインのマトリョーシカ

――バレリーナのマトリョーシカ、依頼人の女の子にとっては生涯のお守りのような存在になっているかもしれませんね。
蒔絵のオーダーって一般的ではないというか、かなり特別なことだと思うのですが、どこからお話がくることが多いのですか?

伯:皆さんインターネットからきてくださっていると思います。

ネットがあるから、伝統工芸が身近になる

――そうか、今や気になるモノは検索して、気軽にアクセスができる時代ですもんね。個人的な感覚で恐縮なんですけど、蒔絵師に限らず漆芸に関わる職人さんというと「この道何十年といった年配の男性」といったイメージが強いのですが、伯兆さんのような若い蒔絵師の方は多くいらっしゃるのでしょうか?

伯:私が独り立ちをして蒔絵屋サイトを始めた2004年頃は、蒔絵にたずさわる方をインターネット上でお見かけすることは殆どありませんでした、が、今は違います。「蒔絵」「漆」に関係する若い方、男女関係なくネット上でお見かけします。
以前は情報を発信することなくお仕事をされている年配の方が多かったのではないのでしょうか。
今は気軽にネットで情報を発信できますからね。それもあって以前より若い方が蒔絵に興味を持ってくれている感じはします。

――ネットの普及が伝統工芸を「一部のひとのもの」ではなくしているって、すごくいいですね!
伯兆さんはウェブサイトに注文方法や手順、価格の目安などを掲載されていますが、オーダーちょっと興味あるな、と思った方に、問い合わせの際のアドバイスなどありましたらぜひ。

伯:とりあえず気負わず気軽にメールください。
図案のやりとり中に「う~ん、なんか違う」「オーダー止めたい」と思ったら断ってくださって大丈夫ですので。

――ありがとうございました。これからもいろいろな方の思いをステキな蒔絵にしてくださいね!

これは螺鈿の「貝置き」。漆を塗り、硬化しないうちに貝を並べて貼っていく繊細な作業。

千年以上続く蒔絵を家宝に、そして次世代に

香合や根付、帯留め、ブローチ、トレイなど。
なにかをやりとげた自分へのご褒美に、家族や大切なひとの記念の日に、平安の世から続く蒔絵をあしらった小物をオーダー。その図柄は世界にひとつのオリジナル。
大切に受け継いでいけば、後の世でもどこかでキラリと輝いて、誰かの心を癒してくれることでしょう。
この方は…と思う蒔絵師に出会ったら、欲しいと思う図柄を思いついたら、アクセスしてみませんか?
「わたしの宝物を作ってくださ〜い!」

取材協力・画像提供

係長 マッキー(パイン株式会社)

パイン株式会社公式ツイッターの中のひと。フォロワーは13万人以上。
著書に「攻めるロングセラー」(クロスメディア・パブリッシング)。

公式サイト:http://www.pine.co.jp
パイン ネットショップ:https://pineame.net
公式twitter:@pain_ame

蒔絵師 伯兆

1972年 茨城県生まれ
1993年 女子美術短期大学造形科生活デザイン教室卒業。
同年、父でもある蒔絵師「一径」に師事、修行10年目に「伯兆」の号を賜る。
現在は愛知県豊川市在住。子育てをしながら製作活動を行う。

公式サイト「蒔絵屋」:http://makieya.com/
公式instagram:@makieya_hakuchou

書いた人

古墳のまちに住む、昭和生まれの関西人。割れてしまった陶器を自分で直したいと金継ぎを学べる漆芸教室に駆け込み、「漆の世界」にはまってもうすぐ8年。家族が器を割ったとき、「大丈夫、おかーさんが直したる」とおおらかに言えることがうれしい。とか言いつつ、いちばん割っているのは自分かもしれない。