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2017.07.12

富士山絵の天才・横山大観の代表的な富士山絵13点を解説

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「大観と言えば富士山絵」と言われるほどに、生涯に亘って数多くの富士図を描いたのが近代日本画の巨匠・横山大観(よこやまたいかん)でした。その数はおよそ1500点以上! 近代日本画壇において最も有名な画家と言っても過言ではありません。そんな大観の描いた富士の作品のうち、今回島根県安来市の足立美術館に所蔵されている富士山絵の一部をご紹介します。

大観美術館とも呼ばれる、富士山絵のコレクション

島根県安来市の足立美術館では、大観の初期から晩年に至るまでの作品が120点余りも所蔵され、別名「大観美術館」とも呼ばれるほどにコレクションが充実しています。それは偏に、この美術館の創設者である足立全康(あだちぜんこう)の「日本の美」に対する熱い想いが結実した故の成り行きでした。

横山大観横山大観

足立は美術館の創設当初より「名園と横山大観コレクションの調和」、すなわち日本庭園と日本画のコラボレーションによる日本美の探求を基本方針としてきました。それは、「日本人ならだれでもわかる日本庭園をつくって四季の美を体験してもらい、その感動のままに、日本人なら知らない者がいないほど有名な横山大観という画家の作品に接することで、日本画の魅力を理解してもらいたい」という彼の強い願いがあってのことでした。
 
戦後、繊維業で財を成した足立全康は、それまで美術とはまったく無縁の生活を送っていました。しかし、あるとき大阪の古美術商で横山大観の「蓬萊山」という作品に衝撃を受け、「いつの日かきっと大観の絵を買うぞ」と心に誓ったのだそうです。
 
後に、「大観の偉大さは着想と表現力の素晴らしさ。常に新しいものに挑戦し我がものとした、旺盛な求道精神が作品に迫力と深みを生んでいる」と語った足立全康。そんな彼の壮大な日本画コレクションの発露は、若き日の大観作品との邂逅にありました。だからこそ彼はその全心血を大観作品の蒐集に注ぎ込み、足立美術館には質量ともに日本屈指の大観作品が収蔵されることとなったのです。

富士山絵の天才、横山大観の富士13点を一挙ご紹介!

横山大観と足立美術館の秘密を知ったところで、早速足立美術館に所蔵されている大観の富士をみてみましょう。

富士山絵1. 足立美術館所蔵の富士山作品では最古「夏之不二」

39夏之不二KTZ額装 絹本彩色 48.8×71.7㎝ 大正9年(1920)足立美術館蔵

群青による明快な色彩と雲間に山頂が浮かぶ大胆な構図が印象的な本作は、琳派風の装飾性を感じさせます。日本画の技法と作風の伝統を正統に受け継いだ横山大観らしさに溢れた一作。

富士山絵2.唯一の六曲一双屛風の富士「神州第一峰」

スクリーンショット 2017-07-07 9.54.48六曲一双 紙本彩色各164.0×361.0㎝昭和7年(1932)

神々しくも勇壮な景観が広がるこの作品は、足立美術館が所蔵する大観の富士の中で唯一の屛風絵。昭和に入ると日輪(太陽)を配した雲中富士を数多く手がけるようになりました。

富士山絵3.金泥の霞に浮かぶ皇居と富士「千代田城」

DMA-ARXJ41一幅 絹本墨画金彩 60.7×83.6㎝ 昭和9年(1934)

墨の濃淡のみで二重橋方面から皇居を描いた一作。雲や霞に金泥を用いることで厳かな雰囲気を醸し出しています。画面の手前に見える銅像は、現在も皇居前広場にある楠木正成(くすのきまさしげ)像。

富士山絵4.画業50年の年に描いた特別な一枚「霊峰四趣・夏」

DMA-ARXJ51額装 紙本彩色75.2×110.7㎝ 昭和15年(1940)

大観が東京美術学校を卒業してちょうど50年に当たり、それを記念して大観が全精魂を込めて作画した、山十題、海十題の二十幅、通称「山海二十題(さんかいにじゅうだい)」の中の一枚。

富士山絵5.純白の山肌と日輪の赤が印象的「乾坤輝く」

ARXJ52一幅 紙本彩色 80.3×115.5㎝昭和15年(1940)

こちらも「山海二十題」のうちの一点。この年は、紀元2600年に当たっており、国を挙げてこれを祝す年に相応しいように、霊峰と旭日(きょくじつ)という日本の最も象徴的なモチーフを描きました。

富士山絵6.新たな日本の夜明けを想起させる「雨霽る」

ARXJ53一幅 紙本墨画81.2×114.3㎝昭和15年(1940)

同じく「山海二十題」の中の一作。降雨の後に晴れ渡る風景を描いた本作もまた、紀元2600年という奉祝を意識したものとされ、大観の水墨作品の中でも屈指の傑作とされています。

富士山絵7.長らく行方不明だった名作「龍躍る」

ARXJ54一幅 紙本墨画金彩81.0×119.5㎝ 昭和15年(1940)

足立美術館が所蔵する「山海二十題」全8点のうち、「山十題」4点の中で最近になってコレクションされた一点。60年以上に亘り行方不明だったが、2002年に現存が確認されました。

富士山絵8.大観お得意の松の向こうに富士山 「不二霊峰」

dma-p013-065額装 絹本彩色63.0×86.4㎝ 昭和16年(1941)

手前の松林の奥に煙のように棚引く雲が描かれ、神々しく聳える富士山との高低遠近の対比を効果的に演出。富士の稜線が比較的薄墨で表されているところも本作の特徴。

富士山絵9.大観の精神主義が見え隠れする「神国日本」

DMA-ARXJ61額装 紙本彩色74.8×111.5㎝昭和17年(1942)

帝国主義による戦争の道を邁進する日本に歩調を合わせるかのように、大観も国粋主義的な方向性を強めていったと言います。これはそれを象徴する一作で、海軍工作学校に寄贈されたもの。

富士山絵10.こちらの山頂も伝統の三峰形「霊峰不二」

DMA-ARXJ68額装 絹本彩色35.4×43.1㎝昭和19年(1944)

先の「龍躍る」にも見られるが、こちらの山頂も室町時代以降に定着したとされている「三峰形」で描かれています。大観お得意の旭日と雪を頂く富士の姿がことさら印象的。

富士山絵11.想像上の神山とともに「蓬萊山」

ARXJ75一幅 絹本彩色60.2×79.8㎝昭和23年(1948)

蓬萊山は仙人が住み、不老不死の地と考えられていた理想の山。古来画家たちが好んで描いた画題であり、本作では蓬萊山を富士に置き換て描くことで日本を仙境に喩えています。

富士山絵12.後光が射した神々しい富士「乾坤輝く」

ARXJ83額装 絹本彩色71.0×88.0㎝昭和28年(1953)

富士の山体からは七筋の光が放たれ、その霊峰の前を同じく七羽の瑞鳥(すいちょう)・鶴が飛ぶという神々しさ満点の一作。日本を象徴する霊山を描き続けた大観らしい名作中の名作です。

富士山絵13.米寿を迎えた大観が描いた清々しい富士「霊峰夏不二」

ARXJ84一幅 絹本彩色 55.8×72.0㎝昭和30年(1955)足立美術館蔵

大観が数えで88歳を迎えた年に描いた富士。画壇の最高位に君臨した大家の米寿であり、祝賀会や回顧展が開催されるなど多忙を極めたが、作画の手を緩めることは決してなかったと言います。