伊藤若冲の「動植綵絵」は、鶏に代表される鳥たちを筆頭にさまざまな動植物、さらには魚や貝までもが描かれた全三十幅からなる花鳥画の大作です。若冲が慈しみをもって画面狭しと描写したこの生命の讃歌は、彼の卓越した技量と画材に対する飽くなき探究心によって生み出された奇跡そのものです。ここでは、畢生の大作をもたらした若冲の超絶技巧7選をご紹介します。
白という色へのこだわり、裏彩色も多用した雪の表現
伊藤若冲「雪中錦鶏図」一幅 絹本着色 142.3×79.5㎝ 宝暦11(1761)〜明和2(1765)年ごろ 宮内庁三の丸尚蔵館/中国やチベットの山地に生息するという錦鶏の雌雄を描いたこの絵の最大の特徴は、幻想的な世界を演出する湿った雪の表現。鳥類を描く際に多用している裏彩色は、この極彩色の錦鶏には用いていないことがわかっている。それにしても、粘り気を感じさせる濃厚なまでの雪の表現に若冲はどんな想いを込めたのだろうか
金を用いず、光り輝く鳳凰の華麗な羽根を描ききる神技
伊藤若冲「老松白鳳図」一幅 絹本着色 141.8×79.7㎝ 明和2〜3(1765〜1766)年ごろ 宮内庁三の丸尚蔵館/老松の上で、旭日を仰ぎ見るように片脚で立つ鳳凰が描かれた本作は、「動植綵絵」の中でも最後期の作とされる。レースのように美しい鳳凰の白い羽には、若冲マジックの極みとも言える裏彩色が多用されている
影を描いて光を創出するという、若冲ならではのパラドックス
伊藤若冲「梅花皓月図」一幅 絹本着色 142.3×79.7㎝ 宝暦7〜10(1757〜1760)年ごろ 宮内庁三の丸尚蔵館/とてもこの世のものとは思えない形態の幹と枝が奇怪な印象を与えるが、細部に目をやれば墨による効果的な陰影や、超絶リアルなモチーフの描写が冴え渡る。これぞ若冲着色画の醍醐味と呼ぶべき作品のひとつ
モダンアートもびっくりの色彩と形態がきわ立つ構成の妙
伊藤若冲「群鶏図」一幅 絹本着色 142.6×79.7㎝ 宝暦11(1761)〜明和2(1765)年ごろ 宮内庁三の丸尚蔵館/「若冲と言えば鶏」というくらいに数多くの鶏の絵を描いているが、これほどの群像表現は本作にしか見られない。極彩色の羽が織り成す、モダンアートもびっくりな表現は、若冲ならではの才知と類い稀なる高い構成力を感じさせる
これぞ超絶技巧の極み!没骨法による驚異の筆さばき
伊藤若冲「老松孔雀図」一幅 絹本着色 142.9×79.6㎝ 宝暦7〜10(1757〜1760)年ごろ 宮内庁三の丸尚蔵館/古来、孔雀は毒蛇を食べ、恵みの雨をもたらす瑞鳥とされており、吉祥画題として盛んに描かれてきた。本図は「老松白鳳図」と対を成す作品とも見なされ、白い孔雀として描くことで格式ある作品に位置づけられる
琳派を思わせる装飾性とありのままの自然が生んだ傑作
伊藤若冲「菊花流水図」一幅 絹本着色 142.7×79.1㎝ 明和2〜3(1765〜1766)年ごろ 宮内庁三の丸尚蔵館/琳派を思わせる装飾的な流水と、無重力空間に浮かんだような大輪の白い菊の花が一種独特の世界を成した傑作。尾形光琳の小袖の図案に着想を得たとも言われている。奇怪な形をした岩は何を意味するのかと、想像するだけでも愉しい
生きとし生けるものへの真摯な眼差しが色彩に対する強い思い入れを生んだ
伊藤若冲「群魚図(鯛)」一幅 絹本着色 142.3×78.9㎝ 明和2〜3(1765〜1766)年ごろ 宮内庁三の丸尚蔵館/まるで魚屋の店先に並べられたかのように描かれたさまざまな種類の魚たち。花鳥画というよりはどこか博物画のようにも見える本作は、蛸を中心とした同名・同図様のものがもうひとつある。博物学が隆盛した18世紀を象徴する一作でもある