『和樂』および『和樂web』の会員組織「茶炉音(サロン)・ド・和樂」のメンバーを対象とした特別イベント「“革新者から巨匠へ” 円山応挙展とA.ランゲ&ゾーネのクラフツマンシップを堪能するナイトミュージアム」が先ごろ開催されました。
小学館と三井記念美術館が共催し、A.ランゲ&ゾーネが協賛して実現したこのイベントには、抽選で選ばれた10組20名が参加しました。優美で精緻にして革新的な江戸絵画と、ドイツの高級機械式時計という、超絶技巧尽くしの一夜をレポートします。
日本橋に夜の帳が下りる頃、静寂の美の殿堂へ

東京・日本橋室町にそびえる、古代ローマ風の列柱が目を引く壮麗な建物。ここ三井本館は、昭和初期の重厚な洋風建築として国の重要文化財に指定されています。今回のイベントは、その最上階の三井記念美術館で開催されました。
三井グループは戦前、三井財閥として実業界に君臨し、その源流は江戸時代の豪商・三井家に遡ります。約350年に及ぶ長い歴史の中で代々の当主らが日本美術の名品を収集して守り伝え、国宝6点、重要文化財75点、重要美術品4点を含む、約4000点の所蔵品を誇る美の殿堂です。
今回のナイトミュージアムは、特別展「円山応挙一革新者から巨匠へ」(11/24に閉幕)のエントランスからスタートしました。A.ランゲ&ゾーネの精緻なクリエイションを捉えた映像が流れるなか、シャンパンが振る舞われ、これから始まるスペシャルな一夜への期待が高まります。

オープニングでは、和樂webの鈴木深 前編集長/総合統括、『和樂』の鈴木智恵 編集長、本展覧会を監修した山下裕二氏(明治学院大学教授)、そして三井記念美術館の藤原幹大学芸員がご挨拶しました。そしていよいよ会場へ。山下氏による特別解説が始まります。
山下氏といえば、『和樂』創刊以来、幾多の特集記事を監修し、現在は、明治工芸の超絶技巧に迫る連載記事でもおなじみ。2000年以降の伊藤若冲ブームの立役者のひとりとしても知られますが、「近頃の若冲人気に押されて影が薄くなっている円山応挙を、今こそ応援したい」とユーモアたっぷりに語ります。その思いを礎に、応挙の大パトロンであった三井家の至宝を擁する三井記念美術館の開館20周年にあたる今年、応挙の画業を辿る本展覧会が実現したのです。
ユーモアと深い洞察が光る山下氏の解説で、応挙芸術を堪能
花や動物などを写生して本物のように描いた応挙の絵は、現代人にとっては違和感のないものですが、18世紀当時の日本人の目には、非常に斬新に映りました。今に喩えるなら3Dやヴァーチャル・リアリティーのような革新性を放っていたのです。その画風は瞬く間に京都画壇を席巻し、当代随一の人気画家となって多くの弟子に慕われました。山下氏は、「応挙が、写生に基づいて描くという、偉大な“型” を生み出したからこそ、伊藤若冲や曽我蕭白といった“型破り”な絵師たちが生まれていったのです」と語ります。

本展に足を踏み入れると、最初に広がる展示室は、昭和初期に作られた三井本館の内装を今に残す貴重な空間です。三井財閥の重役らが食事をとったという当時の情景にも思いを馳せながら、応挙の画業を辿る旅が幕を開けました。応挙が親交を結んだ三井家北家4代目当主・三井高美の裸の後ろ姿を描いたとも伝わる洒脱な墨絵《夕涼み図》の前では、山下氏の解説がいっそう軽妙になり、参加者も自然と笑みがこぼれます。

続く第二展示室は、三井記念美術館が誇る国宝《志野茶碗 銘 卯花墻》の展示に使われることが多い特別な小部屋。本展では、三井高美の一周忌に応挙が手向けの花として描いた《水仙図》のみを堪能できる贅沢な空間となっていました。応挙の心がこもる、美しく清らかな水仙に目を奪われます。

代表作、国宝、そして新発見…応挙畢生の名作が目白押し



本展の目玉作品のひとつは、応挙50代半ばの大仕事、香川の金刀比羅宮・表書院の襖絵のうち《遊虎図》です。江戸時代当時、野生の虎がいない日本で絵師が参考にしていたという虎の毛皮を大胆に描いた屛風と並べた、粋な展示構成で、かの有名な「水飲みの虎」にも目を奪われます。山下氏が、「虎のなかに一匹、ヒョウが混じっています。江戸時代の人々は、ヒョウは虎のメスだと思っていたのです。よく見ると、女の子のような顔立ちでかわいいですね。マスカラを塗っているようにも見えます」と解説すると、参加者の穏やかな笑い声が広がりました。

その隣は、三井記念美術館が誇る、応挙作品唯一の国宝《雪松図屛風》です。松の枝に積もった雪を、和紙の白色をそのまま残すことで表現した、まさに超絶技巧。この屛風の前に立つと、陽光きらめく雪景色に包まれるようです。山下氏は、「和紙が白いままに今に残っていること、そして紙を継いだ跡がなく、大きな一枚の和紙に描いていることを考えると、応挙は三井家の注文を受け、高品質の和紙を特注して描いたと考えられます。三井家ではこの屛風をお正月に飾って新年を寿いだのでしょう」と語りました。

そして、来館者に最も人気が高いという《雪柳狗子図》の前では、参加者の眼差しも和みます。応挙が描いた、ころころ、ふわふわの子犬たちは江戸時代当時から大人気でした。

本展の最後を飾るのは、2024年に山下氏が確認して見いだされた、若冲と応挙による合作《竹鶏図屛風》《梅鯉図屛風》です。この天才二人の合作は、それまでほぼ誰も想像し得なかった大発見であり、メディアでも大きく取り上げられました。
山下氏の作品解説にもいっそう熱がこもります。「若冲は応挙にとって17歳年上の尊敬する先輩画家であり、一方、若冲も、当時随一の人気を誇っていた応挙を認めていたのでしょう。応挙の方が幾分控えめに描いています。泳ぐ鯉も、梅の枝ぶりも、鑑賞者の視線を左へと導く構図で描いており、先輩である若冲を立てようという意識が感じられます。それを受けて若冲は、鶏の尾羽など、思いきりよく描いたのでしょう。この合作の注文主は、それぞれが最も得意とする画題を発注したのだろうと想像できます」

こうして山下氏による贅沢で充実した作品解説が幕を閉じ、参加者は、今度は自分の心ゆくまで作品と向き合う、静謐なナイトミュージアムを堪能しました。三井記念美術館の藤原幹大学芸員から直接解説を受けることもでき、和やかな時間が流れていました。

時計ファン垂涎の名品に触れるプレシャスな時間

その後、特別応接室へと移動し、ドイツの高級機械式時計A.ランゲ&ゾーネの名品に触れる、ラグジュアリーなひとときが始まります。A.ランゲ&ゾーネは、フェルディナント・アドルフ・ランゲが1845年にドイツ・グラスヒュッテに創業した時計工房を始まりとし、ドイツ統一後に4代目のウォルター・ランゲによって復興されました。その長い歴史のなかで開発された数々の超絶技巧を結集した驚くべきクリエイションは、知れば知るほど驚嘆するばかり。その奥深さこそ、世界中の人々をときめかせ続ける、「世界五大時計」の一つたる所以です。参加者は、世界最高峰の時計を実際に手に取る、貴重な機会を堪能しました。

女性の手首にもフィットする華麗で洗練された佇まいに、新開発の手巻きムーブメントの機能性を兼ね備えた「1815」。メゾンのアイコンである大きな日付表示を含む独創的なデザインに、微細な波模様が優雅に調和する「リトル・ランゲ1・ムーンフェイズ」。そして、深い青色の紫金石が神秘的に輝く「サクソニア・フラッハ」など、それぞれに魅力は尽きません。

いずれもそっと裏返すと、創業者が開発した「4分の3プレート」が現われ、その計算し尽くされた小宇宙に再び心奪われます。機械では実現不可能な、手作業による美しさを極めたフォルムであり、「職人ごとにエングレーヴィングの仕上がりに特徴があるため、時計の裏を見れば、どの職人が手がけたのかわかる」という説明に、参加者から感嘆の声が上がりました。

この心満たされるひとときを、シャンパーニュの世界最高峰に立つメゾン、ルイ・ロデレールのシャンパンと、和牛のタルタルとキャビアを始めとするアミューズ皿が彩りました。

「“革新者から巨匠へ” 円山応挙展とA.ランゲ&ゾーネのクラフツマンシップを堪能するナイトミュージアム」は、人間の手が生み出してきた繊細で美しく、時代を超えて愛される名宝を存分に楽しむスペシャルな一夜となりました。これからも『和樂』および『和樂web』は、「茶炉音(サロン)・ド・和樂」の皆さまと共に、伝統と革新が交錯する日本文化の魅力を発信し続けます。今後のイベントにもぜひご期待ください。
「茶炉音・ド・和樂」のご案内
『和樂』と『和樂web』では、今後も読者の方にお楽しみいただける、スペシャルなイベントを計画しています。
このような特別な企画、プレゼントのご案内は「茶炉音(サロン)・ド・和樂」ご登録のみなさまへお届けします。ぜひお気軽にご参加ください!
基本情報
三井記念美術館
東京都中央区日本橋室町2丁目1−1 三井本館 7階
公式ウェブサイト:https://www.mitsui-museum.jp/

