Craft
2017.06.26

老舗の技が食を豊かにする!今こそ使いたい日用品の白眉

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日本にはあまたの「老舗」とよばれる店があります。重ね続けた歴史の重みが、名品を生み、日本の文化を生み出しています。

驚きの技とセンスを磨き続けた老舗だからこそ到達できた、時代を超えて愛されるものづくりの境地を、今回は日用品にスポットライトを当てご紹介します。

灘の美酒にも必須の吉野杉の樽の風格

たるや竹十 創業1819年

DMA-和楽001漬物樽27型(押しフタ付き)【直径30×高さ27㎝、木の厚み155㎝、容量9ℓ】。ほかに18ℓタイプもある。オーダーメイドのため注文から完成まで約1週間程度。

灘五郷(なだごごう)の樽(たる)店から届く小さな漬物樽は吉野の山の清々しい香りを放ち、食材がおいしく漬かることを自ずと物語ります。材は、木目よし香りよしの奈良県吉野郡川上村の吉野杉。川上村は、江戸時代から明治時代に、灘の旨酒(うまさけ)を醸す酒樽の材の名産地として庇護(ひご)されてきました。そのなかでも樽になるのは、明治から大正時代の人々が植林した100年モノです。逞(たくま)しく育ち年輪が詰まった材だからこそ、発酵中に野菜から染み出る余分な水分を空気中に自然に放出させ、逆に新鮮な空気を取り込んで、健全な発酵を助けてくれるのです。
 
樽の胴をぐるりと締める箍(たが)には、酷寒の時期に山から切り出した真竹(まだけ)が使われています。これは樽づくりのなかでも最も過酷な作業。竹林の奥深く、周囲の竹に守られて育ち、虫がついていないものが選ばれています。そのため、年月が経っても虫に喰われることもなく、何十年と使い続けることができます。珠玉の素材で、樽を仕立てていると言えるでしょう。「たるや竹十」は1819(文政2)年の創業以来、樽ひと筋です。酒樽づくりの最盛期は20数名の職人を抱える大所帯でしたが、現在は3名。「未熟者で25年、もうひとりはこの道50年。私は40年です」と代表の西北八島(にしきたやしま)さん。江戸時代から伝承される技を使い、化学的な接着剤などは一切なしに完成する姿は凜々しく、ホウロウやプラスチック容器とは異なる発酵の場を家庭で叶えられます。現代の食生活に一石を投じる逸品です。

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まろやかな味わいを生む鎚起銅器(ついきどうき)の底力

玉川堂 創業1816年

DMA-和楽002鍋の肌やつまみなど細部まで、鎚目が味わい深い。こうした表情は、職人が鎚目に強弱をつけることで、つくられる。平形両手鍋(ひらがたりょうてなべ)荒ら肌(あらはだ)【胴高(どうだか)95×径240㎜、容量4ℓ】

江戸時代以来、職人たちが銅を叩く鎚音(つちおと)が続いてきた土地、新潟・燕三条(つばめさんじょう)で、優れた銅器を世界中へ送り出しているのが玉川堂(ぎょくせんどう)です。一枚の銅板を、ひとりの職人が鎚で叩く工程を重ねることで、このようなたっぷりとした鍋が立体的になるのですから、彼らの設計図とそれを形にする仕事の確かさに、驚嘆の念すら起こされます。この鍋は、同社で30数年つくられている息の長いデザインです。安定感のあるフォルムに、なめらかな持ち手が扱いやすい。整形されたての鍋は明るい10円玉の色をしています。そこに錫(すず)を焼きつけて磨いたり、硫黄(いおう)の成分の溶液に浸すなど複雑な工程を経ることで、このような深みのある色を実現させています。銅は水をまろやかにするとはよく言われますが、この鍋は煮込み料理などで具材に均等に火を行き渡らせ、煮崩れさせずおいしくなります。野菜などは色鮮やかに仕上がるため、鍋蓋ぶたを開けるときはまさに鍋に秘められた底力を実感するときです。

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山桜の優美な肌を出す樺細工職人の妙技

藤木伝四郎商店 創業1851年

DMA-和楽003シンプルなフォルムで長く愛用でき、使うほど艶が深まる。左 素筒 茶筒(大) 無地皮【径82×高さ122㎜】 右 素筒 茶筒(平) 霜降皮【径82×高さ93㎜】

山里に育つ山桜は樹皮【樺かば】の美しさも愛でられ、古くは正倉院(しょうそういん)にも樺を巻いた尺八などが残されています。陸奥(みちのく)の小京都、角館(かくのだて)で藤木伝四郎(ふじきでんしろう)商店が手がける樺細工の茶筒は、東北の厳しい風土で育った山桜の優美さを表していて、はっとさせられます。
 
1851年以来、商いを続ける藤木伝四郎商店は、初代から4代目までは樺細工の職人衆から品物を仕入れて売る問屋として、やがて職人の減少を受けて、先代の5代目からは製造の機能をもつメーカーとして、インテリアから食器まで手がけ、伝統工芸の樺細工の魅力を伝えています。薄く剝(は)がした樹皮【桜は樹皮を剝いでもまた再生する】の表情を生かすのは職人の腕次第。表皮をごく薄くナイフで削り、磨いて優ゆう艶えんな紅色を表したのが無地皮(むじがわ)【写真左】、表皮の自然な風合いが見事なのが霜降皮(しもふりがわ)【写真右】。いずれも1年から数年の乾燥期間を経て、木型を使って整形されます。掌にのる一点に、東北の風土と手技が込められています。

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