Craftsmanship

2025.12.27

原点を見つめ、未来に繫ぐ。「ブルネロ クチネリ」の輪島塗に宿す思い

2024年の能登半島地震以降、さまざまな形で支援を続ける〝ブルネロ クチネリ〟。最近では、輪島塗の塗師(ぬし)・赤木明登(あかぎあきと)さんとのエキシビションを開催しています。伝統工芸とファッション、一見異なるジャンルに思えますが、深く掘り下げていくと、そのあり方や背景には、いくつもの共通点があるようです。

能登への思いを忘れずブランドが取り組んだこと

2024年元日に起きた、石川県の能登半島地震、そして同年9月の豪雨。未曽有の事態にイタリアブランド〝ブルネロ クチネリ〟は心を痛め、これまでさまざまな形で、支援を続けてきました。

白、グレー、黒の漆の鉢と尺皿が、空間に見事に調和して。「ブルネロ クチネリ表参道店」アートスペースで展示販売中(〜2026年1月31日)の赤木さんの作品。

地震があった年の夏、能登サポートプロジェクトとして最初に取り組んだのが、輪島の「岡垣(おかがき)漆器店 千舟堂(せんしゅうどう)」の製品の展示販売でした。「ブルネロ クチネリ表参道店」にあるアートスペースを提供し、震災前と直後に生み出された、さまざまな職人による輪島塗を展示。売り上げは、輪島塗職人の工房の再建資金にも使用されたといいます。また輪島で開催された、江戸時代から続く伝統行事「キリコ祭り」でのボランティア活動にも参加。「ブルネロ クチネリ ジャパン」代表取締役社長・宮川(みやかわ)ダビデさんをはじめ、スタッフ43名が現地を訪れ、祭りの中心となる重蔵(じゅうぞう)神社の整備や、地域の誇りである大神輿を担ぐなどして、輪島の人々との交流を深めました。

緑や小川といった自然に恵まれた、輪島の赤木明登さん(右)の工房にて。「ブルネロ クチネリ ジャパン」の宮川さん(左)は赤木さんの元へも赴き、能登の現状や輪島塗についての知見を深めたという。

そして2025年。プロジェクト第3弾として行われたのは、輪島塗の塗師・赤木明登さんとのスペシャルエキシビションです。この企画のために赤木さんが制作した特別な作品を、アートスペースにて展示。伝統工芸である輪島塗と、〝ブルネロ クチネリ〟が考えるものづくりのあり方に共通項を見出す、貴重な機会となりました。

伝統と分業が交差して美しい作品は生まれる

イタリアの小村、ソロメオに拠点を置く〝ブルネロ クチネリ〟。職人の伝統技術や継承に重きを置く「人間主義的経営」という理念は、奇しくも今回発表された赤木さんの作品に込められた輪島塗への思いと、共鳴する部分がいくつもありました。

イタリア・ソロメオ村の自然を守り、職人に尊厳をもたらす強い思いがブランドの根底に
1978年創業の〝ブルネロ クチネリ〟は、本社の移転先を創業者の妻の故郷であるイタリアの小さな村、ソロメオに。14世紀に建築された城を修復し、本社とした。また地域住民の雇用や古い建造物などの再建、劇場を中心としたアートフォーラムや景観を残すための公園をつくるなど、現在も村の再生に貢献。※本社は現在、2018年に村の平野部に整備・造園された公園内に移転。

展示がされたのは、鉢「verticale(垂直の)」と尺皿「orizzontale(水平の)」という、イタリア語の名がついた、ふたつの新作。それぞれが輪島塗の仕組みを象徴するものだと、赤木さんは語ります。「師匠から弟子へ、時代を超えて受け継がれる伝統を垂直とするなら、水平は職人たちの横の繫がりを指します。輪島塗は分業で完成する工芸。材料となる木を木地師(きじし)が削り、下地師(したじし)が漆を塗り重ね、研物師(とぎものし)が形を整えていく。そして上塗師(うわぬりし)が仕上げを施し、ときには加飾師(かしょくし)が装飾をして、ひとつの作品が生まれるのです。輪島塗という文化は、垂直(伝統)と水平(分業)が交差し、生まれていくものなんですね」

「ファッションもまた、伝統を大切にしながら、分業で行われる産業です」と、宮川さん。「デザイナーの発想をパタンナーが型紙に起こし、それを元に布を縫製する人がいる。だから赤木さんの思いには、深くうなずけるものがありました」

〝ブルネロ クチネリ〟が生み出す美しいものからは、「人の手」が感じられて。職人の尊厳や伝統の継承、後継者の育成も、ブランドの大きな軸に。

共通項はほかにも。震災後、職人の減少がますます加速している課題を解決するべく、赤木さんは後継者の育成を目的としたプロジェクトを設立。また現在は、輪島の街並みを取り戻す、復興プロジェクトにも取り組んでいるのだそうです。その姿は、かねてから〝ブルネロ クチネリ〟がソロメオ村の再生に尽力してきた、職人学校の開校や古い建造物の再建といった活動と大いに重なる部分が。このエキシビションが行われたのは、もはや運命だったのかもしれません。

宮川さん曰く「もちろん作品そのものも美しく、素晴らしいけれど、その向こうには職人の情熱や技術、時間といった、たくさんのものが込められている。単にひとつの〝もの〟としてでなく、展示を通して、その背景も見てほしいですね」。

托鉢で使われる器から着想を得て
垂直を表す鉢「verticale」。輪島の總持寺(そうじじ)の僧侶が托鉢(たくはつ)で使用する鉄鉢(てっぱつ)をモチーフに、この形が生まれた。「本来、器とは神事的な『捧げ持つ』ものとして生まれたと思うんです。食事をすることも、自然の恵みをいただくという行為。そういう原点を忘れてないかという意味も込めて、この形にしました」と、赤木さん。洗練された色と形が、輪島塗の可能性を映し出す。

美しい漆器に込められた繊細で卓越した職人技術

今回のプロジェクトは、宮川さん自らが輪島を訪れ、赤木さんに提案。当初は、以前に赤木さんが制作した作品を展示販売するだけの予定でしたが、赤木さんの発案により、新作を発表することになりました。

〝ブルネロ クチネリ〟の拠点であるソロメオ村にも通じる、静かな空間。木々のざわめきや小川のせせらぎが聞こえる森の中に、赤木さんの工房は佇む。赤木さんの作業場は2階にあり、最後の上塗りを行い、器が完成。

工房には、全国から集まったお弟子さんの姿も。20代から60代までと世代は幅広く、なかには女性の職人も。

「verticale」の木地。太陽の光が透ける様子に、どれだけ薄く挽かれているのかがわかる。

木地を手がけたのは、赤木さんが「世界一」と評する木地師・高田晴之さん。ろくろのスピードを足で調節しながら、木地が挽かれていく。木地はあえて乾燥させず、生木を使用したため、その技術はより高度なものが必要に。

白、グレー、黒の漆を使用するアイディアは、最初に赤木さんがアートスペースを訪ねた瞬間に湧いたそう。特にグレーは初の試みで、微妙な色調を何度も試作。ニュアンスのある優しいトーンが、〝ブルネロ クチネリ〟のムードを彷彿とさせます。

ヒノキアスナロのヘラを使って行う塗りの工程。

鉢「verticale」は、大きなイチョウの丸太を使用。厚さ約1・2㎜と木地をごく薄く挽いてあり、大きいものは直径40㎝ほどあるにもかかわらず、実際に手にするとかなり軽いことに驚きます。ミニマルな器の中には、輪島の職人たちの手の確かさ、繊細で卓越したクラフツマンシップが息づいているのです。

Profile

あかぎあきと/塗師。1962年岡山県生まれ。東京で雑誌編集者を経て、1988年に輪島に移住。輪島塗の下地職人のもとで修業後、1994年に独立。輪島塗に今の時代の精神を加えた、洗練された作品を生み出す。その評価は海外でも高い。

ブルネロ クチネリ表参道店 B2F アートスペース
東京都港区南青山3-17-11
電話番号03-6434-9520

関連記事はコチラ

撮影/岩田安史(トウク)
デザイン/後藤裕二(ティオ)
構成/湯口かおり、古里典子(本誌)

ブルネロ クチネリ 公式サイト https://shop.brunellocucinelli.com/

※本記事は『和樂(2026年2・3月号)』の転載です。

Share

和樂web編集部

おすすめの記事

伝統と美しさを未来へ 。「輪島塗」と育む 、能登と「ブルネロ クチネリ」の絆

和樂web編集部

「ブルネロ クチネリ」が能登支援をスタート! 第1弾は輪島塗の展示販売会

和樂web編集部

「ブルネロ クチネリ」による能登支援プロジェクト第3弾!輪島塗の塗師・赤木明登さんの特別作品をご紹介

和樂web編集部

輪島の人々と「ブルネロ クチネリ ジャパン」が祈りを捧げた「キリコ祭り」

和樂web編集部

人気記事ランキング

最新号紹介

※『和樂』12・1月号 P.141『武相荘のたからもの』紹介ページの記載に誤りがありました。
(誤)好評発売中(正)11月25日発売予定 となります。
※『和樂』12・1月号 P.216『今月、何かいいコスメ、見つかった?』ページの「アエルワ」の記載に誤りがありました。
(誤)金沢の酒蔵発(正)新潟の酒蔵発 となります。
※『和樂』12・1月号 P.242『美術展カレンダー』の「すみだ北斎美術館」の記載に誤りがありました。
(誤)休館日/年末年始(12月27日~2027年1月5日)、(正)休館日/年末年始(12月27日~2027年1月1日) となります。
お詫びして、訂正いたします。

※和樂本誌ならびに和樂webに関するお問い合わせはこちら。
※小学館が雑誌『和樂』およびWEBサイト『和樂web』にて運営しているInstagramの公式アカウントは「@warakumagazine」のみになります。
和樂webのロゴや名称、公式アカウントの投稿を無断使用しプレゼント企画などを行っている類似アカウントがございますが、弊社とは一切関係ないのでご注意ください。
類似アカウントから不審なDM(プレゼント当選告知)などを受け取った際は、記載されたURLにはアクセスせずDM自体を削除していただくようお願いいたします。
また被害防止のため、同アカウントのブロックをお願いいたします。

関連メディア