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2025.09.09

アウトドア必携!? 河童が授けた伝説の妙薬「河童膏」がすごかった!

暖かくて天気の良い日が続くと涼しい場所へ出かけたくなる。海とか、川とか。水辺では、運命の出会いがあるかもしれない。相手は、もしかすると河童かもしれない。
もし河童に出合うようなことがあれば、ぜひとも仲良くしておきたい。なにせ彼らは秘伝の薬を持っている。運がよければ、その薬をもらい受けるか、作りかたを教えてくれるだろう。

薬の名は「河童膏」。打身、捻挫、骨折に効果を発揮するという河童直伝の妙薬である。

河童との運命的な出会い

葛飾北斎の著した絵手本『北斎漫画』に描かれる河童。『北斎漫画 3編』(国立国会図書館デジタルコレクション)

河童にまつわる話は日本各地にある。たとえば、これは岩手県に伝わる古いお話。

昔、ある人が家の近くを流れる小川に馬をつないでおいたところ、馬がなにかに驚いて飛びあがり、厩(うまや)へ駆け込んだ。厩へ駆けつけた主人が飼葉桶を開けてみると、中には河童が隠れていたという。
河童は50㎝ほどで、真っ赤な顔をした子どものような姿をしていた。口が尖っていて、頭のてっぺんは皿のように平ら。柔らかい産毛を垂らしていた。主人が打ち殺そうとすると、河童はひたすらに謝った。
「河童膏という薬の作りかたを教えるから許しておくれ」
主人が河童に教えられたとおりに薬を作ってみると、不思議なほどよく効いたとか。

悪戯したお詫びに河童直伝の妙薬を教えてもらった、という話だが、じつはよく似た話が秋田県にも残されている。

ある男が淵の近くに馬を放しておいたところ、河童が出てきて馬を淵の中へ引きずりこもうとした。しかし逆に厩へ引きずりこまれ、飼葉桶に隠れているところを見つかった。
河童はその長い手足をもって磨り臼(米の精米道具)を挽かされたあげく、叩き殺されそうになったが、一心に謝ってようやく許された。河童はお詫びに一本の匙を置いていった。この匙で調合した薬により、男は財を成したという。

この話では薬の作りかたではなく、匙をもらいうけている。こうした話は新潟県や福島県にも伝わっており、どうやら河童は薬に詳しいようで、その処方を日本各地で教えてまわっているらしいのだ。

お詫びの妙薬

尻子玉が好物の河童を釣ろうと男がお尻を突き出しているところ。『北斎漫画 12編』(国立国会図書館デジタルコレクション)

馬を水の中に引きずりこもうなどと余計なことをもくろむ河童たちは、しかし毎回のように失敗し、水の中へ逃げればいいのにどういうわけか飼葉桶に隠れ、見つかり、「すみませんでした」とか「お詫びに」とかそれっぽいことを言い残して代物を置いていく。
薬の作りかたを教えてくれるのが定番だが、ある時など片腕、折れた指を落としていったこともある。そうしてしばらくすると「腕(指)を返してください」とすごすご舞い戻って来るのだ。外れた腕や指をいまさら返してもどうにもなるまい、と思いきや、河童いわく薬があるからすぐに接ぐことができるらしい。この薬というのが、人間たちがもらい受けた河童由来の妙薬である。

それにしたって自分の持ち物とはいえ、せっかく逃げたのに取りに戻ったり、分かりやすい場所に隠れたり、まるで人間に見つけてもらいたがっているみたいに思えなくもない(あるいはただの考えなしなのかもしれない)。
もしかすると、はじめから河童は人間に妙薬を授けるつもりで現れたのではないだろうか。もしそうなら、なにか思惑があるのではないか。河童は信用できる相手なのだろうか。ありがたがって安易に薬を受け取るのは危ない気がする。そもそも、河童が調合した薬である。原材料からして不安だ。人間が使用してよいものなのだろうか。なにせ、腕や指をもとどおりに治してしまうという薬だ。

秘薬、河童膏とは?

水の世界の住人が授けてくれた秘伝の薬、河童膏。実際に使用するかどうかは置いといて、その薬はかなりの効き目だという。

まず、骨を接ぐことができる。この時点で、すでに人知を超えている。火傷に効くとか、傷の万能薬という噂もある。河童は水に棲む者の常として金属を嫌うので、河童の薬はたいていの刀傷に効くとされている。血を止める効能もあるらしい。打身にも、痛風にも効くという。こうなると、もうなんにでも効いてくれそうな気がする。とにかく、傷と怪我には河童膏を塗っておけば安心というわけだ。

あらゆる傷と怪我に効く万能と噂の河童膏だが、この薬がもっとも効力を発揮するのは、やはり骨接ぎだろう。
河童は骨接ぎの薬を作るだけではない。古い時代には、河童が直接、施療してくれると信じられていた。水辺で悪戯をしているだけかと思いきや、河童は意外にも接骨術のエキスパートなのだ。

河童は接骨術のプロだった!

これは私の想像なのだけれど、河童が接骨術のエキスパートなのには、河童の趣味が相撲であることが関係しているかもしれない。
民間伝承には、河童に戦いを挑まれたという人間の話がたくさんある。河童の力比べがどんなものなのか見たことがないから分からないが、人間に戦いを挑むほどの相撲好きである。そうとなれば、捻挫や脱臼や打身、擦り傷はあたりまえ、骨を挫くこともしょっちゅうだろう。
傷や怪我の治療だけでなく接骨をも得意とする背景には、体をあちこち傷めることのおおかった河童ならではの訳があったのだろうと私は考えている。

ところで、河童の手には病気の治療や魔除けの効験があるとされている。霊験あらたかな河童の手だが、その割に河童はしょっちゅう片腕を落としていく。
見つけたら返してもらいに河童がやってくるので、片腕を返す代わりに薬のレシピを教えてもらうか、教えてくれそうになかったら、そのまま片腕を頂戴するのをおすすめする。

河童膏を手に入れて出かけよう

河童が放免の謝礼にと置いていった、秘薬「河童膏」。
打身、捻挫、骨折にも効果てきめん。そんな謳い文句の薬が本当にあったら大金持ちにちがいない。じっさい「一生ほかの仕事をせずともやっていけるようにしてやるから腕を返してくれ」と言われて、河童に教えてもらった薬で財を成した人の話も伝わっているくらいだ。

レジャーシーズンは怪我が増える季節でもある。あたりまえだが河童膏は薬局には売っていない。だから水辺で河童に出くわしたら、ぜひとも河童膏を手に入れておきたい。河童膏をポケットに忍ばせて、安全にアウトドアを楽しもう。

【参考文献】
石川純一郎「河童の世界」時事通信社、1985年

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馬場紀衣

文筆家。12歳で海外へ単身バレエ留学。University of Otagoで哲学を学び、帰国。筑波大学人文学類卒。在学中からライターをはじめ、アートや本についてのコラムを執筆する。舞踊や演劇などすべての視覚的表現を愛し、古今東西の枯れた「物語」を集める古書蒐集家でもある。古本を漁り、劇場へ行き、その間に原稿を書く。古いものばかり追いかけているせいでいつも世間から取り残されている。
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