デニムの左右の長さを、あえて揃えない面白さ
編集長:今日のニットはどちらのですか?
阿部顕嵐(以下、阿部):これはJW ANDERSONです。 最近は、UNIQLOともコラボしているデザイナーです。
編集長:拝見していて、サイジングがすごく面白いと思いました。
阿部:確かに、すごく大きいサイズです。
編集長:しかしデニムのサイズはジャストサイズですね。さらに左右のロールアップの度合いが違う。これは何かお考えがあります?
阿部:デニムの左右が一緒だったら、つまらないなあと思って。
スタッフ一同:えー! 高度なテクニック……驚き!
編集長:そういう感性は、素敵ですね。ジーンズはどちらの?
阿部:これはリーバイスの日本製です。
編集長:ほとんどウォッシュしていないもの?
阿部:アメリカ製のリーバイスは質感が粗い感じがして。日本製のリーバイスは藍染のような感じが気に入って、よく履いています。
ブランドロゴが入っていないほうが、ファッションの本質に近づける
編集長:首につけていらっしゃるアクセサリーは、どんなものですか?
阿部:これは天然石のラピスラズリです。ディオールのものですけど、全くブランドの名前がわからないところが気に入っています。ブランドのロゴは入っているものは、あまり好きじゃなくて。どのブランドか、わからないのが面白いと思っています。
編集長:なるほど。今日お召しになっているもので、いちばん好きなアイテムは?
阿部:足袋(たび)のスリッポンが好きです。
編集長:おお。ブランドは?
阿部:マルジェラです。
マルジェラとはベルギー出身のデザイナー、マルタン・マルジェラのこと。本人は現役デザイナーを引退し、ジョン・ガリアーノがクリエイティブ・ディレクターに就任。今は「メゾン マルジェラ」という名で人気のファッション・ブランドだ。メゾン マルジェラは、匿名性を重視。ブランドロゴが見えるような製品は作らず、ファッションの本質を追求するブランド。阿部さんも、ブランドロゴが入ったものより、どのブランドかわからないものを身に着けるのが好きと言っている。阿部さんとマルジェラは共通する思考があるのかもしれない。
長い歴史がある足袋。元寇のときに、すでに武士が履いていた?
編集長:以前取材させていただいたときも、足袋の形をした靴を履いていらっしゃいましたよね?
阿部:はい。前に履いていたのは、ブーツ型の足袋でした。
編集長:メゾン マルジェラのタビシューズのシリーズを、いくつも持っているのですね。さすが。
阿部:マルジェラのタビシューズ、スリッポンのタイプは潰して履けるところが、いいですね。ラクです。
編集長:ハハハハ。
足袋は、日本特有の“靴下”。読者のみなさんもご存じのように、鼻緒がある草履(ぞうり)や下駄を履くときに身に着けるため、親指と残りの指との間が分かれている。
鼻緒で履く、下駄。じつは日本だけでなく、広くアジアに広まっており、アフガニスタンなどやタイ、中国南部などにも歴史がある。裸足で履ける下駄は、ヨーロッパの靴のように蒸れることがなく、高温多湿のアジアにぴったりだったというわけだ。
靴下のようなものが、日本に伝わったのは5世紀ころといわれる。中国から伝わり、指先は分かれておらず、貴族や役人が履いていたようだ。しかし日本独自の進化をとげ、靴下の指先が分かれ「足袋」になっていった。13世紀の国宝「蒙古襲来絵詞(もうこしゅうらいえことば)」という絵巻物には、指先が分かれている足袋を履いた武士の姿が確認できるという。
そして江戸時代になると、徒歩で何日もかけて伊勢神宮などにいく旅行が庶民の間で流行した。素足で草鞋(わらじ)を履いて長距離を歩くと足が痛くなる。そこで、足袋を履いたうえで草鞋をはくことが普及したという。ちなみに長期間の旅行で履いた足袋は木綿で藍染が多かったらしい。藍で染められた足袋は、毒蛇や虫が寄り付かないといわれ喜ばれていたのだ。
そんな経緯で発展した日本の足袋。日本を訪れた際に足袋を見つけたマルジェラは、その形を靴のデザインに取り入れた。マルジェラが「タビシューズ」として初めて世に出したのは1989年。ファッションショーでモデルが顔を覆い、赤いペイントのタビシューズでランウェイに足跡を残す演出は、強烈な印象を与えた。それ以降、タビシューズはメゾン マルジェラの人気製品となる。
編集長:今日のファッションは遠くから拝見すると、ベージュのニットにデニム、黒い革靴といったシンプルなものに見えます。でも近くで見ると、おもしろい要素が詰まっていますね。接近戦に強いタイプの着こなし。
阿部:接近戦ですか(笑)。
伝統的なものにひねりを加え、新しい価値を生み出した「タビシューズ」のコンセプト。アジアをルーツとした歴史を感じさせるファッションに興味がある、という阿部さんの考えにマッチしている。また、左右で長さが違うデニムの履きこなしも、左右対称を好まない日本文化と親和性がある。日本文化をうまく取り入れた私服のこだわりについて。今度も阿部さんに聞いていく予定。お楽しみに!
インタビュー・文/給湯流茶道 写真/篠原宏明 スタイリング/阿部顕嵐(私物)
参考文献/はきもののはなし(指田純子)・日本と世界のくらし(上羽陽子)
「今」を創る伝統画材ラボ PIGMENT TOKYO
PIGMENT TOKYO(ピグモン トーキョー)は、「色とマチエール*の表現」を追求するショップ・ラボ・ワークショップを備えた絵画材料専門の複合クリエイティブ施設です。多種多様な画材とその用法、そこから生み出される「表情」について探求し、得られた知識や技術の普及活動を行っています。また、専門知識に精通した現役アーティストであるスタッフが、国内外の企業や教育機関に対して企画提案やコラボレーションなど、アートを軸にしたビジネス展開のサポートを行っています。
* 素材材質によってつくり出される美術表現効果。
営業時間:11:00 – 19:00 (定休日:月曜日・年末年始休業)
TEL:03-5781-9550
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アクセス:りんかい線「天王洲アイル」駅から徒歩3分/東京モノレール「天王洲アイル」駅から徒歩5分
https://pigment.tokyo/
阿部顕嵐 お知らせ
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