突然ですが、お米を「茹でた」ことってありますか?
「いや、米は『炊く』ものでしょ」
「パスタじゃあるまいし」
ええ、わかります。ふつうはそう思いますよね。
私も3●年間、お米は炊くものだと思っていましたから……。
ところがどっこい!
かつて日本では、「炊く」のと同じくらい「茹でる」ことが、米のメジャーな調理法だったのです。
「かつて」がいつ頃のことかというと、それはなんと、みんな大好き!江戸時代。そんなに遠い昔のことではありません。
ということはつまり、坂本龍馬も新選組も、お札に大河に何かと話題な渋沢栄一も、みんなみんな茹でたお米を食べていたのかもしれないのです……!
そしてワタクシ、あえてここで宣言したいと思います!
令和の時代に突入し、はや1年弱。今や存在すら忘れられかけている、米を「茹でる」調理法……正式名称「湯取り法」ですが、きっともうすぐ、再び脚光を浴びる時がやってくると!
どうして私がそんなことを思い始めたのか、今から詳しくご説明させていただきましょう。
「炊く」と「茹でる」、その違いとは?
現在私たちが当たり前のように行っている、米を「炊く」という調理法。正式名称を「炊き干し法」といいます。使う米の量に適した量の水を用い、米がすべての水分を吸い上げるまで火にかけ続ける……というのが、だいたいのやり方です。
対して湯取り法は、使用する水の量が決まっていません。大量の水を沸騰させ、その中に米を加えたら、柔らかくなるまで火を通します。残った茹で汁をすべて捨て、水気を飛ばしたらできあがり。
2つの調理法の最大の違いは、米を水と一緒に加熱したときに出てくる、白いねばねばした成分「おねば」(米のでんぷん質)の行方です。
炊き干し法では、一度外に出たおねばは、米粒の中に再吸収されます。「ふっくら」「もちもち」した食感が生まれるのはおねばのおかげです。
いっぽう湯取り法では、おねばは茹で汁と一緒に取り除かれてしまい、米の中に戻ることがありません。出来上がったごはんは、ねばりのないサラッとした食感になります。
江戸時代に湯取り法が重宝されたのは、当時の人々が主に囲炉裏で鍋を用いて煮炊きしていたためだといわれています。
こまめに火の調整を行わなければならない炊き干し法より、同じ火力で火を通し続ければいい湯取り法の方が、手っ取り早く必要な量のごはんを炊くことができたのでしょう。
また、米のほかに麦や稗、粟などの雑穀が主食として食べられていたのも、理由の1つだったと考えられます。雑穀を柔らかく調理するためには、最初にたくさんの水を使い、十分にふやかしておく必要があります。大量の水を用いる湯取り法の方が、合理的に調理を行うことができた、というわけです。
しかしその後、かまどや羽釜の普及にともない、以前より気軽にごはんを「炊ける」ようになってくると、湯取り法はだんだん下火になっていきました。
今やごはんは「ふっくら」「もちもち」が当たり前。
世は炊き干し一強時代と言っても過言ではありません!
実はすごい! 湯取りごはんの意外な効用
さて、本題に戻りましょう。
なぜこの令和の時代に、今さら湯取り法なのか……その理由は、「流行」と「歴史」、それぞれの中に見つけることができました。
果たして湯取り法で作ったごはんは、単なる「サラッとしたごはん」なのでしょうか?
答えは否、です!
湯取り法で作ったごはんは、「糖質カットごはん」である!
まずは「流行」から!
最近「糖質カット炊飯器」なるものが話題になっているのはご存じですか?
炊飯中に、米の糖質(でんぷん)が溶け出した煮汁を外へと排出し、代わりに適量の水を注入することで、糖質をカットしながらも、ふっくら柔らかなごはんを炊くことができる仕組みだそうです。
……って、ちょっとお待ちを。
でんぷんが溶けた汁を排出って、それ、まさしく「湯取り法」ではないですか!
そう、実はこの炊飯器、従来通りの炊き干し法ではなく、湯取り法を使ってごはんを炊き上げることができるという、画期的な製品なのでした。
裏を返せば、この炊飯器がなくとも(すみません)、自分で湯取り法を使ってごはんをたけば、同じような糖質カットごはんを作ることができてしまうということ……!
ほらほら、最近おなか周りが気になってきたそこのあなた。湯取り法、試してみたくなってきたのではありませんか?
湯取り法で作ったごはんは「胃腸にやさしいごはん」である!
お次は「歴史」です。
85歳という長寿を生きた江戸時代の儒学者、貝原益軒(かいばらえきけん)。彼が古典をもとに、自ら実践してきた健康法をまとめた『養生訓(ようじょうくん)』という書物があります。
その本の中に、こんな一節を見つけました。
飯の炊き方もいろいろある。炊き干しは壮健な人によく、ふたたびいい(飯の上に湯を入れ二度炊きする)は積聚((しゃくじゅ)胃けいれん)で気のとどこおっている人によい。また、湯取り飯は脾胃(胃腸)の弱い人によいのである。
(巻第 三 飲食上 5飯のたき方)
なんと、「胃腸が弱い人には湯取り法がオススメ」と、ハッキリ書かれているではありませんか!
『養生訓』は、江戸時代の大ベストセラー。きっと多くの人がこの一節を読み、その知恵を生活の中へと取り入れたに違いありません。
「夕飯を食べたあと、いつも胃もたれする」
「最近、ストレスが胃腸に出やすいんだよね」
ついついそんな風にぼやいてしまう人は、ぜひ益軒先生のおっしゃる通り、ごはんを湯取りごはんに変えてみてはいかがでしょう。
レッツクッキング! 湯取りごはんを作ってみよう
そろそろみなさんの目にも、湯取り法が「単に古いだけの炊飯方法」ではなく、「これから来る魅力的な炊飯方法」として映り始めてきたのではありませんか?
ではここで、最後のひと押し。
実際に、湯取り法を使ってごはんを作ってみましょう!
……とはいえ、ここまで湯取り湯取り言ってきたワタクシですが、お米を茹でるのは初めての経験。うまくできるかちょっと心配なのは、ここだけの話です。
鍋に多めの湯を沸かし、米を入れる
今回、使うお米は1合なので、鍋も小さめの片手鍋を使用。その代わり、お湯はたっぷりと沸かしました。
ここで迷ったのが、お米を浸水させるかどうか。いつもなら30分くらいお米に水を吸わせてから火にかけますが……。
このとき脳裏をよぎったのが、パスタを茹でるときのこと。
「パスタって、お水につけずにそのまま茹でるよね……」
よし、そのまま入れてしまおう!
失敗したらもう1回作ればいいや!というおおらかな気持ちでやっております。
お米を茹でる
火加減は、あまり強すぎても吹きこぼれてしまうので、弱中火くらいにしてみました。
10分後。お鍋でごはんを炊くときは、全部でだいたい20分くらい火にかけるので、その半分くらいの時間です。
おたまを使ってすくってみると……。
ちょっと食べてみたところ、芯の存在を少し感じるくらいで、だいぶ柔らかくなってきています。アルデンテといった感じ。
パスタならここで火を止めてしまうところですが、今回はごはんなので、完全に柔らかくするべくもう少し茹でてみることに。
茹であがったお米をざるにあげ、ふたたび鍋に戻して水気を飛ばす
茹で始めてから15分後。芯もすっかりなくなったので、ざるにあげてみることに!
このままだとべちょべちょのごはんになってしまうので、よくお湯を切ったら、再度鍋に戻してごくごく弱火にかけます。
1、2分でこげたようなにおいがしてきたので、慌てて消火。あっという間でした。
できあがり
どうでしょう。こうしてみると、ごくごくふつうの白ごはんです。
さっそくひと口食べてみると……。
……!
あ、あれ? ふつうにおいしい……。
お米ひと粒ひと粒からねばり気が取り除かれているので、口の中に入れるたびに、ごはんの塊がほろほろとほどけていきます。これが、いつものごはんにない感じで新鮮です。
きちんと柔らかくなっているし(浸水していないことを忘れるほど!)、しっとり感も残っています。
正直言いまして、このあと「やっぱりパサパサしている……どうやったらおいしく食べられるのかな?」という展開に持ち込もうかな、と考えていたのですが、そんな必要まったくなくなってしまいました。
「これから湯取り法が来る!」などと最初に言っておきながら、その実力を疑っていた自分がちょっと恥ずかしい……。
いつものごはんのおとも、梅干しや漬物なんかにももちろん合いますが、「やっぱりねばり気がないと物足りない……」という方には、納豆ごはんや卵かけごはんにすることをオススメします。合わせるものがねばっているので、ごはんのねばり気のなさが気にならなくなりますよ!
実験気分で、気軽に試して!
いつものように、外に出かけることも難しい今の時期。
「せっかく家にいるのだから、ちょっと変わったことをやってみたい……」
そんな人にもぴったり!の湯取り法。
実験感覚で、炊き干し法と湯取り法、両方のごはんの食べ比べをしてみるのも楽しそうですね。「湯取り法のごはんのほうが好みだった!」なんてことだって、ないとは言い切れませんよ!
お米の種類や加える雑穀を選ぶように、「今日の米の炊き方を選ぶ」……そんな時代はもうすぐそこ!……かもしれません。
おいしいおかゆの作り方もどうぞご覧ください!
ちょっと胃を休めたい、そんな時にも。おかゆ向きのお米を「五ツ星お米マイスター」に聞いてみた!