世界で最も名を知られる香水「シャネル N°5」。1921年の誕生から1世紀以上にわたり、これほど女性たちに愛され、憧れであり続けた香りがあったでしょうか?
その100周年を祝して発表された、華麗なハイジュエリー「コレクション N°5」──名香にインスピレーションを得た輝きが、新たな「N°5」の伝説を紡ぎます。
時を超越し、人々を魅了する名香に捧げられた〝輝きのオマージュ〟
香水のボトルストッパーがモダンなデザインモチーフに
ブレスレットを飾る八角形のロッククリスタルは、香水「シャネル N°5」のボトルストッパー(栓)がモチーフ。それは香りが誘う夢の世界への入り口を象徴。敷き詰められたダイヤモンドによって、クリスタルの透明感とモダンなフォルムが際立ちます。
揺らめき広がる香りをダイヤモンドの輝きで表現
ネックレスの中央で燦然と輝くクッションカットのダイヤモンドは、「シャネル N°5」の香水ボトルを象徴的に表現。そこから伝説の香りが揺らめきながら広がっていくさまを、多彩なカットとサイズのダイヤモンドを用いて繊細に描いています。
時代が求める軽やかさと遊び心にあふれたデザイン
ガブリエル・シャネルが幸運をもたらすナンバーとしてこだわった「5」のモチーフを、アシメトリーのデザインにあしらったイヤリング。もう一方には、香水の雫(しずく)を表すペアシェイプのダイヤモンドが煌(きら)めき、遊び心を感じさせます。揺れ動くデザインが生み出す、今の時代にふさわしい軽やかな華やぎ。
革新の香りにふさわしく、幾何学パターンでモダンに
「シャネル N°5」のコンテンポラリーなボトルに着想を得たデザイン。その中で揺らめく香水を、ゴールドプレートとダイヤモンドを幾何学的に連ねて表現しています。その上にロッククリスタルを重ねて、まさに伝説の香水を想起させるブローチに。
伝説の香水「シャネル N°5」に秘められた物語
香水「シャネル N°5」はなぜ100年以上もの間、世界中の女性を魅了することができたのでしょう? 香りの世界に革命をもたらし、新たな時代を切り拓いたといわれる名香誕生の物語をひもとき、ハイジュエリーコレクション「コレクションN°5」にも継承された、その革新性と魅力に迫ります。
時代もジャンルも超越する、ガブリエル・シャネルの先見性
20世紀を代表するファッションデザイナー、ガブルエル・シャネル。彼女は香りの世界でも革命を起こしました。1921年に発表された香水「シャネル N°5」は、香りだけでなく、ネーミング、ボトルデザインのすべてが斬新で、驚きに満ちていたのです。それが100年の時を経て、ジュエリーデザインのインスピレーション源に。2021年に誕生したハイジュエリーコレクション「コレクション N°5」は、まさに伝説の香りへのオマージュといえます。
まず、「シャネル N°5」の革新性についてお話ししましょう。それは、ファッションデザイナーが手がけた初の香水でした。ガブリエル・シャネルは以前から、「香水をつけない女に未来はない」という詩人ポール・ヴァレリーの言葉に共感し、いつか自身の香水をつくりたいと考えていたのです。そんなとき、彼女は亡命貴族ディミトリ大公の紹介で、調香師エルネスト・ボーに出会います。ボーはかつてロシアでロマノフ家の専任調香師をしていました。彼は天然香料が戦争で不足したことを機に、アルデヒドという合成香料の研究に取り組んでおり、先見性のあるシャネルはその未知の香料にも興味を抱いたのかもしれません。彼女はボーに香水の試作を依頼します。「女性そのものを感じさせる、女性のための香りをつくってほしい」という言葉を添えて…。
香水の試作品には1から5、20から24の番号がつけられており、シャネルはそのなかから5番と22番を選択。5番を特に気に入ったシャネルに対してボーは、原料に高価なジャスミンを使っていると明かします。すると彼女は「では、もっと多く入れなさい。私は世界で最も贅沢な香水をつくりたいのだから」と答えたのでした。
「シャネル N°5」は、ジャスミン以外にもローズなど種類以上もの天然香料を原料とし、それに合成香料のアルデヒドを組み合わせています。バラやスズランといった単一の花の香りが主流だった時代に、〝抽象性〟という新たな概念を香りの世界にもたらしたボー。彼が生み出した〝ほかの何にも似ていない香り〟には、「5」という数字だけの名がつけられました。
一方、直線的な香水ボトルのデザインも世に衝撃を与えました。当時の香水瓶はどれもが装飾的だったのです。しかし、〝主役は香水〟であり、容器はそれを引き立てるものであるべきと、シャネルは主張。数年後、耐久性と美しさを高めるために修正が加えられたものの、ボトルの基本的なデザインに大きな変化はありません。1959年、そのボトルは前衛的なデザインが評価され、ニューヨーク近代美術館の恒久コレクションとなっています。
目に見えない〝残り香〟までもが創作の豊かなインスピレーション源に
2021年のハイジュエリーコレクションの発表から遡ること数年前、メゾンのファインジュエリー クリエイション スタジオ ディレクターのパトリス・ルゲローは、名香「シャネル N°5」に捧げる作品の制作をスタートしていました。ルゲローは伝説の香水に秘められた物語をひもとき、さまざまな側面に光を当てています。幾何学的なボトル、数字の「5」、香料の原料となる花々、香水の残り香までもが、想像を超えたハイジュエリーに。コレクションは123点もの作品で構成され、すべてにガブリエル・シャネルの揺るぎないスピリットが息づいています。「シャネル5」に秘められた彼女の明確なビジョンは、時を超えて現代へ。さらに100年後の未来にも、インスピレーションを与える存在であり続けていることでしょう。
本記事は『和樂』2023年2.3月号の転載です
撮影/戸田嘉昭