猫も!犬も!ツバメまでも!!
長き日本美術の歴史の中で、「かわいい絵画」が大輪の花を咲かせたのは江戸時代でした。古来、土偶や埴輪(はにわ)、平安時代のさまざまな絵巻物や鎌倉時代の『鳥獣人物戯画』(ちょうじゅうじんぶつぎが)などに代表されるように、ひと目で心が癒され「かわいい」と思わざるを得ない絵画や彫刻を数多く生み出してきた私たち日本人。室町時代の禅画に代表される水墨のジャンルでも、その人智を超越した境地を描き表した帰結としての独特な「かわいい絵画」が数多く生み出されてきました。そんな沢山の「かわいい絵画」の中から愛らしい動物たちを紹介します!
「虎」ゾーン
鍬形蕙斎『鳥獣略画式』より「トラ」
一冊 版本 寛政9(1797)年 初版(画像は近代の摺り) 個人蔵
鍬形蕙斎は、北尾政美(きたおまさよし)の名で浮世絵師として活動した後、現在の岡山県にあった津山藩のお抱え絵師となった人物です。略画の絵手本『略画式』を刊行したことで知られ、本作はさまざまな動物をその略画で描いたもので、隈のある目とやけに長い尾がかわいい?
尾形光琳『竹虎図』
一幅 紙本墨画 28.3×39.0㎝ 18世紀・江戸時代 京都国立博物館
俵屋宗達(たわらやそうたつ)に私淑(ししゅく)して琳派の系譜を継いだ光琳。竹に虎という構図は武家好みの力と威厳を象徴する中国由来の画題ですが、睨みを利かせているようでどこかお茶目な虎の表情には思わず笑みがこぼれてしまいます。
「犬」ゾーン
円山応挙『時雨狗子図』
一幅 絹本着色 99.3×34.8㎝ 明和4(1767)年・江戸時代 府中市美術館
18世紀の京都で活躍した円山応挙は、日本美術の結節点に位置する巨匠。それまでにないほどリアルな描写を確立し、その筆技をもって内に秘めた「かわいいものへの愛情」を絵画化しています。こちらも数多描いた仔犬図のひとつです。
長沢芦雪『白象黒牛図屛風(左隻)』
六曲一双 紙本墨画 各155.3×359.0㎝ 18世紀・江戸時代 エツコ&ジョー・プライスコレクション
長沢芦雪は応挙の一番弟子とも言っていい存在で、数多くの動物画を描いたことでも知られています。師匠の応挙作にそっくりの仔犬図も数多く描いていますが、中でも秀逸なのがこの黒牛の巨体に寄りかかるように佇む仔犬。どこにいるか見つけられますか?
その愛くるしい姿は見る者の心を鷲摑みにします。
「コウモリ」ゾーン
長谷川雪堤、雪旦『蝙蝠』
錦絵 団扇絵判 19世紀・江戸時代 東京国立博物館
『江戸名所図会』で知られる長谷川雪旦の子・雪堤が描いたコウモリ。父の雪旦が徳利と杯を描いています。コウモリは中国で福をもたらすめでたい動物とされ、江戸時代の絵画にも度々、登場。この絵はコウモリが拳(けん)遊びをする図で、姿が実に微笑ましいですね。
「キツネ」ゾーン
鈴木其一『狐の嫁入り図』
一幅 絹本着色 53.0×82.0㎝ 19世紀・江戸時代 エツコ&ジョー・プライスコレクション
動物を擬人化する絵画は、古くは『鳥獣人物戯画』や中世の御伽草子(おとぎぞうし)などに数多く見られます。
其一らしいシャープで生真面目な線描と仰々しい武家の装いの狐たちの姿が、かえってかわいさを演出しています。
「ツバメ」ゾーン
歌川広重『燕の子をとろ子とろ』
錦絵 団扇絵判 19世紀・江戸時代 神奈川県立歴史博物館
「子をとろ子とろ」とは、かつてあった子供の遊びの一種。それを、燕たちがしているところを想像して広重が一枚の絵として描いたものです。見事に整列した燕の姿形と仕草が最高に愛らしい一作になっています。