春画を徹底解説。エロティックな喜び、北斎も描いたって本当?

春画を徹底解説。エロティックな喜び、北斎も描いたって本当?

目次

江戸のエロティックな喜びを圧倒的な技で描き、庶民に愛され、今では最高峰のポップアートとして国内外で愛される春画。その魅力の秘密を紐解いていきましょう。

ついに「春画展」の映画「春画と日本人」まで登場!

2015年9月に東京目白にある永青文庫で開催された「春画展」。開催前から世論を巻き込み開催の是非を巡って喧々諤々の議論が交わされましたが、蓋を開けてみると入場者数21万人、誰もがその美しさ、滑稽さ、知的さに圧倒されるという美術界を超えた衝撃の展覧会となりました。

しかしながらその開催には知られざる苦悩がありました。企画を決めてから開催を打診するも断られること国公立私立の美術館を含めて20館以上。開催が決定してからも都の条例やクレームへの対策などが関係者の頭を悩ませます。海外ではアートとして認知され非常に高い評価を受ける春画がなぜその誕生の地である日本では逆風にさらされたのか? 当時の関係者に徹底的に取材し、今や伝説となった展覧会の内幕に迫る映画「春画と日本人」が2019年9月28日から東京のポレポレ東中野ほかから全国で順次公開されることとなり話題になっています。

すべての巨匠浮世絵師が春画を描いた!

春画は一部の浮世絵師が描いた特殊な浮世絵ではありません。有名無名、無数の浮世絵師が全力投球で制作した、浮世絵の一大ジャンルです。現在春画が見つかっていないのは、写楽くらいとも言われています。

春画とは?を徹底解説!北斎も春信も描いていた!
葛飾北斎「海女と蛸」

1672年頃に木版浮世絵を創始した菱川師宣は、生涯で手がけた作品の3分の1から半数が春画と目されています。師宣は春画に情景描写を取り入れ、裸体と体位をフォーカスしがちだったそれまでの春画の表現を革新しました。場面展開を多様にし、時代の風俗を包含することで春画の可能性は広がり、後世の絵師へと引き継がれます。

享保期(1716~1736年)には、上方春画が江戸で流通。町人や侍など階層ごとの生活を描き分けた西川祐信の作風が好まれ、江戸の春画に反映されました。

春画とは?を徹底解説!北斎も春信も描いていた!
喜多川歌麿「歌満くら」

1765年に錦絵を創始した鈴木春信は、春画に多色摺の精緻な美をもたらします。西川祐信の影響を受けつつも、独自の優美な表現を生み出し、春信風の追随者が続出。続いて「袖の巻」などで幸福感たっぷりの表現を描いた鳥居清長、「歌満くら」の描写力が先進的な喜多川歌麿と、錦絵時代の三大絵師は春画の世界に感情移入する楽しみを何倍にも増幅させたといえるでしょう。

その後も「海女と蛸」をモチーフにした作品で異彩を放つ葛飾北斎や、春画にも猫を招き入れたり、戯画の精神を発揮した歌川国芳が個性的な作品を残しています。

これら人気浮世絵師の仕事を頂点に、それに追随する多くの絵師が続き、あまたの春画が描かれました。春画は、浮世絵師を理解する上で不可欠な存在なのです。

春画とは?を徹底解説!北斎も春信も描いていた!
鈴木春信「風流座敷八景」より「手拭掛帰帆」

春画の基礎知識10

春画の基礎知識1 くすりと笑える春画には日本古来の感性がある

江戸時代に「笑絵」とも呼ばれた春画には、登場人物が性交中に犬に吠えられたり、浮気現場がばれたり、あらゆる生と笑いが同居しています。これは歴史を遡れば古事記などに通じる日本独自の感性だと考えられています。神話では乳房や局部をあらわにした神が踊り、それを他の神が笑うことで岩戸に隠れた天照大神が顔をのぞかせ光を取り戻す。春画はこうした古来の心性を継ぐ点でも日本の文化遺産と言えます。

春画の基礎知識2 性描写の萌芽は古く平安時代に見出される

あまたの春画が制作される江戸時代より以前、平安時代には性描写を大胆に描いた絵画の存在が確認されています。説話集「古今著聞集」(鎌倉時代)では、師匠の絵のリアリティのなさをけなされた弟子が、昔の絵の名手が描いた春画には男の一物が誇大表現されていること、実物通りの絵の表現はおもしろみに欠けると反論の上、論破しています。平安時代の春画は現存しませんが、13世紀の模写本などからその命脈をたどることができます。

春画の基礎知識3 「春画」の語源は古代中国にあり!

春画の名の発端は古代中国で描かれた皇帝の秘め事を説く絵図にあると言われています。「春宮秘画」は皇帝が1年を通じて12人の妃と交わる方法を説く絵図で、背景には男女(陰陽)の正しい交わり方が、不老長寿や天下泰平につながる思想があります。また、中国で描かれた春画や春本は医学書の類いとして日本に伝来し、人々の関心を誘いました。

春画の基礎知識4 幅広い階層に楽しまれた

春画はほかの浮世絵と同様に肉筆画と木版画に大別されます。肉筆画は絵師が紙や絹に手で描いた一点ものの絵巻、木版画は版木で印刷された版本や、テーマに沿った12図の春画をそろえた組み物が主流です。肉筆画の買い手は絵師に制作を依頼できる一部の特権階級に限られ、豪華な私家版がつくられました。17世紀の後半に木版技術が発達し、春画の量産や廉価版の出版が可能になると、庶民レベルが楽しむことができるようになりました。春画の歴史はお殿様や豪商が楽しむものから江戸の新興町人へ、鑑賞の裾野が広がっていく歴史でもあります。

春画の基礎知識5 マネできないアクロバティックな世界

春画で印象的なのは大胆に拡大して描かれた局部。男女とも誇張され、なおかつ細部まで丹念に描かれています。しかもそのサイズと言ったら顔と同じくらいだと注目する研究者もいるほど。局部を誇張するためなら、不自然な手足の動きや身体のねじれもなんのその。浮世絵師はありえないアクロバティックなポーズの男女を次々と送り出しました。江戸時代の川柳には「馬鹿夫婦春画を真似て手をくじき」なんて句もあるほどです。

春画の基礎知識6 多種多彩な主人公がくりひろげる人間ドラマ

春画の登場人物は老若男女。夫婦もいれば愛人や未亡人、若者などさまざまで、その多くが一般庶民です。鈴木春信が描いた「風流真似ゑもん」では、男女の営みを研究することを宿願した男が望みかなって小さな姿となり、ありとあらゆる営みを見物するなんて話しも。特徴的なのは性への貪欲さや上下関係に男女の別がなく、女性も性を謳歌する存在として闊達に描かれていることです。

春画の基礎知識7 女性も春画を鑑賞!

春画は男性だけのものではなく、若い娘や長屋の女房にとってもなじみ深いものでした。彼女たちが春画を見る機会が、新刊書を持参する貸本屋の訪問販売。貸本屋が見料と引き替えに貸す本の中で、春画は主力商品でした。また、春画には子孫繁栄を願う側面があることから、嫁入り道具に加えられたり、魔除けや火除けのお守りにされた事例もあります。

春画の基礎知識8 懐事情と目的に合わせて購入

春画ははじめ京都で出版されやがて江戸へと拠点が移っていきます。参勤交代の武士をはじめ、各地の人々が集散する大都市から春画は全国へ広がりました。その価格は三十六文のものもあれば、三十三匁のものも。安物から高額本まで多種多様な商材が流通し、人々の目的と懐事情に合わせて手に取られました。

春画の基礎知識9 弾圧にめげない浮世絵師

奢侈禁止令が多く出された江戸時代。徳川吉宗による享保の改革以降、春画は表向きには禁止され、制作者名を記さないアンダーグラウンドな出版物となりました。浮世絵師や出版をプロデュースする版元は、手鎖、財産没収など処罰のリスクを常に負っていました。喜多川歌麿は無款の春本で人物の会話の中に「うたまる」と自身の存在を匂わせたり、序文で絵師の名を「むだまら」と記すなどここでも洒落っ気を忘れていません。名作「歌満くら」も無款ですが、題が「画工の名に寄」ると序文でヒントが与えられています。

春画の基礎知識10 奇想、空想の豊かな受け皿

葛飾北斎の「海女と蛸」は19世紀後半にヨーロッパに渡り大きな話題を呼びました。見るものは一目で圧倒的な迫力にとらえられ、幻想へと誘い込まれます。こうした奇想から日常につながる情景まで、春画は時代も国境も越えて今も人々に想像の羽を羽ばたかせる力があります。

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