「俺たちの国芳 わたしの国貞」展で知る奇想の浮世絵師

「俺たちの国芳 わたしの国貞」展で知る奇想の浮世絵師

目次

 今年、日本美術ファンや浮世絵好きの注目を集めているのが、3月19日~6月5日の「Bunkamura ザ・ミュージアム」を皮切りに、6月18日~8月28日「神戸市立博物館」、9月10日~12月11日「名古屋ボストン美術館」を巡回する展覧会「俺たちの国芳 わたしの国貞」。
 これは、アメリカ・ボストン美術館が所蔵する優れた浮世絵コレクションの中から、歌川国芳(うたがわくによし)・歌川国貞(くにさだ)の名作170件(約350枚)を一挙公開する展覧会です。 

 特に話題になっているのが、男気溢れる武者絵(むしゃえ)や茶目っ気たっぷりの戯画でも、見る者の心を躍らせる歌川国芳の作品です。まずは、国芳という浮世絵師についてご紹介します。

「俺たちの国芳 わたしの国貞」展で知る奇想の浮世絵師

上/歌川国芳『相馬の古内裏に将門の姫君滝夜叉妖術を以て味方を集むる大宅太郎光国妖怪を試さんと爰に来り竟に是を亡ぼす』(そうまのふるだいりにまさかどのひめぎみたきやしゃようじゅつをもってみかたをあつむるおおやのたろうみつくにようかいをためさんとここにきたりついにこれをほろぼす) 弘化元(1844)年頃 大判錦絵三枚続 William Sturgis Bigelow Collection, 11.30468-70 Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston

そもそも国芳って、どんな人?

 奇抜で豪胆、自由闊達(かったつ)。歌川国芳の浮世絵を評す言葉は、そのまま彼の性格そのものだったといわれます。
 私を「ワッチ」、お前を「メェ」と言うべらんめえ口調で、火事と喧嘩が大好きな江戸っ子気質。幕末屈指の人気絵師でありながら“先生然”とするのが嫌いだったようです。
気性の荒い町火消たちと親しく交わり、火事とあらば遠近問わず駆けつけて、消火を手伝う男気のよさ。親分肌の国芳のもとには70人以上の弟子が集まり、家族のような深い絆で結ばれていました。
 国芳は、寛政9年(1797)年に江戸日本橋の染物屋の家に生まれ、15歳のころに初代歌川豊国(とよくに)に弟子入りします。その後、画壇デビューを果たすものの、なかなか才能を発揮することができず、名声を手にするのは30歳を超えてからのこと。
 スターダムにのし上がるきっかけとなったのは、文政10(1827)年ごろ、「水滸伝(すいこでん)」に登場するヒーローを1図ずつ武者絵として描いた『通俗水滸伝豪傑百八人之一人』のシリーズでした。
 当時、曲亭馬琴(きょくていばきん)が翻案した『傾城(けいせい)水滸伝』がベストセラーとなり、世の中は「水滸伝ブーム」の真っただ中。商機を狙った版元加賀屋が国芳に「水滸伝」をモチーフにした大判錦絵をまかせ、見事、大ヒットとなりました。
 躍動感に満ちたヒーローたちの姿は、大人から子どもまでの心をわしづかみにし、さらには、当シリーズに描かれた武将たちの刺青(いれずみ)に憧れた江戸っ子たちの間に国芳作品の“彫り物”ブームが巻き起こり、国芳はまさに快哉を叫ぶ思いだったのではないでしょうか。

ピンチをチャンスに転じた奇才

 人気絵師となり、次々と作品を発表していくなかで、天保の改革が起こります。遊女や歌舞伎役者を浮世絵に描いたり、贅沢な風俗を描写したりすることが幕府に禁じられましたが、国芳の手にかかれば、なんのその。猫や雀を擬人化して遊郭を描いたり、役者に似た顔の魚を描いたり、巧みな手法ですり抜け、大衆をよろこばせました。
 天保年間(1830~1844)の終わりごろからは、大判錦絵3枚をワイドスクリーンのようにとらえ、ひとつのモチーフを一図として描く、迫力ある作品を多く発表。浮世絵の新機軸を生み出し、絵師たちに意識改革を与えたことは国芳の大きな偉業のひとつといえるでしょう。
 大鯨も妖怪も大海原も縦横無尽に描かれた国芳の絵は、江戸の人々だけでなく、現代の私たちも魅了し続けます。

「俺たちの国芳 わたしの国貞」展で知る奇想の浮世絵師

上/歌川国芳『讃岐院眷属をして為朝をすくふ図』(さぬきいんけんぞくをしてためともをすくうず) 嘉永4~5 (1851~1852)年頃 大判三枚続 William Sturgis Bigelow Collection, 11.26999-7001 Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston

国芳VS国貞 ライバル物語

 国芳にとって生涯のライバルが、同門の兄弟子であった歌川国貞。国貞は裕福な商人の子であり、若いころから美人画、役者絵の錦絵を発表して脚光を浴びました。
まだ国芳がくすぶっていた若いころに、人気絶頂の国貞が柳橋の芸妓らと遊んでいるところへ出くわして、その悔しさから奮起したという話もあり、やんちゃな国芳にくらべて国貞はまじめな性格だったようです。
 国貞は、当時人気のあった役者や遊女など「江戸の風俗そのもの」を描くことが得意で、それゆえに、現代では歌舞伎や古典文学など江戸の文化に精通する研究者などにファンが多く見られます。
 一方、国芳は、読本(よみほん)や芝居のアクションシーンなど「物語」を描くことが十八番。その物語性によって、マンガやアニメと同じような感覚で、今、広く世界に受け入れられているのかもしれません。
 でも、国芳のスゴさはそれだけではないのです。その画力、その発想、そのユーモア! 知れば知るほど、国芳の作品には、時代と場所を超越する見事な力が備わっていることに、気づかされます。

11s歌川国芳『江戸ノ花 木葉渡  早竹虎吉』(えどのはな このわたり はやたけとらきち) 安政4(1857)年 大判錦絵 William Sturgis Bigelow Collection, 11.21921 Photograph © 2015 Museumof Fine Arts, Boston

10s歌川国芳『荷宝蔵壁のむだ書』黄腰壁(にたからぐらかべのむだがき きごしかべ) 弘化5 (1848) 年頃 大判錦絵 William Sturgis Bigelow Collection, 11.27004 Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston

ボストン美術館所蔵の名宝が来日!
「俺たちの国芳 わたしの国貞」展

 江戸末期から明治にかけて来日した外国人にとって、日本美術はこれまでに見たことのない新しい芸術として新鮮に映りました。
 東洋美術史家で哲学者のフェノロサや医者のビゲローたちが収集した膨大な数の浮世絵は、やがてボストン美術館に所蔵され、世界屈指の浮世絵コレクションを誇っています。
 しかも、それらは近年までほとんど一般公開されることがなかったため、まるで摺り立てのような鮮やかさを保っているのが特長。そのボストン美術館の極上の浮世絵コレクションの中から、歌川国芳・歌川国貞の作品170件(約350枚)が来日する展覧会が開催されます。
 ボストン美術館が所蔵する両絵師の作品を海外で大規模展示するのは、1876年の開館以来初めてのことなのだとか。これを逃すと美術館の規定により、少なくとも今後5年間はお蔵入りして見ることはできません。
 国芳と国貞、そして彫師、摺師(すりし)、版元の息づかいまで聞こえてきそうな色、線、彫、摺・・・・・・。浮世絵の至宝と間近に触れ合う体験をどうか逃さずに!

見どころ その1

国芳・国貞の作品がいちどに見られる!

 初代歌川豊国一門の兄弟弟子であり、生涯のライバルであった国芳と国貞。幕末のツートップといわれる絵師の作品を同時に見ることで絵画の作風の違い、対照的な気質の違いを身近に感じとることができます。
 国芳は豪快な武者絵を、国貞は粋な美人画や緻密な表現を得意とし、それぞれに代え難い魅力があります。ボストン美術館のキュレーター、セーラ・E・トンプソンさん曰く、「国芳はエキサイティング! 国貞はエレガントでグラマラス」。その言葉が大いに納得できるはずです。

13s歌川国芳『初雪の戯遊』(はつゆきのたわむれあそび) 弘化4~嘉永5(1847~1852)年 William Sturgis Bigelow Collection, 11.16077-9 hotograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston

09s歌川国貞『踊形容楽屋之図 踊形容新開入之図』(おどりけいようがくやのず おどりけいようにかいいりのず) 安政3(1856)年 William Sturgis Bigelow Collection, 11.28578-80 & 11.28581-3 Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston

見どころ その2

浮世絵ってこんなにポップ!

 浮世絵は、現代のものに置き換えるならば雑誌やポスター、ブロマイドのようなもの。エンターテインメントを凝縮したメディアでした。絵師も版元も見る人を喜ばそう、驚かそうと試行錯誤し、新しさを追い求めました。だからこそ、現代の私たちが見ても心が高揚するのでしょう。
 キラキラした背景の役者絵は、言わば“デコ”浮世絵!? まるでアイドルのブロマイドのようで、これを手にした江戸の女性たちのワクワク感は、どれほどだったことか! きっと行灯の灯りの下、何度も見られたことでしょう。浮世絵とは、人々の娯楽のために制作されたポップカルチャーであったことを感じることができます。

05s歌川国芳『水瓶砕名誉顕図』(みずがめをくだいてめいよをあらわすのず) 安政3(1856)年 大判錦絵三枚続 William Sturgis Bigelow Collection, 11.38179a-c Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston

上/歌川国貞『「御誂三段ぼかし 浮世伊之助」三代目岩井粂三郎、「葉歌乃新」初代河原崎権十郎、「野晒語助」四代目市川小團次、「夢乃市郎兵衛」五代目坂東彦三郎、「紅の甚三」二代目澤村訥升、「提婆乃仁三」初代中村福助』(「おあつらえさんだんぼかし うきよいのすけ」さんだいめいわいくめさぶろう、「はうたのしん」しょだいかわらさきごんじゅうろう、「のざらしごすけ」よだいめいちかわこだんじ、「ゆめのいちろべえ」ごばんめばんどうひこさぶろう、「もみのじんざ」にだいめさわむらとっしょう、「だいばのにさ」しょだいなかむらふくすけ) 安政6(1859)年 大判錦絵六枚続 William Sturgis Bigelow Collection,11.42194-9 Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston

見どころ その3

江戸っ子が憧れた、国芳と国貞の男と女

 国芳ファンの男たちは、少年マンガを読むように、ヒーローたちが活躍する物語にのめり込む。個人よりも仲間に重きを置き、コミュニティを大切にする、言わば江戸っ子ヤンキー層ともいえる「俺たち」です。
 一方、国貞ファンの中核を担ったのは、アイドルグループのメンバーを好きになるように歌舞伎役者に恋いこがれた女性たち。各々が“わたしの国貞”という感覚でお気に入りの役者絵を手にしていたようです。国芳と国貞が描いたのは、男と女が夢見る世界そのものでした。

01 (1)s歌川国芳『国芳もやう正札附現金男 野晒悟助』(くによしもようせいふだつきげんきんおとこ のざらしごすけ) 弘化2(1845)年頃 大判錦絵 William Sturgis Bigelow Collection,11.28900 Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston

12s歌川国貞『当世三十弐相 よくうれ相』(とうせいさんじゅうにそう よくうれそう) 文政4~5(1821~1822)年頃 大判錦絵 Nellie Parney Carter Collection―Bequest of Nellie Parney Carter, 34.489Photograph © 2015 Museum of Fine Arts, Boston

 最後に、ボストン美術館館長のマシュー・テイテルバウムさんからのメッセージを紹介します。
「ボストン美術館は日本美術を海外に紹介した最初の美術館です。当館の収蔵作品を通じて、こうして世界と対話をするよろこびを感じます。国芳と国貞は江戸時代の大衆文化をいきいきと描いており、現代のマンガやアニメにも通じる共通項を感じさせてくれます。展覧会を通じて、私たちが生きている時代がいかに過去と深く結びついているかに気づいていただけるはずです」

「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」展

2016年3月19日(土)~6月5日(日)
会場/Bunkamura ザ・ミュージアム 東京都渋谷区道玄坂2-24-1
開館時間/10時〜19時(金曜・土曜は21時まで、入館は閉室30分前まで)
入館料/大人1500円
http://www.ntv.co.jp/kunikuni
2016年6月18日~8月28日:神戸市立博物館、2016年9月10日~12月11日:名古屋ボストン美術館 巡回展あり。

※このページに掲載した作品はすべて「ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞」展に出品されます。

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