2018年9月6日まで、山種美術館で「企画展 水を描く ー広重の雨、玉堂の清流、土牛のうずしおー」が開催中です。山種美術館館長の山﨑妙子さんに、みどころを解説していただきました。
美・知・心をみたす展覧会
「躍動的にうねる波や、光を反射する水面など、水の豊かな表情は多くの画家の創作意欲をかきたてたのでしょう。水を描いた絵画には、画家たちの優れた技巧や多彩な表現をみることができます」(山﨑さん)
山種美術館で開催される、水をテーマにした企画展。江戸時代の浮世絵から近代・現代の日本画まで、水の名画が一同に並びます。
まずご覧いただきたいのが、東山魁夷の「緑潤う」。鏡面のような静かな水面が特徴的です。
東山魁夷「緑潤う」昭和51(1976)年 紙本・彩色 山種美術館蔵
「魁夷は、作家・川端康成から直接伝えられた、『京都は今描いていただかないとなくなります、京都のあるうちに描いておいてください』という言葉に心を動かされて、京都の四季を描き始めました。この作品では、修学院離宮の庭園が描かれています。木々の緑が水面に映り込んでいるのが印象的です。当館の開館10周年記念展に出品するために制作されました」(山﨑さん)
一転、川端龍子の「鳴門」は、画面いっぱいに轟々と渦巻く波が迫力満点!
川端龍子「鳴門」昭和4(1929)年 絹本・彩色 山種美術館蔵
「龍子が院展を脱退して立ち上げた団体、青龍社の第一回展で発表された作品です。当初、龍子は神奈川江の浦の木造船を題材に考えていましたが、青龍社の創立という局面において、もっと動的な画面を求めた結果、荒々しい海の象徴として阿波の鳴門を描くことにしたといいます。龍子が新たな門出に際して描いた、渾身の力作といえるでしょう」(山﨑さん)
ときに静かに、ときに荒々しく。描かれた水の姿は、画家たちの心境を映しているのかもしれません。さらに、水のもつ“神聖さ”を感じさせるのが、千住博の「ウォーターフォール」。
千住博「ウォーターフォール」平成7(1995)年 紙本・彩色 山種美術館蔵
「千住博は、『滝というのは、その中に生と死、希望と絶望、光と闇、静と動、明と暗があり、重力によって勢いよく下に落ち、重力に逆らってしぶきが跳ね上がる…そういうふうにこの世界のあらゆることを両義的に表していると思えます』と語っています。絵具を上から下へ流して描かれる、迫力あふれる滝の表現にご注目ください」(山﨑さん)
ほかにも横山大観、川合玉堂、前田青邨、奥村土牛、平山郁夫といった画家たちの作品が一堂に。暑さが厳しくなってゆく季節に、目から涼しくなれる水の絵画展。館内は、作品保護のため涼しく保たれています。この夏は、山種美術館へ心身の納涼に訪れてはいかがでしょう。