Craft
2017.12.05

“蛇”にまつわるアート作品が誘う、 「ブルガリ」の最も重要なアイコン 「セルペンティ」の華麗なる世界

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130年以上の歴史を誇るイタリアの名門ジュエラー「ブルガリ」。その独創的なクリエーションにインスピレーションを与え続けてきた、ブランドにとって最も重要なアイコン。それが、蛇のモチーフで知られる「セルペンティ」(イタリア語で蛇の意)です。「ブルガリ」は2016年、その「セルペンティ」へのオマージュとして、世界中の蛇にまつわるアート作品とアーカイブの伝説的ウォッチ&ジュエリーを融合させた「セルペンティフォーム」展をローマで開催。その世界巡回展が、ついに日本へ。2017年12月25日(月)まで、六本木ヒルズ展望台 東京シティビューにて開催されています。

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この「ブルガリ セルペンティフォーム アート ジュエリー デザイン」展の開催にあたり、「ブルガリ」のブランド ヘリテージ キュレーター、ルチア・ボスカイニさんが来日。古典学に精通するルチアさんは、現職に就任した2014年、ヘリテージコレクションの稀少な作品によって130年以上の歴史をたどる壮大な回顧展を企画し、大成功を収めました。今回の巡回展では、蛇をモチーフにした現代美術やアートフォトの作品を通して、「セルペンティ」の伝説、ひいては「ブルガリ」の華麗な宝飾の世界へと私たちを誘います。また、展示作品のなかには、世界で注目される日本人アーティストが手がけたものも含まれており、それが日本の伝統美術や工芸に少なからず影響を受けている点も注目すべきポイントといえるでしょう。最高の眺望が眼下に広がる会場で、「ブルガリ」と「セルペンティ」の物語、展覧会の見どころ、さらには日本の伝統美術について、ルチアさんにお話を伺いました。

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ルチア・ボスカイニ。ブルガリ ブランド ヘリテージ キュレーター。ローマ生まれ。2001年にブルガリ マーケティング部門に入社、マーケティングディレクター、イベント ヘリテージ部門で活躍。2014年より現職。

南極を除く地球のほぼ全域に生息するといわれる蛇。古より蛇は、あらゆる文明のもと、伝説や神話、芸術のなかに生き続けてきました。その存在は善と悪、二極の意味をもっています。では、「ブルガリ」にとって蛇とは、どのような存在なのでしょう?

「蛇に対してはさまざまな解釈が文化的にありますが、私たちはまず美的な側面から蛇というモチーフに関心を抱いています。その柔軟でフレキシブルな肢体は、女性的で美しく、神秘的。また、蛇が脱皮を繰り返しながら成長していく過程も、常に革新的な試みによって進化を遂げてきた『ブルガリ』の歴史を彷彿させます。『ブルガリ』にとって“蛇=セルペンティ”は興味の尽きることのない、いつの時代も想像力を駆り立てられるモチーフなのです」

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「セルペンティ」が初めて「ブルガリ」の歴史に登場したのは、1940年代のこと。このころは、第二次世界大戦の影響でジュエラーはどこも素材不足に。かつて一世を風靡したプラチナ製のダイヤモンドジュエリーはすっかり影を潜め、それに代わって台頭したのが、ボリュームのあるゴールド製のジュエリーでした。「セルペンティ」はそんな社会背景のもとに生まれたのです。その進化について、ルチアさんの話は続きます。

「1940年代、『ブルガリ』に蛇をモチーフにした腕時計が誕生したとき、時代はミニマリスティックなものを求めていました。そのため、トゥボガス(イタリア語でガスチューブの意)と呼ばれる技法を用いて、ブレスレット部分は蛇のように腕に巻きつく柔軟なつくりに。その腕時計は金属だけの控えめなデザインながら、コンテンポラリーで先鋭的な魅力に溢れていました。1950年代に入ると、それはジュエリーのように華やかなデザインへと進化。ルビーやサファイアといった貴石だけでなく、翡翠やターコイズなど多彩な宝石が使われるようになります。やがて、『セルペンティ』はブレスレットやネックレスなどのジュエリーにまでアイテムを拡大。1960年代には一世を風靡する『ブルガリ』のアイコンへと進化を遂げたのでした」

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そんな「セルペンティ」へのオマージュとして捧げられた「セルペンティフォーム」展。キュレーターであるルチアさんに伺った、その見どころは?

「この巡回展では、私たちのブランドがどんなところからインスピレーションを得ているのか、それを限られたスペースのなかで表現しています。さまざまなアーティストが擁するさまざまなカルチャー。展示作品はその文化的なバックグラウンドまでも考慮しながら慎重に選ばれました。今回の展示作品のすべてに共通するのは、それぞれのアーティストが伝統的なものをコンテンポラリーに解釈して表現しているということ。なぜなら、それこそが『ブルガリ』というブランドの真価でもあるからです」

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アートへの情熱と飽くなき探究心を抱き、アレキサンダー・カルダーやマイケル・ヴェリエットのような遊び心に溢れた現代美術の作家が好きだと語るルチアさん。彼女が注目する現代美術のなかには、日本人アーティストの作品も多く含まれています。

「日本人アーティストの作品は、洗練されていて繊細。見た瞬間にそれとわかるほど特徴的です。今回は、アートフォトも加えると5名の日本人アーティストの作品を選びました。そのなかのひとりが小谷元彦氏で、存在しないものをしているかのように見せる想像力とファンタジーの世界を芸術に昇華させる力量に圧倒されます。また、“ネオ日本画”を標榜する天明屋尚氏は、表現が少し漫画風でユニーク。過去と現在を巧みに融合させています。金子富之氏の作品は、繊細でいてコンテンポラリーで、私からすると非常に日本的。素材にはマザーオブパールの顔料などが使われています」

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金子富之 世界蛇、2012年/World Serpent、2012

伝統的な日本美術への関心も高まる一方だというルチアさんは、今回の来日中に美術館も訪れたいのだとか。また、蛇が日本美術のなかでどのように表現されているかにも興味があるといいます。

「今、ローマで北斎展が開催されていますが、本当に素晴らしい! 日本美術は世界中で注目されていますね。日本の浮世絵師・歌川国芳が描いた武者絵を目にしたことがありますが、そのなかで大蛇が退治される作品はとても興味深いものでした。蛇が邪悪なものとして表現されるところは、イタリアでの蛇の解釈と似ています。カトリックにおいて、蛇は罪の象徴ですから。その一方で、蛇は“永遠、繁栄”のシンボルとして非常にポジティブな意味合いも持っています。その二面性こそが、蛇の魅力といえるのではないでしょうか。ところで、国芳の絵はどこに行けば観られるのかしら?」

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歌川国芳 和田小二郎義茂 荏柄平太胤長 和泉小次郎親衡

ルチアさんの知的好奇心はさらに広がり、その興味は蛇の動きまでも模した“自在”や、精緻な彫刻を施した“根付”などの日本の伝統工芸品にもおよびます。それらは明治時代、海外輸出向けに日本の超絶技巧を駆使してつくられました。ルチアさんは、その素材にも細工にも興味津々なようす。
「すべてがなんてアメージングなんでしょう!この機に日本の美術館を訪れ、実際に自分の目でその素晴らしさを確かめたいと思っています。次の展覧会には、日本の美術工芸品も展示したいですね」

伝統を蛇のように柔軟に進化させていく「ブルガリ」。最近も、日本の帯にインスパイアされたモダンなハイジュエリーを生み出しました。近い将来、日本の伝統美術が「ブルガリ」の革新的クリエーションを刺激する日がやってくるのかもしれません。

「セルペンティフォーム」展

インタビュー・文/福田 詞子 構成/久保 志帆子