濃厚な風味と色合いが特徴の「たまり醤油」。たまり醤油と言えば「お刺身用に使うもの」「ドロドロしていて塩気が強い」と思っている方も多いかもしれません。
でも実は、昔ながらの製法で丁寧に作られるたまり醤油は、いろいろな料理を美味しくしてくれることをご存知でしょうか。たまり醤油そのものの旨味や甘味を生かせば、減塩・減糖にもつながります。
さらに、小麦を使わず大豆と塩だけで作られるため「グルテンフリー」。たまり醤油は、欧米を中心に海外でも大人気の調味料なんです。
今回は仕込み蔵を訪ねて学んだ、たまり醤油の魅力とその使い方についてご紹介します。
まず、たまり醤油とは
たまり醤油は、愛知県特有の「豆味噌」をつくる工程で生まれたのが始まり。豆味噌を手作りした経験のある方はよく分かると思いますが、味噌を熟成させる途中で表面に薄っすらと浮いてくる液体そのものです。旨味と香りが強くトロリとしているのが特徴で、刺身や寿司、せんべいなどによく使われています。
通常の醤油は大豆と小麦で作られるのに対して、たまり醤油は大豆のみで作られることがほとんど。「グルテンフリー」の調味料としても最近注目を集めています。
また、仕込みに使う食塩水の量が少なく、一年以上の時間をかけてじっくりと熟成をさせるため、通常の醤油に比べて見た目も味も濃厚に仕上がります。
実は減塩したい人にもおすすめ
その濃厚な風味から「塩分が多いのでは?」と思われていますが、たまり醤油に含まれる塩分濃度は濃い口醤油と同じ位の約16~17%。ちなみに薄口醤油は約18~19%、白醤油は約17~18%。色の濃淡から連想されるイメージに反して、たまり醤油に含まれる塩分量は実は少なく、ちょっと驚きですよね!
さらに旨味や香りが強いため少量でも満足感を得やすいこともあり、「たまり醤油は減塩したい人にもぴったり」なんです。
「たまり醤油=刺身用」ではない!
たまり醤油と聞くと「刺身用に使うもの」と思っている方も多いようですが、そんなことはありません!仕込み蔵を訪ねて分かったのは、厳選された素材で作られるたまり醤油は、シンプルな料理を引き立ててくれる最高の調味料だということ。和の定番おかずはもちろん、いろいろな料理に使うことができます。
ということで、美味しいたまり醤油を求めて愛知県知多郡武豊町の「南蔵商店」さんへ。明治5年(1872年)に創業し、昔ながらの製法でたまり醤油を作っています。
今回は、南蔵商店六代目の青木良之さんにお話を伺いました。
では早速、この時期におすすめの二品をご紹介しましょう。
和食の定番「ぶりの照り焼き」。「魚をたまり醤油に一晩漬けて焼くだけで、とても美味しいですよ」と良之さん。同じ作り方で、鶏肉をたまり醤油に漬けて焼くだけの「鶏肉の照り焼き」も好評の一品です。
もうひとつのおすすめは、「お餅の磯辺焼き」。一般的には「醤油+砂糖」でいただくことが多いですが、こちらも砂糖は加えずに、使うのはたまり醤油だけ。とっても美味!
「料理が苦手」という方にもおすすめ
他にも美味しい使い方を尋ねてみると「ほとんどの料理にたまり醤油を使っていますよ」というお返事が返ってきました。炊き込みごはんや煮物、炒め物など、普通の醤油を使う感覚で使っているそうです。
「よく言われるたまり醤油の『ドロドロ』『真っ黒』『塩辛い』というイメージは、添加物を使って短期間で作られたものから来ていることが多い。昔ながらの製法で作られたたまり醤油とは違うものなんですよ。」と良之さん。
たしかに、こちらのたまり醤油はいろいろな料理に使える万能選手!今回ご紹介した料理はほんの一例ですが、他の調味料を加えなくてもたまり醤油だけで味がまとまるので「料理が苦手」という方にこそ、おすすめです。
素材を厳選し、手間暇かけて仕込む
続いて、たまり醤油が作られる工程を見てみましょう!
原料は、大豆と塩のみと極めてシンプル。大豆は、貴重な愛知県産大豆にこだわっています。
蒸しあがったばかりの大豆は、ほんのりとした香りと甘さがあり、そのまま食べても美味しい!
これを味噌玉にして、3~4日かけて室(むろ)に入れて麹を作ります。この麹づくりは、3年後のたまり醤油の味を決めてしまうほど重要な作業なのだとか。
たまり麹を杉の木桶に入れて、塩水を注ぎ、重石を乗せます。
仕込みの初期は、表面が乾かないように「汲掛け(くみかけ)」を行います。蔵のなかで自然に任せて、じっくりと発酵させます。
圧搾では、味噌が包まれた布を600枚重ねたものに重石を乗せて、2日間かけてじっくりとたまり醤油を絞ります。
仕込み桶の下部の口から抽出するのが「生引」、生引の後にもろみ味噌を布で薄く延ばして包み、重ねて絞るのが「圧搾」です。
原材料や搾り方によって「なじみ」「つれそい」「わらべうた」という3種類のたまり醤油が出来上がります。
食養生にも「たまり醤油」
話の途中でいただいたお茶にも、たまり醤油が入っていました。番茶に少量のたまり醤油を加えたもので、「血液をきれいにしてくれるんですよ」とのこと。疲れた身体にジンと染みわたる美味しさ!
食養生やマクロビオティックでは「梅醤番茶」という伝統的なレシピがありますが、今回の「番茶+たまり醤油」のお茶は、より手軽に作れるところが忙しい時には嬉しいですね。厳選された素材と製法で作られた、このたまり醤油だからこそのレシピです。
「シンプルに味わうのが一番美味しいと思う」
話の途中で、五代目の青木弥右エ門さんがおしゃっていた言葉ですが、こちらのたまり醤油をひとなめするだけでも、何だか元気になりそう。大切に作られたたまり醤油だからこそ、大切に味わいたいですね!
海外でも大人気!
冒頭にも書きましたが、たまり醤油は一般的な醤油とは違い「グルテンフリー」であることからも、欧米諸国を中心に人気を集めています。
南蔵商店さんも20年以上前から東京の商社を通じて輸出を行ってきたそうですが、昨今の日本食ブームを受けて、出荷量は当初の倍近くに急増。現在は40ヵ国以上に輸出しているのだとか。
となると気になるのが、現地でのたまり醤油の使い方ですね。ヨーロッパでは「オリーブオイル+たまり醤油」の組み合わせが好評で、たっぷりの野菜にかけて食べているそうです。美味しくて身体にも良いものは、国籍を問わず多くの人に愛されているんですね!
「良いものを作り続けたい」
良之さんとお話していて印象的だったことのひとつは、たまり醤油を愛用しているお客さんの声がたくさん届いているということ。
・他のメーカーの醤油を使ったら『違う味がする』と子どもに言われてびっくりした
・こちらの醤油で料理を作ったら、お姑さんから『とても美味しいけど、この料理はどこで買ってきたの?』と言われました(笑)
他の醤油と同じように見えてもどこか違う「身体に染み込む味わい」。その味に惚れ込んで2、3世代に渡り使い続けているお客さまも多いのだとか。
入社して今年で5年目になる良之さんは、幼い頃からこうしたお客さんとのやりとりを間近に見てきました。そして実際に仕事を始めるようになって、いろんなことに気が付くようになったと言います。
最初は正直なところ、「毎日同じことの繰り返し」「地道な作業がほんとうに多い」と感じていました。
でも、みんな当たり前のことをとても丁寧にやっている。
「ちょっとした違いが、数年後に大差になる」「いいもの作り続ければ大丈夫」という先代の言葉を昔からよく聞いていましたが、実際に毎日現場に入るようになり、その意味が身に染みて分かるようになってきたんです。
最後に、今後への想いについてもお尋ねしました。
昔からの味を継承していくことはもちろんですが、たまり醤油の魅力をこれからもどんどん広めていきたい。こだわりを持って、良いものを作り続けていきたいと思っています。
そう熱く語る良之さんに、何だかとてもパワーをいただきました。今回蔵元を見せていただいて、「たまり醤油が口にも身体にも美味しい理由」が分かったような気がしました。皆さまも機会がありましたら、ぜひともご賞味くださいね。
◆南蔵商店
住所:愛知県知多郡武豊町里中58番地
営業時間:9:00~17:00(土日祝休み)
公式サイト:https://minamigura.com/
*仕込み蔵の見学は、5名以上から対応しています。
見学を希望される方はご相談ください。