18世紀の京都で活躍した絵師・伊藤若冲と、17世紀のオランダはデルフトで作画を続けたフェルメール。時と場所を隔てながらも、彼らの才能は21世紀を生きる私たちを熱狂させます。「そんなふたりの天才アーティストの作品をモチーフにした、なんか面白いモノをつくりたいネ」ということで、「和樂」の遊びゴコロをスパイスに、ニッポンの伝統工芸によるオリジナル商品をいくつかつくりました! まずご紹介するのは、フェルメールの「牛乳を注ぐ女」にちなんだピッチャーです。
ヨハネス・フェルメール「牛乳を注ぐ女」アムステルダム国立美術館 ©Rijksmuseum,Amsterdam/PPS通信社
「んんん? これって備前焼っぽくない?」
本誌でも商品企画時のひらめきはご紹介しましたが、一度思い込んだらフェルメールの「牛乳を注ぐ女」で描かれたミルクピッチャーが、備前焼に見えて仕方ありません。
備前焼は日本六古窯のひとつに数えられる伝統焼物。そのルーツは、5世紀前半の古墳時代に朝鮮半島からもたらされた焼成技術を用いた須恵器(すえき)にあります。それまでの土器や土偶など縄文時代からの焼物は野焼きでしたが、須恵器は窯で焼くので高温状態を長く保て、より焼きしまった丈夫なものになるのだとか。「備前焼でフェルメールのミルクピッチャーつくろう。そうだ、一陽窯の木村さんにつくってもらおう!」
備前焼のふるさとは、JR赤穂線の伊部(いんべ)駅からすぐのエリアに。
一陽窯の3代目“ロックな”木村肇さん
ここで備前焼の窯元のひとつ、一陽窯をご紹介します。
岡山駅から在来線に乗り換え、JR赤穂線のかわいらしい列車に揺られて40分。伊部(いんべ)駅を降りるとすぐに備前焼伝統産業会館や備前焼ミュージアムがあり、ここが備前焼の郷であることを実感するはず。駅から北方面へまっすぐ伸びる通りを歩くこと3分、突き当りに店を構えるのが一陽窯です。
備前焼は、室町時代に生産の集約化をはかり、江戸時代には窯元六姓が窯株を独占することによって技術や生産性を守ってきました。その備前焼窯元六姓のひとつ、木村家13代の次男が独立したのが一陽窯で、3代目となる木村肇さんは現当主であるお父さまと作陶する若きホープ。盛り皿としてもイイ感じの平らな形のすり鉢や(木村さんは、お子さんの離乳食をつくるのに野菜や何かをすりおろしやすいようにと考案したそう)、スパイス好きの間でも話題のスパイスミルなど、一千年の歴史をもつ備前焼を現代の暮らしのなかで使いやすいように…と、ヒットを飛ばしています。(和樂では、伝統と革新のはざまでがんばる人を「ロックな」と表現してリスペクトしています!)
「できる人」は「すぐやる人」
そうなりたい…そうなろう!
そんな木村肇さんに、「フェルメールの『牛乳を注ぐ女』のミルクピッチャーをつくりませんか?」ともちかけてスタートしたこの商品。作品資料を、(たぶん)穴のあくほど夢に出てくるほど見続け、全体の形はこんなかな、持ち手はこんな風についているのかななどと想像を膨らませ、経験を活かし、見事に再現してくださいました。
一陽窯の木村肇さん。和樂6・7月号の「茶の湯ライフ(kissako Life)」特集で、抹茶をフリースタイルで楽しんでいる人として取材させていただきました。写真は、今回のピッチャー制作の打ち合わせも兼ねた茶の湯ライフ取材時に、「ちょっと形にしてみましょうか?」と、即興でつくってくれたもの。この時点でかなりの完成度です!
・・・・・・ね?
フェルメールが生きた17世紀のオランダに思いを巡らせ、イメージを膨らませ、細部にもこだわり、春の窯入れに無事間に合い・・・・・・
「和樂×一陽窯 フェルメール備前焼ピーッチャー」が完成しました!
備前焼特有の色合いも、ざらっとしているようで意外となめらかな肌触りも、フェルメール作品に描かれたピッチャーはきっとこんなだったのではと思える仕上がりです。
備前焼は表面に微細な凹凸や気泡があるため、水がおいしくなるとか、ワインのデキャンタージュに向いているとか、ビールの泡立ちもいいとか、じつはピッチャー向きのやきもの。和樂10・11月号でも紹介したように、切り花を入れたりグリーンを盛ったりしても素敵!
じゃじゃ〜ん!作品イメージを再現した素敵なスタイリングで、「フェルメール備前焼ピッチャー」の魅力がより際立ちました。撮影に使用したのは大きいほうのサイズです。撮影/白石和弘 スタイリング/城 素穂
フェルメール備前焼ピッチャー
大小2種類で販売中!
フェルメールの作品に描かれたピッチャーを、備前焼で再現したこの企画。「これって・・・・」という思いつきからグングン商品化へと進み、世界の名画とニッポンの手わざが出合って見事なものができ上がりました。容量約2.1リットル(高さ18cm)と、容量約1リットル(高さ14cm)の大小2種類の備前焼ピッチャー。ひとつひとつ肌の表情(色味など)が異なるところが備前焼の特徴であり魅力なので、「世界にたったひとつ」でもあるのです。
一千年の歴史と伝統をもつ備前焼で、17世紀オランダの空気感を、現代の生活空間やスタイルにも沿うデザインで表現したこのピッチャー。数量限定でお分けします!
釉薬をかけないので、火や灰などの具合いによってひとつひとつ肌の表情が異なるところも備前焼の魅力です。撮影/小池紀行(パイルドライバー)
「和樂×一陽窯 フェルメール備前焼ピッチャー」
商品の詳細はこちらから
写真/一陽窯、小竹智子 文/小竹智子