食卓の「名脇役」を貫く、信州生まれの七味唐からし
ピリリと清々(すがすが)しい辛みに、鼻をくすぐる香り。その起源は、寺の境内で初代が売り始めた自家製七味。日本独自の七味唐辛子ですが、実は材料や配合に定義はないのだとか。約270年続く「八幡屋礒五郎」のそれは、蕃椒(ばんしょう)と呼ばれる唐辛子に、信州産の山椒や生姜、麻の種・胡麻・陳皮ちんぴ、(蜜柑の皮)、紫蘇(しそ)を合わせた秘伝の滋味。江戸中期、境内の一等地「御高札前(ごこうさつまえ)」に店を張る特権を許されたころは、客の好みに応じ、七つの味を調合しながら売っていたそうです。「計量はせず、2匁(もんめ)、8gの小匙で袋に掬い込む匙加減売りでした」と代表の室賀(むろが)豊さん。
年々入手困難になる長野産の唐辛子をつくるため、自社農場まで開きましたが、「七味は主役ではありません。蕎麦や味噌汁の引き立て役。でも、だからこそ風味が大切なのです」。大量に買うと使い切るまでに風味が落ちるため、「迷ったら、小さい袋を勧めなさい」と代々言い継がれているそう。儲けより味と品質。名脇役の誇りを守り続けています。
現在は善光寺参道すぐ前の大門町に本店を構える。本店では、「唐辛子多め」「山椒と陳皮を増量」など、七つの味を調合してもらえる昔ながらの買い方も可能。