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2026.10.12

「中秋の名月」「後の月」のお飾りと『丸玉のお椀』【南禅寺畔 瓢亭、花がたり 味がたり】

京都・南禅寺(なんぜんじ)門前の茶店として始まり、江戸時代後期から料亭として今に至る「瓢亭(ひょうてい)」。品格ある店の佇まい、茶の心に通じる料理ともてなしが400年以上、創業家によって保たれているのは世界の料理店でもここだけです。主人兼料理人として調理場に立ち、生涯現役をうたう14代主人・高橋英一さんとそれに続く長男で15代の義弘さん。現役親子が料理、しつらいなど店のあらゆることを語る『和樂』本誌の連載「南禅寺畔 瓢亭 親子がつむぐ日本のこころ 花がたり 味がたり」、今回は「月を待つ」。

月を待つ

中国から伝来し、平安時代から始まったという日本のお月見。
江戸時代以降は秋の収穫に感謝し、翌年の五穀豊穣(ごこくほうじょう)を祈る行事として定着しましたが、昨今はその意味が薄れ、とかく“月を愛でる”ことだけに目がいきがちです。
ところが、ここ瓢亭には古くからの風習がしっかり残っていました。

「初月夜(はつづきよ)のころ(陰暦8月初め)から、床几(しょうぎ)の上に月見の飾りをしつらえるのが恒例ですね」と英一さん。

初月といえば、夕方に見え始め、日没には沈んでしまうごく細い月。その月が日ごと満ちて、陰暦8月15日の夕方から出る月が「中秋(ちゅうしゅう)の名月(十五夜)」といい、1年で最も美しく見えるといわれます(今年は9月25日)。

【中秋の名月(十五夜)のお飾り】

「昔の人にならって、秋の月は2か月にわたって楽しみます」 高橋英一 瓢亭14代主人

中秋の名月までは餅が供物に。9月半ばを過ぎ、庭に咲き始めた萩を生けた英一さん。まだ暑さの残る時期、すすき、吾亦紅(われもこう)、りんどうなどは花屋から調達。

また、翌月(陰暦9月)の「十三夜の月」は、十五夜に並ぶ名月といわれ、「後(のち)の月」(今年は10月23日)との名が。
「後の月」を愛でるのは日本独自の文化だそうですが、この約2か月はちょうど稲や穀物が収穫期を迎えるころ。前半・後半とお供えに変化をつける伝統にならって、瓢亭も初月のころから中秋の名月まで、それから後の月までと供物を変えています。

【後の月(十三夜)のお飾り】

「旧暦8月15日をカレンダーで確認して月見の準備を始めます」 高橋義弘 瓢亭15代主人

通りに面した土間の床几に座るふたり。南禅寺の門前茶屋の面影が残るたたずまいに月見のお飾りがにあう。別名「栗名月」と呼ばれるこの時期は、丹波から届く新栗をお供えに。

床几の上に置かれた漆塗りの三宝(さんぽう)。
ここに、すすきを中心にした秋の花、御神酒(おみき)、季節の農作物が置かれますが、前半は、芋をかたどった餅がお供えに。
後半は、収穫したばかりの丹波栗と枝豆が入ります。

また英一さんの生ける花も、雰囲気が一変。前半はちょうど店先の庭に咲き始めた萩が入って華やかな印象ですが、後半、10月に入ると秋も深まり、貴船菊(きぶねぎく)やほととぎすなどの侘(わ)びた花に。
「秋の花はどれも細かくて、そこがかわいい」と庭から切り出した花をそろえる英一さんは、ふだんとは異なるしつらえに、心が弾んでいるようです。
「夕方になるとろうそくを灯(とも)して、営業が終わるまでずっとつけているのですが、障子にゆらめく炎にも風情があっていいんですよ」と目を細める義弘さん。

左/中秋の名月を迎えるまでのころ、床を飾る軸は、幕末に活躍した日本画家・守住貫魚(もりずみつらな)の描く平家物語の一節。中秋の名月の下、源仲国(みなもとのなかくに)の吹いた笛の音に小督(こごう)が「想夫恋(そうふれん)」の琴の音で応える。右/この軸に合わせて英一さんが籠に生けた花は、紫式部、貴船菊、秋海棠(しゅうかいどう)。10月半ば、自邸の庭で大切に育ててきた茶花より。うつむき加減に咲く貴船菊が気に入っている。

茶店を前身とする瓢亭は、今も“玄関があるようでない”つくりを保っています。それだけに、通りに面して置かれた床几は瓢亭にとって玄関のような場。
月見のお飾りを介して、道行く人々や近所の方、お客様と1年の無事を祈り、分かち合うことを大事にしています。

左/花を供える英一さん。手前の供物は丹波栗と枝豆。中/瓢亭の若きスタッフの手製による餅。芋をかたどっている。右/毎年、見事な花を咲かせる萩。

さて、中秋の名月のころまで店でふるまわれる料理にも、月見にかけた一品がありました。
「すっぽんを京都ではマルと呼びますが、マルと満月をかけた『丸玉(まるたま)のお椀』が定番です」と義弘さん。

食べやすく切ったすっぽんにしっかりと味を含ませて、卵とじ(玉締め〈たまじめ〉)にした満月の玉子豆腐が、生姜を利かせた吸い地に浮かぶ、なんとも風流なお椀です。

【丸玉のお椀】

「すっぽんを玉締めにして、お月さんに見立てた椀ものは、この時期だけの一品。“月とすっぽん”の取り合わせの妙をお楽しみください」 義弘さん

「丸玉のお椀」。手前に見えるのは焼き粟麩(あわふ)。菊の椀は川端近左(かわばたきんさ)作。

すっぽんの玉締めに添えた三度豆(さんどまめ)はすすきを、白髪ねぎがたなびく雲を表しているそう。実は、すっぽんは瓢亭ではこの時期しか扱わないそうで、この時期がいちばん身に脂がのっていて、滋養にもいいそうです。
「月とすっぽんは昔から相性がいいですから(笑)」というオチまでつくのが楽しい、美味しいお椀です。

中秋の名月を過ぎると、お椀は名残の鱧(はも)と走りの松茸(まつたけ)を合わせたものへ移行しますが、料理に関しては暦どおりにはいかないとか。
「献立も陰暦の8月15日を軸に考えるわけですが、あたりまえですが毎年ずれるし、ずれる幅が10日ぐらいあると、食材が重なってきたりします。
しかも、松茸の出荷が年々早まってきたりして。『丸玉のお椀を出したいのに、松茸もある。どうしようかな』と悩むことが増えました。
とはいえ、こんな話題ができるのもお月見ならでは。『今年は早く来たな』とか『遅かったな』と言いながら、季節の巡りを感じて楽しんでいます」

高橋英一 1939年生まれ。東京、大阪の料亭での修業を経て28歳で瓢亭14代主人を継承。2013年に料理人として初めて京都府指定無形文化財「京料理・会席料理」保持者に認定。2025年、文化功労者に選定。
高橋義弘 1974年生まれ。金沢の料亭での修業を経て、2015年より瓢亭15代主人を継承。2018年「瓢亭日比谷店」を開業し、京都と東京を行き来しながら料理に励む。

瓢亭本店 DATA

住所:京都府京都市左京区南禅寺草川町35
電話:075-771-4116
公式サイト:https://hyotei.co.jp/
趣の異なる4つの館で茶懐石にのっとった懐石料理を提供。
※日比谷店で季節に応じた料理発送サービスが始まりました(https://www.umai-mon.com/)。

※本記事は雑誌『和樂(2026年10・11月号)』の転載です。
※高橋英一さん・高橋義弘さんの【高】は「はしごだか」が正式表記です。
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和樂web編集部


撮影/原 祥子 構成/藤田 優、古里典子(和樂)
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