南禅寺畔瓢亭親子がつむぐ日本のこころ 折々の鮎
焼き台を占める、串打ちされた鮎。
朝から焼方(やきかた =焼物担当)が顔を真っ赤にしてうちわをあおぎ、つきっきりで鮎を焼きます。
「7月、8月は本店で朝がゆの提供があるので、そこに必ず鮎の塩焼きが入ります。
朝がゆを年間を通してふるまっている別館でも、この時期は別注文で塩焼きがつけられるんですね。
夜のお客様の焼物も鮎ですし、夏の間は鮎焼きに明け暮れます。
鮎は強火で焼かないといけないし、焼き台の前はめちゃくちゃ暑いんですよ。ただでさえ京都の夏は暑いのに」と苦笑いを浮かべる義弘さん。

「一度食べたら忘れられない」と評判の瓢亭の鮎の塩焼き。
皮目は香ばしいのに、身はしっとりしてふわふわ。骨まで焼き切っているがゆえに、頭から尻尾まで食べ切れる。
おいしさの秘密はどこに?
「料理人にとってはあたりまえすぎて声高に言わないことですが、まずは生きた鮎を焼くことですね。
内臓の苦みが鮎の味わいを占めますが、味が全然違います。
そして生きたまま焼かないと、こんなきれいな姿になりませんし、ひれもピンと立ってきません。
生きている鮎を焼くおいしさを言い出したのは魯山人(ろさんじん)ですが、その通りだなぁと思います。
京都は川魚を食べてきた文化があるので、生きた鮎は入手しやすいし、天然のもの、養殖とどちらも選ぶことができますが、育ち方にはこだわらないようにしています。
というより、鮎はとても繊細なので雨が降ったら、その日はとれなかったりする。
育ちよりは、どんな鮎でも同じように焼けて、楽しみにしているお客様にお出しできることを大事にしています」
【夏】鮎塩焼き

10月、いよいよ子持ち鮎が登場し、焼物や鮎ごはんを提供するまでの“つなぎ”として、8月末・9月頭ごろから数週間だけ献立に上るのが「鮎田楽(あゆでんがく)」。
これは「そろそろ塩焼きにも飽きてきた」常連客の声に応えたもので、鮎の内臓を味噌と炒めて、腹に戻して焼くという手の込んだ一品で、お酒好きの心をとらえて好評だとか。
シーズンが終わっても鮎とのつきあいは続きます。
鮎の内臓を塩漬けにした自家製の調味料「うるか」は、秋から冬に味に深みを出すために使うなど、鮎は瓢亭にとって大切な食材なのでした。
【晩夏】鮎田楽

「なんといっても、鮎は姿形が美しい。昔の日本画家は鮎の絵を上手に描いていましたよね。
それを見ていると、日本人にとって鮎は特別な魚だったんだな、と思うんです。
日に日に成長していく鮎の命をいただくことは、料理する者にも気持ちが入ります。だからこそきれいに焼きたいし、焼けたときは本当にうれしい。
鮎を食べる文化は日本にしかありません。大事に残したいですよね」と言葉を締める義弘さんです。
【春】小鮎揚げ焼き山菜酢添え

次に、焼き方の工夫。
「鮎は骨ごと食べるのがおいしい」と考える14代主人・英一さんから続いている、細い炭を高く盛り上げる「鮎専用の炭の組み方」から独自の火入れが始まります。
火加減は“遠目の強火”が基本。
その上で、鮎の身にある脂を尾から頭へ、腹から背へと串を返しながらまんべんなく行き渡るようにします。
そろそろ仕上げとなったら、そこから炭を組み変えて、うちわのあおぎ方も変えて、という細かな調整が入ります。
「揚げ物も最後に温度を上げて水分を飛ばしますよね。それと同じ感覚です」と義弘さん。

身の表面に脂が浮かんだら、骨の中まで焼き切った合図。
瓢亭の魚はすべて炭火で焼かれますが、およそ15分もかけて丁寧に焼くのは鮎だけとのこと!
最後に、鮎の大きさにも“瓢亭好み”がありました。
「一尾が立派すぎて、鮎だけでお腹がふくれるのも嫌ですし、2丁づけで満足していただくのがいいのかな、と思っています。
うちの鮎がお好きな方は、2丁のところを3丁づけにされますしね(笑)」
鮎の命はわずか1年。稚鮎から小鮎、若鮎から子持ち鮎と姿を変えて、短い一生を終えます。
瓢亭では現在、小鮎、若鮎から子持ち鮎を食材として使い、それぞれに適したレシピを考案。
髙橋英一 1939年生まれ。東京、大阪の料亭での修業を経て28歳で瓢亭14代主人を継承。2013年に料理人として初めて京都府指定無形文化財「京料理・会席料理」保持者に認定。2025年、文化功労者に選定。
髙橋義弘 1974年生まれ。金沢の料亭での修業を経て、2015年より瓢亭15代主人を継承。2018年「瓢亭日比谷店」を開業し、京都と東京を行き来しながら料理に励む。
瓢亭本店 DATA
住所:京都府京都市左京区南禅寺草川町35
電話:075-771-4116
趣の異なる4つの館で茶懐石にのっとった懐石料理を提供。
公式サイト:http://hyotei.co.jp/
※日比谷店で季節に応じた料理発送サービスが始まりました。(https://www.umai-mon.com/)。

