Craft
2020.07.15

四国の丸亀うちわとは?歴史や作り方の特徴などを、体験もできる工房の職人に聞いた!

この記事を書いた人

夏の風物詩のひとつ、うちわ。クーラーとも扇風機とも違う優しい風に癒されます。しかし国内で生産されるうちわの9割が、うどんでおなじみの香川県丸亀市で作られていることはあまり知られていません。うちわが丸亀市の名産品になったのは江戸時代の「金比羅参り」に秘密がありました。今回は昔ながらの技法を守る丸亀うちわの歴史と繊細な職人の技、進化する令和のうちわをご紹介します。

金比羅詣でのお土産としてブレイク

丸亀うちわとは香川県丸亀市周辺で作られているうちわのこと。江戸時代の初期に四国の「金比羅参り」(こんぴらまいり)のお土産として考案されたものです。金比羅さんの天狗の羽うちわにちなんだ、朱赤に金比羅宮のオフィシャルロゴ「丸金」が入った渋うちわが発祥と言われています。当時の金比羅参りは伊勢参りと同じく、皆が旅費を出し合って代表者がお参りするスタイル。そのためお参り記念の土産として軽くてかさばらないうちわに人気が集まったそうです。

1781~1789(天明年間)年には、丸亀藩の下級武士の内職として奨励されたことから代表的なうちわ産地の基盤が築かれました。「伊予竹に土佐和紙貼りてあわ(阿波)ぐれば讃岐うちわで至極(四国)涼しい」と唄われたように愛媛の竹、高知の和紙、徳島の糊と材料を近県から調達しやすかったことも丸亀うちわが発展した要因のひとつです。

丸亀うちわは1633(寛永10)年に金比羅大権現の別当である金光院住職が考案した渋うちわの「男竹丸柄うちわ」と、1780(安永9~寛政1)年代に丸亀藩が製作を奨励した「女竹丸柄うちわ」、明治時代に丸亀市富屋町の卸問屋が奈良うちわに倣って提唱した「塩屋平柄うちわ」この3つの要素が融合され現在に至っています。

広告・販促ツールとしての地位も確立

1892~1896(明治25~29)年にうちわ職人の大久保龍次郎氏が塩屋村(現在の丸亀市塩屋町)に共同工場を開き、1894(明治27)年に「丸亀団扇株式会社」が設立されました。

大正初期に、竹骨の切込みに使う「切り込み機」と広げた穂骨を左右から支える鎌を通す穴を開ける「穴あけ機」が発明されると、うちわの生産量は大きく増加していきました。これらの機械は丸亀の業者であればだれでも自由に使えたからです。加えて1933~1935(昭和8~10)年には名入れ印刷機が発明され、名前や企業名を入れた広告・販促ツール、記念品として親しまれるようになりました。こうしたことも追い風になり、日本一のうちわどころとして生産量を伸ばしました。それ以後、戦争により生産が減少し、それまで主流だった「女竹丸柄うちわ」に代わり、現在でも広く親しまれている「平柄うちわ」が中心となっていきます。現在では手作りの竹製、プラスチック製のものを合わせ、毎年1億6,400万本のうちわが丸亀で生産されています。プラスチック製と竹製の比率は9対1。竹うちわの9割には中国から輸入された骨が使われているため、骨から最終製品まで手作りされているのは数万本に満たないといいます。

400年の歴史と技術を持ち、地場の原材料を使い他の地域では製造できないものを作っている一方、丸亀市では現在、職人の高齢化に伴う後継者不足や業者の廃業が深刻化しています。その課題を解消するために、1999(平成11)年から後継者育成事業(若年層等後継者創出育成)が実施されています。その第一期受講生を経て、現在は9人いる伝統工芸士のひとりとして活躍しているのが、うちわ工房三谷の三谷順子さんです。三谷さんの手がけた「そよかぜうちわ」は「2019年度かがわ県産品コンクール」の知事賞を受賞しました。現在はうちわ作りの傍ら、後継者育成事業を修了した“若き”職人さん仲間と丸亀城内の「うちわ工房竹」を運営。ここでは販売だけでなくうちわ作りの見学や体験教室(現在体験は中止。9月から再開予定)なども行っています。


今回は三谷さんの解説で実際にうちわ作りの工程を見学し、一部を体験させてもらえることになりました。

驚きの47工程に込められたうちわ作りの職人技

丸亀うちわ作りの工程は大きく「骨」と「貼り」に分かれます。昔は「骨」「貼り」それぞれに専門の職人がおり、分業されていましたが現在ではほとんどの職人さんが1人で全ての工程を担っています。

完成まではなんと全47工程。気の遠くなるような緻密な手作業を重ね、ようやく1本のうちわが出来上がります。丸亀うちわの骨に使用する真竹は3~5年もの。竹のふしを見ると何年物か判断できるそうです。三谷さんは年2回、材料の竹を自ら取りに出かけます。まずは「木取り」の工程。とってきた竹はうちわに適した一定の幅で鉈を使い割っていきます。真っすぐ割れる竹の性質を利用してリズミカルに正確な幅にカット。


「切込機」を使い穂先から5~10㎝の所まで32~42本の細かい切り込みを入れていきます。その切込み部分を握り左右にひねり上げるようにすると、ふしの部分まで同じ細さで竹が割れていきますが、なかなかの力仕事。


「穴あけ」「柄削り」などいくつもの行程を経て、糸で紙を貼る部分の穂を1本ずつ編みます。その後、美しい曲線となるように穂を整えながら左右対称になるように広げ、糊を付けて紙を貼っていきます。




三谷さんの作る「そよかぜうちわ」は切込んだ穂をさらに半分の厚みにして倍の本数にしているので、和紙から透けて見える穂が繊細な柄を描き、まるでかげろうの羽を思わせます。その重さはなんと17g。驚くほど軽いうちわで、あおぐと柔らかな風が体を包んでくれます。繊細なフォルムが涼しげでおしゃれだと、県内はもちろん百貨店やコンビニなどで夏のギフトとしても人気だそうです。


うちわ作りの技法は基本的な部分は同じですが穂の数や編み方、骨に貼る紙や布、形などは作り手の自由。三谷さんも定期的に新作に取り組んでいます。「道具としてのうちわに加え、伝統を守りつつ新しいスタイルに挑戦したい。インテリアや贈り物にしても喜ばれるような竹の良さを生かしたうちわ作りに取り組んでいきたい」と三谷さん。扇子もすてきですが、今年の猛暑はバッグからひょいとマイうちわを出して仰げば涼しく乗り切れそうですね。

丸亀城内のうちわ工房「竹」ではうちわの販売やうちわ作りの様子が見学できるほか、9月からはうちわ作り体験も再開予定です。

うちわ工房竹 基本情報

店舗名: うちわ工房竹
住所: 763-0025 香川県丸亀市一番丁丸亀城内
営業時間: 10:00~16:30
休館日:水曜
公式webサイト:うちわ工房竹