「燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)」
光琳が法橋(ほっきょう)という位を賜った40代の半ばに手がけた「燕子花図屏風」は、「八橋図屏風」に先駆けて「伊勢物語」八橋の場面を描いたもの。燕子花は八橋の描いたもの。燕子花は八橋の場面で詠まれた「(か)ら衣(き)つつ慣れにし(つ)ましあれば(は)るばる来ぬ(た)びをしぞと思う」の各句の頭の5文字が詠み込まれた、「伊勢物語」ゆかりの花。抱一の大胆なアレンジは秀逸!
京琳派
尾形光琳
初期の画業を代表する、華麗で雅な琳派の至宝
金地屏風に群青と緑青(ろくしょう)のみの限られた岩絵具で描かれた満開の燕子花は、色彩も構図も、まさに琳派を代表する意欲作。右隻は花のかたまりを上下に配したグラフィカルな配置になっていて、躍動感さえ感じられるほど。平安時代の公家の雅な世界を、人物を省いて表現した物語絵の最高傑作としても知られている。
尾形光琳「燕子花屏風」(右隻)六曲一双 紙本金地着色 各151.2×358.8㎝ 江戸時代(18世紀) 国宝 根津美術館蔵
江戸琳派
酒井抱一
憧れるがゆえにあえて創造を加える心意気
光琳画を手本にした同じ画題でありながら、画面を縮小し、燕子花の配置も大胆に変更。光琳画に憧れながら、みずから江戸琳派を率いていこうとした抱一の強い意志がうかがえる作品。金地の空きを広げた構図や、手前に描かれた長く伸びた燕子花の葉先にトンボがとまっているところに、抱一らしい遊び心が。
酒井抱一「燕子花図屏風」二曲一隻 絹本金地着色 177.1×183.6㎝ 享和元(1801)年 出光美術館蔵