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2017.04.12

旅を愛した文人が描いた、日本人の心を映す旅絵巻とは?

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熊野の旅の詳細と芭蕉への憧れ

様々な美術様式が成熟した江戸時代には文人画(ぶんじんが)という、もうひとつ見逃すことのできないジャンルが確立されました。

文人画とは中国の南宗画(なんしゅうが)にならったもので、中国では専門の絵師に対し、文人と呼ばれる高級官吏(かんり)が余技(よぎ)として手がけた絵画。日本の文人も詩書画の三つに優れることを目ざし、高い教養を身につけ、自然の中で芸術や哲学にいそしみながら絵の境地を求めるようになります。そして重視されるようになったのが〝旅〟を画材にすることでした。

旅の風景を描いた絵師は決して珍しくありませんが、文人は旅すること自体に楽しみを見出し、絵や書で旅の情緒を表現。その代表的な作品が、与謝蕪村が松尾芭蕉へのオマージュとして描いた『奥の細道画巻』。そこには旅を愛する日本人の心まで反映されています。また、蕪村の流れを汲む谷文晁(たにぶんちょう)も旅に生きた文人画家として有名で、『熊野舟行図巻』や『日本名山図譜』など、旅絵巻の名作は枚挙にいとまがありません。

与謝蕪村『奥の細道画巻』

松尾芭蕉を慕う与謝蕪村が『奥の細道』を書写し、俳画と呼ばれる挿画を描き加えた画巻。蕪村は同様の作品を数多く残しているが、俳画の完成度の高さでは本作が第一とされる。
スクリーンショット 2017-04-11 11.03.07紙本淡彩 上巻28.0×1170.3㎝ 江戸時代・安永8(1779)年 逸翁美術館 重要文化財 

谷文晁『熊野舟行図巻』

紀州(和歌山県)の熊野本宮から新宮までの風景を、実際に旅した谷文晁が川の流れに沿って丹念に写生し、青緑濃彩を施した、文人画の最高傑作。
DMA-熊野行図巻上部分001 のコピー絹本着色 上巻38.0×451.6㎝・下巻38.0×333.2㎝ 江戸時代・文化元(1804)年 山形美術館・(山)長谷川コレクション

-2015年和樂8・9月号より-