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2018.03.29

東大寺 伝日光菩薩・伝月光菩薩・浮線綾螺鈿蒔絵手箱〜ニッポンの国宝100 FILE 53,54〜

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日本美術の最高到達点ともいえる「国宝」。小学館では、その秘められた美と文化の歴史を再発見する「週刊 ニッポンの国宝100」を発売中。

伝日光菩薩

各号のダイジェストとして、名宝のプロフィールをご紹介します。

今回は、天平塑像の名宝、「東大寺 伝日光菩薩・伝月光菩薩」と鎌倉漆工芸の逸品、「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」です。

天平の祈り「東大寺 伝日光菩薩・伝月光菩薩」

伝日光菩薩

東大寺の伝日光菩薩・伝月光菩薩は、かつて法華堂(三月堂)の本尊・不空羂索観音菩薩立像(国宝)の両脇に安置されていました。しかし本来は「日光菩薩」「月光菩薩」という尊名ではないのではないかと考えられています。現在、名称に「伝」と付けられているのはそうした理由によるもので、伝日光菩薩は梵天、伝月光菩薩は帝釈天として製作されたことが有力視されています。そもそも日光・月光菩薩は薬師如来の脇侍であることが多い仏さま。観音菩薩の脇侍として採用される例はきわめてまれです。

造像に用いられている塑造という技法は、骨格となる心木に藁縄を巻き、粘土を何層か塗り重ねて成形したものです。この技法は、中国・唐代に隆盛を極め、7世紀頃に日本に伝わり、奈良時代に全盛期を迎えました。その代表作が伝日光菩薩・伝月光菩薩です。同時期に製作されたと考えられる塑造に、東大寺法華堂の執金剛神立像、戒壇堂の四天王立像があります。

現在は白い仕上げ土があらわになっていますが、当初は極彩色でした。今でも伝日光菩薩の衣の裾には緑色が鮮やかに残り、そこには細く切った金箔を貼りつけた截金が見られます。色が剥落してしまったぶん、素地に近い表情や衣の表現が際立ち、両像の違いをよりわかりやすくしているともいえます。

ともに直立して、胸の前で合掌する姿ですが、伝日光菩薩は穏やかな笑みをたたえ、いっぽう、伝月光菩薩は切れ長の眼が凛とした印象をもたらします。また、伝日光菩薩は左腕に掛けた袈裟の表現、前面に深く刻まれた衣の襞に、どこか力強さを感じさせます。いっぽう、伝月光菩薩は薄手の衣をまとい、袖の襞も左右対称で、腰に結んで前に垂れる帯が端正さを強調し、あくまで静謐な雰囲気を漂わせます。

2驅に見られる写実的で自然な人体表現は、遣唐使によって伝えられた唐の仏像の影響を受けたものです。しかし、両像の表情には中国の仏像の模倣を超えた独自の表現が感じられます。造仏に関わった仏師の技量の高さから、官営工房で造られたと考えられています。

国宝プロフィール

東大寺 伝日光菩薩・伝月光菩薩

8世紀 塑造 彩色 像高/伝日光菩薩:206.3cm 伝月光菩薩:206.8cm 東大寺 奈良

天平彫刻を代表する仏像で、繊細な表現が可能な塑造による像。静謐さの漂う顔貌、ゆったりとした体躯など、自然で調和のとれた作風である。名称や伝来については不明な点が多いが、本来伝日光菩薩が梵天、伝月光菩薩が帝釈天であったと推測される。

東大寺

北条政子ゆかりの名品「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」

伝日光菩薩

手箱とは、手回りの道具や化粧道具などを入れる箱で、一説には中国で櫛や鏡を入れた「唐櫛笥」が原型といわれています。化粧箱の性格を色濃く帯び、女性の調度品として重要な位置を占めました。「ハレの調度」として、平安時代以降には漆工芸の技巧の粋を集めた手箱が作られるようになります。

13世紀頃に制作され、鎌倉幕府の執権・北条時政の娘で源頼朝の妻である北条政子が愛用したと伝えられる「浮線綾螺鈿蒔絵手箱」は、華麗な装飾が施された手箱のなかでも屈指の作例といえます。蓋の高さに対して身(本体)の部分が高く、手箱の側面がわずかに膨らみ、蓋も緩やかに盛り上がっています。さらに蓋と身は、縁がぴたりと合う合口造。これらは、鎌倉時代に作られた大型手箱の典型的な特徴で、力強く量感のある姿を見せています。
 

そして表面の金は、金箔を貼ったのではなく、漆を塗った上に細かい金粉を蒔き詰めた沃懸地という技法によるものです。沃懸地は、金をふんだんに使用できるようになった鎌倉時代にさかんに用いられた技法です。そこに、螺鈿(鮑貝や夜光貝の真珠色に輝く部分を薄片にし、それを切り抜いたものを漆地にはめ込んだもの)による円形文様を、等間隔に配しています。この文様は、貴族が装束などに用いた伝統的な有職文様のひとつ「浮線綾文」です。この文様に使われているのは、4種類の形状に切り抜かれた貝の薄片。13の細かいパーツを組み合わせてひとつの浮線綾文ができています。その浮線綾文が、手箱全体ではおよそ115個も配されているのです。

蓋裏は、女性の調度品にふさわしい可憐さにあふれています。ここには、漆で模様を描き、金粉を蒔いたあと全体に漆を塗り、固まったあとに模様を研ぎだす研出蒔絵により、梅、桜、藤、撫子など約30種類の花木や草花が精緻に描かれています。

鎌倉時代には、蒔絵や螺鈿の技法が著しい発展を遂げ、完成の域に達しました。平安貴族の文化を引き継ぎながらも、武士の世の新たな表現方法により生み出された豪奢な工芸品が、この手箱なのです。

国宝プロフィール

浮線綾螺鈿蒔絵手箱

13世紀 木製漆塗 1合 縦26.1cm 横36.5cm 高22.7cm サントリー美術館 東京

表面全体に、貴族の装束などに用いられた文様である浮線綾文を規則的に配した漆塗りの手箱。表面は金粉を隙間なく蒔いた沃懸地で、浮線綾文は貝をはめ込んだ螺鈿による。堂々とした器体には、細部まで技巧が凝らされ、鎌倉時代の漆工芸を代表する優品である。

サントリー美術館