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人生に命を賭けていないんだ。だから、とかくただの傍観者になってしまう。(岡本太郎)
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Craft
2021.02.17

地雷よりも義肢を。「心の中に入り込むモノづくり」を目指す川村義肢の理念に胸アツ!

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パラリンピックの選手が競技で使う義肢(ぎし=義手、義足)や装具はすべてオーダーメードである。体格や体の動き、状態に合わせるのはもちろん、最大のパフォーマンスを引き出せるように加減する必要があるからだ。

わが国における義肢装具業界のリーディングカンパニーである川村義肢(大阪府大東市、川村慶社長)は「選手の心の中にまで入るモノづくり」を掲げ、数多くのトップアスリートを支えている。

モノづくりで同社が大切にしている心構えは「アンダー・スタンド」である。その心は、選手の気持ちを単に「理解する」のでなく「メーカーであるがゆえの上から目線を廃し、真っ白な気持ちで下から教えを乞う」こと。

従って「アンダー」と「スタンド」の間に「・」を入れる。「世界一愛される会社になる。従業員の子どもや孫が入りたい会社になる。いじめや戦争をなくす」という理念を掲げ「地雷の製造よりも義肢装具のためにテクノロジーを使い、いじめをなくすために力を使いたい」という川村社長に、製品開発を通じた社会貢献の実践例や同社の技術力を支える背景などを聞いた。

大学時代はアメフトで鳴らした川村慶社長

日本初の義肢は人形師が手がけた?

――川村義肢さんの創業は終戦翌年の1946年ですから75年の歴史を重ねてこられた。社長はその三代目でいらっしゃる。

川村(以下略):ええ。昔から、初代が興して二代目が広げて三代目が潰すことになっているから、そうならないように気をつけています。うちは祖父が個人創業したのを親父が継いで大きくしました。ここまでは諺(ことわざ)通りなので、ぼくは「事業」だけでなく「創業者精神(ベンチャーマインド)」も受け継いで踏ん張ってます。

――業界における位置づけは。

義肢や装具を扱う同業者は国内にざっと800社ほどありますが、ほとんどが家内工業の形態です。義肢装具にとどまらず福祉や介護、高齢者向け製品(補聴器、住宅改修など)まで総合的に扱っているのはうちだけだと思います。ちなみに、義肢装具は数多くの病院に納めさせてもらっています。

――事実上のリーディングカンパニーですね。創業以来、先代、先々代から受け継いできた教えのようなものはありますか。

お客様一人ひとりに合わせて心を込めて作るという気持ちです。聞いた話ですが、日本で初めての義肢は浄瑠璃で活躍する人形師が手がけたそうです。ある歌舞伎役者が米国に発注したけど、納品まで時間がかかるから人形師に頼んだ。しかし、出来上がった義足は痛くて痛くて歩けなかったそうです。

――そう考えると、義肢装具は究極のオーダーメード製品ですよね。

そうですね。創業が終戦直後ですから、戦争で手足を失った人々が街にあふれている。そういう人たちのための義肢や装具を文字通りのオーダーメードで作り、提供することから初代の仕事は始まりました。

お客様一人ひとりの状態に合わせて作る

うちは事業として生活支援機器や自立支援機器を提供していますが、これは手段なんですね。では目的は何かといえば、お客様がしたいことを一人でできるようにすることです。言葉を換えれば「あきらめなくていい状態」を買っていただくということです。

義足を板バネに代えて「蹴り出し」強める

――パラアスリートに製品提供するようになったきっかけは。

カーボングラファイトという、軽くて強くてしなやかな素材の板バネを使った「フレックスフット」を手がけたことです。義肢といえば、足形を模した義足を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、それだと走ったり、跳んだりするときの「蹴り出し」が弱い。そこで、それを板バネに代えたんです。パラアスリートはたいてい装着しています。

義足アスリートとのイベントで

海外の製品なんですが、開発した会社の社長ご自身が義足装着者だったからこそ辿り着いた発想だと思うんです。親父が社長時代に海外で発掘しました。

――陸上競技用以外ではどんな製品を作っているのですか。

カヌーや車いす、冬季のチェアスキーなどで使われるシート部品は高いシェアを占めています。製造にあたっては自社ですべてを行うのではなくて、得意分野をもつパートナー企業のネットワークを活用しています。各社の強みを生かしたり、組み合わせたりして、パラアスリートが最大のパフォーマンスを発揮できるようにする。メーカーの大きな使命だと思います。

選手の心の中にまで入るモノづくり

――最大のパフォーマンスを引き出すために心がけていることは。

選手の心の中にまで入るモノづくりに努めることです。注文した選手が何をしたいか、何を目指しているかまで分かっていないと、真のオーダーメードはできないからです。提供するのは、誰でも使える量産品ではありません。当然のことながら「あの人と同じもの」という注文はあり得ません。

人工ボディを手がける「工房アルテ」

実際、ある女子カヌー選手のためのシートを手がけた時には、カヌーに対する彼女の思いや考え方、目指すものなどを徹底的に聞きました。全霊を込めて戦う競技に対する真摯な気持ちを選手自身がもっていないと、その人の力を引き出す本当に良いものは作れません。メーカーとしては選手の想定や期待を上回る製品にしてナンボだからです。

――まさに、真剣勝負ですね。

関わる以上、最高のパフォーマンスを発揮してほしいですからね。だから、新たな製品を作る時にはできるだけ選手も加わってもらうようにしています。不遜な言い方に聞こえるかもしれませんが、競技に対する選手の本気度とか向き合い方が生半可では良いものが作れません。

製品は利用者が納得いくまできめ細かく調整される

例えば、競技中の激しい動きに耐えるためには体幹をしっかり保持する必要があります。そのために頑丈な背もたれをつける。しかし、肩甲骨に当たるのでかえって動きづらい。それなら、当たる部分を切り取ればよい。でも、選手によっては怖いと感じる。

この時、いやですと尻込みするか、やりましょうと前のめりになるか。こういう判断がぼくらの気持ちを奮い立たせます。選手がチャレンジングならぼくらも負けずに挑む。新しくて良いものはこういう作業を経ないと生まれません。だから、選手にはモノづくりに参加してほしいし、万が一の時、自分で調整や修理してもらえるようにしています。

――選手が自分で修理する?

はい。チェアスキーの選手は夏場になると南半球でトレーニングします。しかし、さすがに社員はそこまでついていけない。だから、現地でトラブった時に一人で解決するための備えをする必要があるんです。いわば「メカニックレス」の状態です。滑走中に転倒して壊れても誰も助けてくれません。ですから、壊れてしまっても慌てず、冷静に直せる気持ちの強さが問われるんです。

本当に理解しようと思うなら足を切れ

――パラアスリートをサポートするメーカーとして、大切にしている心構えは。

選手を理解するために、上からものを言うのではなく、まっ白な気持ちで下から教えを乞うことです。教えてもらうと言っても、一方的に聞くだけなら、単なる御用聞きにすぎません。だから、ただのアンダースタンドではなく、アンダーとスタンドの間に「・」を入れるんです。

大切なのは相手の気持ちを推し量った上で、プロとしての提案をすることです。「そうしたいなら、こんなやり方がある。こういう工夫もできますよ」と寄り添う。その提案に対する考えを選手は言う。それなら、と改善案を投げかける。

よく、アスリートよりも作り手のほうが目立ってしまって、肝心のアスリートが見えなくなることがあります。それは不本意です。彼らを支え、その能力を最大限に引き出す「最強のフォロワー」に徹するのがわれわれの真の仕事なんです。

そういうキャッチボールを何回も重ねていくうちにお互いの目の高さが合うようになります。時間はかかりますが、こういうやり取りはおろそかにできません。

長年のノウハウが詰まった製造部門

今でも忘れられないのは、ようやく同じ目線になった時に言われた「本当に私と同じ目線になりたいと思うなら、自分と同じように足を切断せぇ」という一言です。その重さを感じているからこそ、相手の気持ちを理解することに強い思いがあるんです。

地雷よりも義肢装具のために技術力を

――三代目で潰してしまわないための今後の経営の重点は。

祖父が創業したときの思いは「われわれが幸せでなければお客様を幸せにできない。だから、まず社員を幸せにしたい」ということでした。基本的に、この考えを大切にしたいと思っています。

そのために重視してることが3つあります。第一に、世界一愛される会社になること、第二に、従業員の子どもや孫が入りたい会社になること、第三に、いじめや戦争をなくすこと――です。

おかげさまで、業界関係者やパラアスリートが国内外から訪ねてこられるようになり、うちの名前は徐々に知られるようになってきました。親や祖父母がここで働いていたという社員も増えています。いじめをするのもそれを止めるのもどちらもパワーがいる。

そして、いじめの最たるものが「戦争」であると思います。仮に、対人地雷は50円でできても、その犠牲になった人のための義足を装着してもらうまでには膨大な「医療コスト」だけでなく、多くの「人出」もかかります。むしろ、こちらのダメージが大きい。

地雷の製造よりも義肢装具のためにテクノロジーを使ったほうがよいことは子どもでも分かります。次の世界を継いでいく子どもたちのためにも、そういう心を育んでいけたらと思っています。

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書いた人

「新聞記者、雑誌編集者を経て小さな編プロを営む。医療、製造業、経営分野を長く担当。『難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを愉快に、愉快なことを真面目に』(©井上ひさし)書くことを心がける。東京五輪64、大阪万博70のリアルな体験者。人生で大抵のことはしてきた。愛知県生まれ。日々是高血圧。」