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2021.03.02

即ソールドアウトのゆるかわお雛様!「アトリエおはよう」の幻の張り子

この記事を書いた人

【謝罪:みなさまにお伝えしたいことがあります】
いきなりYouTuberみたいな導入ですが、本当にすみません。この記事が上がるころには、この最高にかわいい雛人形は売っていないのです。というか、実は2月の販売直後、すぐに完売してしまいました。
製作したのは張り子作家の「アトリエおはよう」。今年は残念ですが、それでも取り上げたかったのは、「アトリエおはよう」の作品は、雛人形だけが魅力ではないからです。たとえば過去の作品は…

ひとの上にお寿司が乗っていたり…

鯉のぼりだってこんな感じになっちゃたり…

わぁぁ…これは中国の巻物『百獣図』からインスパイアされたものだそうです。

どの作品も奇想天外な発想に驚かされますが、にもかかわらず、どれもなんだかハッピー。そんなゆるかわいいのが「アトリエおはよう」の張り子であり、人気の理由ではないでしょうか。

そもそも張り子ってなんだろう

しれっとご紹介してしまいましたが、改めて張り子についてご説明します。張り子は、古くから大衆に愛される郷土玩具で、その歴史は長く、室町時代には中国から日本に伝わってきたと言われています。今でも、だるまや赤べこなどは一般的に知られているのではないでしょうか。
張り子は伝統工芸ではありませんが、非常に土着的な文化であるのが特徴。その技術は全国に広まっており、和紙製であるため、製紙産業が盛んな場所では、数多くつくられていたようです。場所によってモチーフも異なり、信仰的なものや縁起物など、風土が大きく反映されていました。

福島、千葉、沖縄…。「アトリエおはよう」の作業スペースで見せていただいた、各地の張り子コレクション。なんだかどれも自由な感じ!

張り子づくりの基本的な工程は、
1.型をつくる。
2.上から和紙を貼り重ねて乾燥させる。
3.型から和紙を抜き取り、胡粉(ごふん)と膠(にかわ)で下地処理をする。
4.彩色する。
の4段階ですが、材料においては特に厳密な決まりはないよう。型は木型のところもあれば粘土のところもあり、和紙や絵の具も、作家によって使用するものは違うそうです。しかしながら、このいい意味でのルールのなさが、“張り子らしさ”を象徴しているのでは。先程の張り子コレクションからも、その大らかさはうかがえますよね。

見よう見まねで始めた張り子づくり

ところで「アトリエおはよう」というのは、作家の方の屋号。活動は2012年からスタートしていますが、数年前からは、先入観をもたずに作品を見て欲しいという理由から、本名でなく屋号で活動されているとのことですが(なのでここから「アトリエおはようさん」と表記します)、どこかに弟子入りしたり、学校で学んだのではなく、「郷土玩具が好き」という思いとともに、張り子の手法を使い、自分なりのものができないかと、作品づくりを始めたとか。知り合いに誘われたカフェスペースでの個展用に、見よう見まねで(!)いきなり100体ほどをつくったのが最初、というから驚きです。
「当初は、それまで手がけていたイラストで作品づくりを考えていたのですが、立体物もつくりたくて、だったらずっと好きで、集めていた張り子をつくってみようと思いついたんです。当時は軽い気持ちでつくり始めたのですが、でも実際には難しく、試行錯誤の連続でしたですね(笑)」
結果、個展は張り子だけの展示となったそうですが、思いかけず大きな評判に。これがきっかけで、ほかのギャラリーからも声がかかるようになり、張り子作家としての活動が本格化します。
「つくり始めて約10年になりますが、今でも失敗は繰り返しているし、これからも自分ならではのテイストを探っていきたいなという気持ちがあります。なおかつ、張り子がもつ魅力を、自分なりに表現できたらと思います」

アトリエおはようさんのワークスペース。彩色前の張り子が奥に刺さっています。

何かをつくるなら、自分もみんなも楽しいと思えるものを

アトリエおはようさんが大切にしているのは、「作品をつくりながら感じる自分が楽しいと思う気持ち」と同時に、「作品を見る人も楽しい気持ちになってもらえるか」ということ。その点で、張り子という造形表現はぴったりだったとか。

張り子は立体的でありながら平面的でもある、稀有な存在。どこかイラスト的な要素もあり、目を見張るような日本の超絶技巧の緻密さとは対局にある、大らかさが魅力です。作品づくりは、デザインを考えてから製作することもあるそうですが、実際に素の張り子に彩色してみると、思っていたのと違うものが完成することも多々あるとか。

「最初からどういう形にするかを決め込まずに、気ままにドローイングするように形をつくっていきたいと考えているんですよね」と、語るアトリエおはようさん。「いちいち理由をつけていくと、疲れちゃうんです。自由に手を動かしていたらできちゃった、くらいのほうが自分には心地いい。張り子は郷土玩具だし、名のある作家の方の作品を見ても、人それぞれ。ユーモラスで親しみ深いのが、張り子のいいところではないでしょうか」
「アトリエおはよう」という屋号も、明るく身近な日本語で、なおかつメッセージ性の強くないもの…と探していた結果、たどり着いたとか。大好きな小津安二郎監督の映画『お早よう』ともリンクし、この屋号にしたそうです。「劇中に登場する少年の表情が朗らかで、そんな雰囲気に憧れる自分もいるんですよね」。

人の心に残る、ちょっと変わったものに惹かれる

ところでアトリエおはようさんの作品は、いわゆる“普通“のものはほとんどありません。雛人形にしても、デザインによっては頭に苺や桃が乗っていたり、お雛様自体が猫だったり。最初にご紹介した作品のように、この世には存在しない生物が、張り子になっていることもあります。


発売直前の雛人形を見せていただきました。屏風も和紙で手づくり!

ネームカードに印刷されている初期の作品。テーマは「朝食」だそうです(笑)。ちなみにこういった「積み上がっている」デザインは、さまざまな張り子でよく見られる手法。

「干支や雛人形、五月人形といった季節飾りも、かわいいだけにおさめたくなくて、どこか引っかかるものが欲しいんです。動物をつくることもあるけれど、やっぱりどこかに何かしたくなってしまう」
架空の生物は、どこからインスピレーションが湧くのかたずねると、「なんだろう…。旅先で教会を見るのも好きですし、仏教や神話に出てくる不思議な生物が、妙に気になったりするんですよね。どうも神聖なものがデフォルメされた姿に魅力を感じるようです」と、アトリエおはようさん。実は取材前に作品を拝見していて、祈りが込められている印象を勝手に受けていたのですが、それはこういった理由からかもしれません(ご本人は首をかしげていましたが)。

今後、どのような作品をつくりたいですか? という質問には、「箱庭みたいな、ひとつの造形に風景が見えるようなものをつくりたいですね」との回答が。張り子の中に小さな世界が凝縮されているものを、『アトリエおはよう百景』といった連作で製作したいそう。「まるで、葛飾北斎の『冨嶽三十六景』みたいですね」と伝えると、「あー、そういうことです!」と、おっしゃっていました。

またそれと同時に、誰かに喜ばれる作品づくりもモチベーションが上がるそう。実は雛人形は、友人の娘さんのためにつくったのが最初なのだとか。
「『娘のためにつくってよ』と頼まれたのですが、それまで雛人形についてイメージや思い出が特になかったので、そのときはできなかったんですよね。結局、完成までに2年かかってしまったんですけど(!)、最終的には喜ばれたし、今ではこうして多くの人に楽しんでもらえるようになったので、自分にとっても、いい作品づくりができたなと思います」

こんな時代だからこそ「張り子」が求められている

いろいろと気持ちが荒むことの多い昨今。人々が、これからをどう生きていくかを考えざるを得ない、緊張感あふれる時代だからこそ、大らかで自由に製作される「張り子」が、人々の心に刺さるのかもしれません。アトリエおはようさんの言うように、つくる側も見る側も、気を張らずにハッピーでいられる関係性について、「張り子」を通して考えてみてはいかがでしょうか。

【作品はこちらで見られます!】
「アトリエおはよう」インスタグラム
@atelier_ohayo

書いた人

編集プロダクションからファッション誌のエディターに。ファッション以外に挑戦したくなった矢先に「和樂」に捕縛される。商品開発を主に担当しているが、早くもアパレルに着手し始め、人生の矛盾を感じている。