古い禅語に、「喫茶去」という言葉があることをご存じでしょうか。これは「どうぞお茶でもおあがりなさい」という意味だといわれています。季節に合った旬の茶葉を吟味して、温かなお茶でひと休み。そんな時間がありふれた日常に豊かな彩りをもたらします。さあお茶の時間から、ちょっぴりていねいな暮らしをはじめてみませんか。
今回は、「日本の美意識が通底する新しい服の創造」をコンセプトに、歴史や文化までを含めて、日本人らしいオリジナルなスタイルを広く世界へ発信しているブランド、「matohu」のデザイナーに、喫茶去の魅力を伺いました。
好きなスタイルで、のんびりとお茶を楽しむのが「喫茶去」です
「matohu」デザイナー 関口真希子さん、堀畑裕之さん
築60年の平屋建てをリノベーションした建物に入ると、古い建具を利用した素敵なリビングテーブル。その向かいにはさりげない琉球畳のスペースが設けられています。どこか懐かしさにあふれた心地よい空間は、服飾ブランドmatohuのデザイナー堀畑裕之さんと関口真希子さんの住まいです。ファッションに日本の美学を取り入れてきたふたりが、宗和流のお茶を習いはじめたのは約4年前のこと。そのうち友人を招いて、自宅で小さなお茶会も催すようになりました。
「といっても、全然堅苦しいものではないんです。茶道具も内田鋼一さんやフランス人陶芸家のもの、またはさりげない骨董だったり…。けれどお茶というスタイルを借りると、もてなす行為がとても楽しくなるのです」
お茶会のときは、堀畑さんが茶道具の構成を考え、関口さんが懐石を担当。アイディアがつまったお茶会は、どんなお客様にもとても喜ばれるそう。
「長い年月残ってきたものには、それだけの強い魅力や美しさがありますし、モダンな茶道具を合わせて、美の世界を更新することもできる。どれにも正解はないし、どんなもてなしも正解になる。『喫茶去』の最大の魅力は、お茶という世界の懐の深さだと思うのです」
新旧にこだわらず、感性に響く茶道具に囲まれていると、心が和らぐ
フランス人陶芸家、アンドッシュ・プローデル作の織部釉菓子皿は、チャーミングな鳥のかたち
ミニサイズの銀製寿々棗は、親しく交流している金工家・藤井由香利さん作
お茶会のときは、お客様に名前を記帳してもらう。李朝の犬の水滴や月に兎の陶硯もお気に入りの骨董
2015年に発表したmatohuプロデュースの茶箱は待庵(国宝)の古材を使用。仕覆はすべてmatohuのオリジナルテキスタイル。振り出しの網袋も、関口さん自身がかぎ針で制作
「茶道具の取り合わせを考えるのは、大変だけどすごく面白い」という堀畑さん。茶道具の購入は、専門店よりさまざまな古美術店やギャラリーのほうが多いという。この日の黒釉茶碗は元マリメッコのデザイナー・石本藤雄さんの作品。鮮やかなマリメッコのデザインとはひと味違って、内省的な雰囲気に惹かれたもの。木枯らしが吹く冬にはしっくりくる