デパートの物産展や地方物産館を巡ると、思いもかけないものに出合います。どんなところで、どうやって生まれたのか、気に留まったらそれが旅の始まり。買い物目当てに、ものの産地を訪ねてみませんか? ものを通して出合うその土地の風土や文化は、新しい日本の一面を見せてくれるはず。いずれの産地も旅先としておすすめ、小旅行をお楽しみください。
1 岩館 隆の浄法寺漆器(岩手県)
国産漆の約8割を占める生産地、二戸(にのへ)市浄法寺町。漆掻き職人、塗師が地元にそろい、連携した漆器づくりが浄法寺塗の強みとなっています。塗師・岩館隆(いわだてたかし)さんの漆器は、昔ながらの浄法寺塗を踏襲したもの。朱塗りの片口は東北の酒・どぶろくの映える色として、地元で愛されるうつわです。
◆岩館 隆
住所 岩手県二戸市浄法寺町御山中前田23-6 [滴生舎](展示販売処)
2 松本民芸家具のウィンザーチェア(長野県)
工芸の町として人気を集める松本。その礎を築いたひとりが、松本民芸家具の創始者、池田三四郎です。柳宗悦に師事し、戦後廃れた松本の木工業を、高度な和家具の技術でつくる洋家具にシフトして再興しました。代表的名作A型ウィンザーチェアは背中と肘掛けに曲げ木を使用し、座り心地は抜群です。
◆松本民芸家具
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3 玉川堂の銅製急須(新潟県)
金属加工で有名な燕三条が誇る鎚起(ついき)銅器の技術。金鎚で銅を叩くことで生まれる絞様の多様さ、また着色液を用いた銅の化学変化による多彩な色に特徴があります。伝統を受け継ぎながら、現代の生活に特化した商品をつくる玉川堂(ぎょくせんどう)は、200年続く老舗。ティーポット丸形刃鎚目のモダンさはその代表例です。
◆玉川堂
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4 住井冨次郎商店の水うちわ(岐阜県)
美濃和紙、竹骨のつくり手は同じ長良川沿いにあり、かつては船で材料が運ばれてきたという由緒あるうちわの専門店。ごく薄い和紙に天然のニスを施した水うちわ(写真は小判型)は光を透して輝き、より涼しさを演出する効果があります。長良川の鵜飼観賞のお供にどうぞ。
◆住井冨次郎商店
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5 三浦屋の佐原張子(千葉県)
利根川水運の中継地として栄えた、香取(かとり)市の佐原地区。江戸時代に戻ったかのような町並みが今も残ります。佐原張子(さはらはりこ)は明治末に誕生、「三浦屋」は2018年で創業100年を迎えました。3代目鎌田芳朗(かまたよしろう)さんは人形の型を用いず、手で成形。おかしみのある表情が独創的です。“佐原のピカソ”は現在83歳、会うなら今!
◆三浦屋
住所 千葉県香取市佐原イ1978
6 篠崎硝子工芸所の江戸切子(東京都)
庶民の商売として始まった江戸切子。透明なガラスに直線でカットを施すだけだったものを、初代篠崎清一さんが独自の感性と道具を用いて発展させました。現二代目の英明さんはともに伝統工芸士。ぐい呑「玉」は、玉模様が連続するデザインが従来の江戸切子にはない新しさで評判です。
◆篠崎硝子工芸所
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7 瀬戸本業窯の飯碗(愛知県)
うつわの代名詞として“瀬戸物”があるように、日本で100年の歴史をもつ焼き物の里。その場所で8代続く窯元が瀬戸本業窯です。馬の目皿、石皿、三彩皿など代表作にも惹かれますが、不動の人気を誇る麦わら手の飯碗は、まず手に入れたいものです。瀬戸の赤らくという土で描かれた茜色の縞模様が食卓を明るくしてくれます。瀬戸の町歩きは鳥居に陶製タイルを施した深川神社に参拝することをお忘れなく。
◆瀬戸本業窯
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8 古梅園の墨(奈良県)
創業は天正5(1577)年。日本の墨づくり発祥の地、奈良にて古式の手法で製造に励んでいます。写真左の紅梅が極上と呼ばれる理由は、墨色にあり。粒子の細かく、優雅な漆黒を楽しめます。冬季のみ、にぎり墨の自作体験(要事前予約・有料)も可能。合わせて工房の見学も楽しめます。
◆古梅園
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9 みす武の日除けすだれ(京都府)
神殿では間仕切りや目隠しに、神社仏閣では結界の意味を持っていた御簾(みす)。現代では室内装飾品として使われていますが、庶民の生活に普及したのは室町時代以降。伝来の技法を用いて京御簾の美を伝えるみす武では、おあつらえによる製作を行っています(※来店時は要予約)。
◆みす武
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10 倉敷本染手織研究所の倉敷ノッティング(岡山県)
柳宗悦から倉敷民藝館の初代館長に任命された外村吉之介。染織の研究家でもあった外村が日本住居に合う椅子敷として織り機、図案も考案したのが倉敷ノッティングです。自身が設立した倉敷本染手織研究所の研究生、卒業生が製作を担当します。羊毛と木綿製があり、写真は木綿。木綿に使われる染料は紅殻(べんがら)、藍(あい)などすべて天然です。
◆倉敷本染手織研究所
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11 南景製陶園の萬古焼急須(三重県)
四日市市の伝統工芸品、萬古焼(ばんこやき)。急須に特化した南景製陶園(なんけいせいとうえん)の“黒くすべ”は創業以来のロングセラーです。鉄分を多く含む陶土を使用し、無釉で焼き締めるため、お茶の味がまろやかになると定評が。敷地内のカフェ「870(はなれ)」では急須を使ってお茶が味わえます。
◆南景製陶園
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12 奥原硝子製造所のペリカンピッチャー(沖縄県)
沖縄最古となる琉球ガラスのつくり手は、手吹き・再生ガラスと伝統に忠実なものづくりを継承。工房に併設された「那覇市伝統工芸館」のショップは品ぞろえも充実しています。一番人気はペリカンピッチャー。ペリカンのくちばしを模した注ぎ口は、氷のストッパーの役割も兼ねています。
◆奥原硝子製造所
住所 沖縄県那覇市牧志3-2-10 てんぶす那覇2F那覇市伝統工芸館