琳派の祖である俵屋宗達(たわらやそうたつ)は“たらし込み”の技法を発案し、金や銀に彩られた、華やかなイメージが強い琳派のイメージを一新しました。「宗達の黒」はまさに創意工夫の賜物。今回は、その成立に欠かすことができない、宗達ならではの水墨画の5つの秘密をご紹介します。
俵屋宗達の水墨画の秘密1 元祖かわいい!
宗達のかわいい子犬。全図は最後に掲載しています!
日本美術では最近、かわいいキャラクターが注目を集めています。そんな中でも、動物の作為のない愛らしさを表現した点において、宗達はまさに元祖。目と耳、脚を塗り残して描かれた子犬は、懸命に何かを探している様子で、今にも動き出しそうなほど。宗達の、動物へ向けた温かい目線が感じられます。
俵屋宗達の水墨画の秘密2 “たらし込み”って?
先に塗った墨が乾かないうちに異なる濃度の墨を加え、先の墨と混じり合うときにできる自然な形や、濃淡によって陰影や立体感を与える描き方を“たらし込み”といいます。代表作「風神雷神図屏風」雷神の足元にも、たらし込みの技法で雲が描かれています。
俵屋宗達「風神雷神図屏風」国宝 二曲一双 紙本金地着色 江戸時代・17世紀前半 各154.5×169.8cm 建仁寺
俵屋宗達が発案したこの方法は絵具でも用いられ、江戸時代をとおして琳派の絵師に受け継がれた、琳派の代名詞的技法です。
俵屋宗達の水墨画の秘密3 アニマル愛
俵屋宗達「牛図」重要文化財 双幅 紙本墨画 江戸時代・17世紀前半 各94.8×43.6cm 頂妙寺
もともと動物が大好きだったと伝わる宗達。クンクンという鳴き声が聞こえてきそうな「犬図」や、見るからにたくましい「牛図」をはじめ、鹿や象、鴨、白鷺(しらさぎ)などの作品を見ると、動物好きな宗達ならではの観察眼の鋭さで姿形をとらえながら、優しいまなざしで描き上げていたことが伝わってきます。
俵屋宗達の水墨画の秘密4 装飾芸術の原点
宗達はもともと、京都で評判の扇屋を営んでおり、扇絵制作から巨匠へと上り詰めた稀有(けう)な絵師。そのようなベースがあったからこそ、琳派は装飾芸術としてすぐれた作品を残し得たのです。
俵屋宗達「扇面散図屏風」六曲一隻 紙本金地着色金銀彩 江戸時代・17世紀前半 154.5×362.0cm フリーア美術館
宗達の作品の中でも特筆されるのが、扇絵を貼り付けた「扇面散図屏風」。数々の扇絵から、王朝文化に憧れた美意識や画力がしのぼれます。
俵屋宗達の水墨画の秘密5 余白の美
江戸時代は掛軸であった「犬図」は、斬新な画面構成で生み出された余白の美が、作品の魅力をさらに引き立てています。掛軸の場合、上の余白は画賛と呼ばれる詩や言葉を書くために空けられるもので、本作にもその可能性はあるものの、宗達はあえて余白の効果を意識していたと考えられます。
俵屋宗達「犬図」一幅 紙本墨画 江戸時代・17世紀 90.3×45.0cm 個人蔵
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