「ディオール」にジュエリー部門が誕生してから20年以上にわたり、クリエイションを統括してきたヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌは、メゾンの創設者クリスチャン・ディオールを敬愛し、彼のエレガントで革新的なスタイルをジュエリーで表現してきました。その豊かな創造性が最も発揮されるハイジュエリーコレクションには、伝説のクチュリエの人生が息づいています。
花のように鮮麗な色に溢れた クチュールレースのリング
オートクチュールを象徴する「レース」がテーマのハイジュエリーコレクションより、カラーストーンを用いた花のようなリング。アーカイブに保管されていた様々な種類のレースにインスピレーションを得てデザインされました。オープンワークの卓越した技巧によって、このうえなく繊細で軽やかな印象に。
ふたりの天才クリエイターの対話から生まれる夢の輝き
大胆なデザインとボリューム、常識を覆す宝石の斬新なコンビネーションで知られる「ディオール」のハイジュエリー。そのクリエイションにはクリスチャン・ディオールとメゾンにまつわる物語がちりばめられています。
たとえば、バラをはじめとする花のモチーフには彼が幼少期を過ごしたグランヴィルの思い出が宿り、野菜や果物のモチーフには菜園づくりを愛した彼の素朴な人柄が映し出されています。その一方で、美術ギャラリーを経営するほど芸術に情熱を抱いていたクリスチャン・ディオールは、ヴェルサイユ宮殿の壮麗な様式美と装飾芸術に魅了される一面ももっていました。
そして、パリ随一のオートクチュールメゾンを率いたその作品も、アーティスティックディレクターのヴィクトワ ール・ドゥ・カステラーヌに多大なインスピレーションを与え続けています。レースやリボン、ひだ飾りにプリーツ、フリル、華やかなプリントなど、オートクチュールのディテールやテキスタイルが、ヴィクトワールの手によって華麗なハイジュエリーに。彼女は、「デザインをしていると、ムッシュ・ディオールと対話をしているように感じる」と語っています。伝説のクチュリエの人生と出来事、さらに愛した場所やものをたどり、そこで見つけた断片を現代的なデザインへと鮮やかに昇華させていくヴィクトワール。夢と驚きに満ちた「ディオール」のハイジュエリーは、ふたりの天才の時空を超えた出会いから生まれていたのです。
バラの花を写実的に描いて ドラマティックな意匠に
クリスチャン・ディオールは幼少期に暮らしたグランヴィルの家の庭に咲くバラをこよなく愛しました。これは彼が生涯にわたって慈しんだバラへのオマージュともいえる作品。花だけでなく葉も茎も、フォルムが写実的に再現されています。センターストーンはいずれもペアシェイプのピンクスピネル。
本記事は『和樂』2023年4.5月号の転載です
撮影/戸田嘉昭