日本海岸の美しき風景と若狭の秘仏をめぐる
最後にご紹介するのは、33㎝という小さな仏像。廃寺となった今も檀家の人々によって守られている、愛らしい観音さまです。
正林庵(しょうりんあん)のこの如意輪観音半跏像(にょいりんかんのんはんかぞう)は、奈良時代の後期につくられた北陸最古の鋳造金銅仏(ちょうぞうこんごうぶつ)。京都の東寺(とうじ)に一堂を創建して祀ったという仏像ですが、東寺の退廃から一時期は民家に安置されていたものが、時が移り東寺の荘園となったこの太良庄(たらのしょう)の地に伝わったとか。文化や技術、物資だけではない、都と若狭国(わかさのくに)とのつながりを体感している仏さまなのです。
さて、その姿は……
写真/正林庵(しょうりんあん)の小さな仏さま。奈良・中宮と京都・広隆寺の菩薩像(どちらも国宝!)に匹敵する美しさ!
33cm! なんて愛らしい!
その思索にふける表情やポーズは、なんとも言えずキュート! かわいらしい姿と、黒光りした体軀(たいく)に金の宝冠(ほうかん)という鋳造仏らしい質感の妙にも心揺さぶられます。かつて4度も盗難に遭いながらそのたび戻って来たという、この土地との強い縁をもつ仏さま。拝観するには事前予約などの手続きが必要ですが、土地に大切に守られている仏さまと向き合い、立ち合いの方から由緒などをうかがうのは、仏像をめぐる旅のクライマックスともいえるでしょう。
秘仏、美仏に出会う若狭の旅。海岸だけでなく湖畔もリアス式という三方五湖(みかたごこ)などの雄大な自然景観や、京風情の茶屋街・三丁町(さんちょうまち)や、鯖街道最初の宿場町である熊川宿(くまかわじゅく)など、人々の暮らしのなかで今も息づく古い町並みを散策するのも旅の楽しみです。
出会いで行きたい仏さまも、訪れたい名所もまだまだたくさんありますが、若狭では欲ばらず、ほっこりのんびり旅がいいようです。
正林庵/思わずキュンとなる如意輪観音はここで会えます
京都・東寺の荘園として開かれた太良庄。その山麓の寺跡に小さなお堂を建てて正林庵とし、金銅造の如意輪観音を祀ります。若狭唯一である天平時代(8世紀)の作と考えられている、県内でもめずらしい仏さま。
福井県小浜市太良庄11 ※如意輪観音像は設錠されたお堂に安置されています。拝観には当年の総代と複数名の檀家の立ち合いが必要。要予約、拝観料はひとグループで(個人でも)10,000円
若狭の見仏めぐりはこう歩きます!<<若狭旅手帖>>
古代から海の玄関口として栄えた敦賀(つるが)、南蛮船の渡来により仏教をはじめ大陸からの文化を受け入れた小浜(おばま)。大和朝廷は7世紀に敦賀と小浜に挟まれた三方五湖などの一帯に若狭国を設置しました。そして港に揚がった海の幸とともに、大陸文化や若狭湾沿岸の物資が京都や奈良へ運ばれ、都からもさまざまな文化や伝統技法などがこの地にもたらされたのです。「京は遠ても十八里」と言い習わされてきたほど都と親密に交流を続けた若狭だからこそ、美しき仏さまや見事な和様建築の堂宇(どうう)がつくられ残ったのです。
そんな若狭では、仏像めぐりとともに自然の景観も楽しんで。海、山、川、湖に田園、木造建築の町並みなど、あちこちに日本の原風景が残っています。
福井県立若狭歴史博物館/若狭の美仏にはここでも出会えます
都の影響を受けてつくられたものなど、さまざまな時代の魅力的な仏像を「若狭のみほとけ」として展示。360度から見ることができる独立ケースを用いたり、照明を工夫するなど、博物館ならではの仏像観賞が楽しめます。
福井県小浜市遠敷2-104 9時~17時(入館は16時30分まで) 年末年始と博物館が指定する日(第2・第4月曜日等)休館 常設展300円
【若狭への行き方】
海、山、川、湖、田園に美仏と、福眼の地・若狭へ
東京からは、JR米原駅(まいばらえき)から北陸本線で敦賀へ。小浜線に乗り換えて約1時間で小浜に到着。東京から新幹線と特急を利用しても4時間以上かかりますが、それだけの価値はあり! 関西方面からも北陸本線の特急に乗り、敦賀経由で小浜まで約3時間。若狭の仏像めぐりは小浜駅を起点に、バスやタクシーなどを上手に使って。毎年秋には、観光協会が企画する秘仏めぐりのバスツアーもあり。
若狭小浜 丸海/御食国を代表する鮮魚のささ漬をお土産に
塩漬けにした鮮魚を酢で〆たささ漬や、鯖のへしこ(塩と糠で漬けた保存食)など、海産加工品を扱う「丸海(まるかい)」。土産に人気なのは、小浜が発祥という小鯛ささ漬です。なかでもおすすめは、地もののレンコダイによる「匠 小鯛ささ漬」(時価)。重要な塩加減を担当するのは工場にひとりという秘伝の味です。本店のほか、敦賀駅前にも店舗あり。
福井県小浜市大手町9‐21 8時~18時 年末年始休
源与門/頭から尻尾まで丸ごと!若狭流のうなぎは地元米で
若狭湾と並び良質な漁場でもある三方五湖で捕れる口細青うなぎを、関西風の腹開きにして焼くうなぎの老舗。伏流水に1週間放して砂を吐かせ、炭火でじっくり焼いたうなぎを、さらりとしたたれによく絡む地元産の米イクヒカリでいただきます。うな重2,700円、特重3,300円(写真)。
福井県三方上中郡若狭町三方52‐6 11時~14時(日曜は~15時) 第1・3・5木曜休
虹岳島荘/山影と夕日のみが湖面に映る奇跡の絶景宿
三方五湖のほぼ中央に位置する水月湖畔(すいげつこはん)の温泉宿。築200年の合掌造りの古民家を8棟移築し、26の全室が湖に面するよう配置されています。写真のレンコダイの煮つけも、ぐじ(赤アマダイ)の塩焼きもオコゼの唐揚げも、魚は頭から尻尾までが若狭スタイル。夕食後は天然温泉で体をほぐして。朝にはまた素晴しい湖の景色が待っています。足裏に心地いいい藁床(わらどこ)の畳、太い梁の天井、窓の外の人工物のない景色、じんわり体を温める天然温泉と、古き日本の佇まいに旅の疲れが癒されます。
福井県三方上中郡若狭町気山334-1-8 1泊2食付13,000円~(2名1室利用時の1名分料金)
加福漆器店/きらめく海底をイメージした伝統の若狭塗
慶長年間(1596~1615年)に、小浜藩の漆塗師が中国の漆芸を模倣したのが始まりとされる若狭塗。若狭湾の海底をイメージしてアワビや卵の殻を使用した研ぎ出しの技法は、ときの藩主によって奨励保護されました。その古来からの技法を受け継ぐのが、伝統工芸士の加福清太郎さん。茶道具(写真の棗で40,000円程度)や椀、塗り箸などを制作しています。ほか、若狭には和紙やめのう細工などの特産品も。
福井県小浜市一番町1‐9 8時~18時 無休