2018年12月からスタートした、「編集部特選の月がわりオススメ展覧会シリーズ」第2弾をお届けします。展覧会が盛り上がる秋シーズンと春シーズンのちょうど真ん中にあたる1月は、全国的にみると展覧会閑散期にあたり、東京や大阪・京都など大都市圏で始まる大型展覧会もそれほど多くはありません。
しかし、そんな時こそ個性的で見応えのある展覧会がひっそりと始まっているものなのです。先月に引続き、本当に面白い展覧会を探して、INTOJAPAN編集部では、2019年1月にスタートする全国の展覧会をくまなくチェックしてみました。すると、やはりあるものです。お正月にちなんだめでたい展覧会や、テーマを絞り込んだ意欲的な展覧会が続々見つかりました! それでは、いってみましょう!
特選美術展1 特別展「顔真卿 王羲之を超えた名筆」(東京国立博物館 平成館)
約3000年の歴史を持つ中国の「漢字」は、篆書(てんしょ)から始まり、隷書(れいしょ)、楷書(かいしょ)へと、読みやすさや書きやすさ、美しさの要素をキープしながら徐々に進化してきました。
「雁塔聖教序」褚遂良筆 唐時代・永徽 4年(653)東京国立博物館蔵
「千福寺多宝塔碑」顔真卿筆 唐時代・天宝11年(752)東京国立博物館蔵
本展は、「楷書」が発展し、書の歴史上、名手たちが最も活躍した唐時代の書家を大特集。虞世南(ぐせいなん)、欧陽詢(おうようじゅん)、褚遂良(ちょすいりょう)ら初唐の三大家や、その後に「顔法」と呼ばれる特殊な筆法で後世に多大な影響を与えた顔真卿(がんしんけい)の作品が東京国立博物館へ大集結します。
さらに、国宝・空海「金剛般若経開題残巻(部分)」をはじめ、平安時代に「三筆」「三跡」と讃えられた日本の書の名手の作品も展示。
国宝 金剛般若経開題残巻(部分)空海筆 平安時代・9世紀 京都国立博物館蔵
平安時代屈指の書の達人達の作品から、唐から持ち込まれた書法が日本ではどのように受容され、そしてその後どのように独自の発展を遂げてきたかを振り返ります。
日中のスーパースター達の書跡が一同に会する非常にハイレベルな書の展覧会。書の歴史を作ってきたレジェンドたちの作品をじっくり堪能できるチャンスです!
会期 2019年1月16日(水)~2月24日(日)
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特選美術展2 企画展「酒呑童子絵巻―鬼退治ものがたり―」(根津美術館)
室町時代以降、非常に多くの絵巻物や絵本、浮世絵等で繰り返し描かれてきた人気歴史ファンタジー・「酒吞童子」伝説。都の貴族の娘たちを略奪する鬼・「酒呑童子」を源頼光とその家来たちが退治する定番の「鬼退治」ものストーリーです。
本展は、根津美術館が所蔵する、画風も製作年代も異なる3種類の「酒呑童子絵巻」を展示。
酒呑童子絵巻(部分)1巻 紙本着色・墨書 日本・室町時代 16世紀 根津美術館蔵
酒呑童子絵巻(部分)住吉弘尚筆 8巻 絹本着色・紙本墨書 日本・江戸時代 19世紀 根津美術館蔵
酒呑童子の生い立ちの物語を描いた19世紀の住吉派の絵師が描いた、一挙公開される8巻本をはじめ、各作品をじっくり見比べながら表現の違いや絵巻物の面白さをたっぷり味わえる「絵巻物尽くし」の展覧会です。広報担当の方のお話によると、「詳しいストーリーを知らない絵巻物初心者の方でもストレスなく作品を鑑賞できるように、解説パネルやキャプションを充実させました」とのこと。根津美術館は毎回キャプションや音声ガイドなど、作品解説が非常に充実しているので、安心して楽しめそうですね。
会期 2019年1月10日(木)~2019年2月17日(日)
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特選美術展3「堺に生まれた女性日本画家 島成園」展(さかい利晶の杜)
島成園という美人画を得意とした、大正~昭和初期に活躍した堺市出身の女性日本画家をご存知でしょうか?没後、約50年が経過した現在となっては、知る人ぞ知るマイナーな存在となってしまいましたが、生前当時の大正時代には、わずか20歳の若さで文展(文部省美術展覧会)に初入選して華々しく画壇にデビューすると、京都の上村松園、東京の池田蕉園とともに「三都三園」と並び称されるなど、若き天才女流画家としてよく知られていました。
島成園「影絵」大正前期 堺市蔵
島成園「祭りのよそおい」大正2(1913)年 大阪中之島美術館蔵
本展では、「影絵」のように遊郭の女性を描いた美人画や、子供たちの祭りの一場面を描いた「祭りのよそおい」など、様々なタイプの作品を特集。また、幼少時代を堺で過ごした画家の当時にも取材し、画家・島成園の素顔にも迫っています。わずか約3週間と非常に短い展示期間ですが、全国から熱心なファンが集う注目の展覧会になりそうです。
会期 2019年1月5日(土)~1月27日(日)
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特選美術展4「水彩画の魅力 ターナーから清水登之まで」(栃木県立美術館)
昔から学校教育でも取り入れられて普及した水彩画ですが、日本でも水彩画専門誌「みづゑ」が刊行されるなど、明治時代から名手が多彩な作品を発表し続けてきました。
清水登之《静物》1930年代 栃木県立美術館蔵
水彩画のコレクションが非常に充実している栃木県立美術館では、本展「水彩画の魅力 ガーナーから清水登之まで」で、地元・栃木市出身の清水登之水彩コレクションを一挙公開。
J・M・W・ターナー《メリック修道院、スウェイル渓谷》1816-17年頃 栃木県立美術館蔵
他にも、豊富なコレクションの中から、J・M・W・ターナーやデイヴィッド・コックス、河野次郎のほか、五百城文哉、清水登之、小山田二郎、草間彌生など、時代や作風が異なる様々な作品を通して水彩画の魅力を紹介。約150点が展示される強力な展覧会となっています。
会期 2019年1月12日(土)~3月24日(日)
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特選美術展5「シャルル=フランソワ・ドービニー展」(ひろしま美術館)
絵筆を屋外に持ち出し、自然の素朴な美しさをそのまま現地で描いたフランスの「バルビゾン派」の作家たち。モネやピサロ、シスレーなど風景画を得意とした印象派に作風が近く、彼らより約20~30年前に活躍しました。そのバルビゾン派の代表格として知られるシャルル=フランソワ・ドービニーについて、国内外から約90点の作品や資料が集結した日本初の大規模展が、2018年10月から全国を巡回中。1月からはいよいよひろしま美術館で展示がはじまります。
シャルル=フランソワ・ドービニー「ヴォー島、オワーズ川の分流地点」1870年頃 油彩/板 39 x 79 cm オーヴェール=シュル=オワーズ、ドービニー美術館 © Christian Devleeschauwer
特にオススメなのは、川辺の風景画。バルビゾン村以外にもノルマンディー地方やオワ―ズ川の周辺など、様々なロケーションを愛船で巡り、旅をしながら描いたという穏やかな川辺の見せる様々な表情を楽しむことができます。
シャルル=フランソワ・ドービニー「ボッタン号」1869年頃 油彩/カンヴァス 171.5 x 147 cm フランス、個人蔵 © Archives Musées de Pontoise
この展覧会を逃したら、次にドービニーの作品をまとまって観られる展覧会は、ひょっとしたら何十年も先になるかもしれません。風景画や印象派が好きな方は見逃せない展覧会と言えそうです!
会期 2019年1月3日(木)〜3月24日(日)
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特選美術展6「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」(森アーツセンターギャラリー)
ここ数年の北斎ブーム、日本美術ブームの後押しを受け、毎年のようにテーマに工夫がこらされた面白い展覧会が開催されるようになった葛飾北斎ですが、2019年最注目の大規模な展覧会となるのがこの「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」です。
葛飾北斎《円窓の美人図》絹本額面 文化2年(1805)頃 シンシナティ美術館 Cincinnati Art Museum, The Thoms Collection- Given by Mrs. Murat H. Davidson in honor of her Grandfather, Joseph C. Thoms, 1982.4 通期展示
期間中、3回の展示替を含めて約480件と近年稀に見る充実した出展件数の中には、アメリカ・シンシナティ美術館が所蔵する「向日葵図」(肉筆画)など、多数の初公開作品も含まれるため、北斎ファンはリピート必至の展覧会です。
葛飾北斎《牡丹に蝶》大判 天保初期(1830-34)頃 島根県立美術館(永田コレクション)展示期間 1月30日(水)~2月18日(月)
また、本展では、展覧会監修者である故・永田生慈氏が収集した2000件を超える「永田コレクション」から選りすぐった屈指の作品を展示。「永田コレクション」は2017年に一括して、故郷の島根県に寄贈され、氏の遺志により本展出品後は、島根県でのみ公開されることとなりました。つまり、本展は永田コレクションを東京で見ることができる最後の機会でもあるのです。初公開作品、海外からの出品、東京最終公開作品など、見どころ満載の最強の北斎展、是非堪能してみて下さいね。
会期 2019年1月17日(木)~3月24日(日)
※会期中、展示替えあり
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特選美術展7 特集展示「玉 古代を彩る至宝」(九州国立博物館)
2018年夏に「縄文展」がヒットするなど、ここ数年日本の考古系展覧会が盛況です。本展は、「古代の宝石」の代表格とも言える、古墳時代の「玉」に着目した展覧会。古代歴史文化にゆかりの深い14県で構成された古代歴史文化協議会の共同調査研究の研究成果として、企画開催された展覧会です。
都谷遺跡ST014号墳 玉類
日本各地の古墳時代の墳墓等から出土する「玉」は、その軽さ・美しさから権力者の身なりを飾るためだけでなく、準通貨的な位置づけの交易財として東アジアで国際的に流通しました。美しく研磨・加工された「玉」からは、古代人の美意識が詰まった美術品としての美しさと同時に、太古の歴史ロマンをたっぷり感じることができそうです。
下大谷1号墳 玉類
筆者も本展の前に開催された江戸東京博物館での展示を観てきましたが、そのクオリティの高さに驚かされました。常設展料金で観覧できる、掘り出し物的展覧会です。元旦から楽しめるのもポイントが高いですね!
会期 2019年1月1日(火)〜2月24日(日)
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特選美術展8「新年を祝う―吉祥の美術―」(大和文華館)
最後に紹介させていただくのが、新年のおめでたいモチーフの作品を集めたお正月らしい展覧会です。豊かさのイメージにつながる「魚」、百花の王と呼ばれる「牡丹」、おめでたいしるしとして尊ばれた想像上の動物である「鳳凰」「龍」といったデザインに加え、2019年の干支、イノシシが登場する作品も展示。
猪図 望月玉泉筆 江戸時代 個人蔵
日本の近世絵画や中国・朝鮮半島の工芸品に表現された、見ているだけで幸せになれる美術作品の数々が楽しめる、お正月らしい展覧会です。
会期 2019年1月5日(土)~2月17日(日)
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その他、見納めとなる2018年秋からの大型展覧会も!
2019年1月は、ムンク展(東京都美術館)、ルーベンス展(国立西洋美術館)、ルーヴル美術館展(大阪市立美術館)など、大都市圏で開催されている2018年秋からの大型展覧会が相次いで終了します。会期最終週になれば混雑も相当激しくなりますが、1月に限ってカレンダーを見てみると、正月疲れの影響で、仕事始めとなる1月7日(月)の週は毎年全般的に外出が低調となるため、混雑回避には絶好の狙い目となりそうです。いずれもこれを逃すと、次に同様の展覧会が開催されるのは10年、20年先になる可能性が高いと思われます。観たい展覧会があれば、逃さずにしっかり観ておきたいですね。
文・撮影/齋藤久嗣