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2025.07.21

音まで聞こえそう! 北斎のスゴさがわかる「水」の表現│浮世絵師・葛飾北斎を知るAtoZ【W】

約70年にわたって活躍した浮世絵師・葛飾北斎。ただひたすら絵を描くことに執着し続けた北斎の人生は、波乱万丈にして奇想天外! 破天荒な絵師・北斎の人生をAからZの26の単語でご紹介します。今回はW=【Water Falls(滝)】!

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北斎AtoZ
W=【Water Falls(滝)】〝水〟の表現を徹底追求!

「W」には北斎生誕の地「割下水(わりげすい)」を当てることができ、墨田区の両国駅東側の北斎通り界隈の現在地には、葛飾北斎を専門とする「すみだ北斎美術館」が立っています。

そして「W」にはもうひとつ、北斎にとって重要なテーマであった水、つまり「Water」があり、『諸国瀧廻り』という「Water Falls(滝)」の傑作シリーズがあります。

『諸国瀧廻り』は『冨嶽三十六景』に続いて北斎が発表した、8図からなる風景画の連作。日本各地の滝が描かれているのです。

水の表現を徹底追求した傑作ばかり!

源義経が馬を洗ったという伝承が残る、奈良県吉野の〝行者の滝〟〝知行の滝〟と呼ばれる滝で、馬を洗うふたりの男。水量が豊富なことが伝わってくる。『諸国瀧廻り 和州吉野義経馬洗滝(わしゅうよしのよしつねうまあらいのたき)』葛飾北斎 1833年 シカゴ美術館 The Art Institute of Chicago, Clarence Buckingham Collection

北斎は風のように目に見えないものの表現を試みるなど、「なんでも描いてやる!」というような姿勢を貫いてきた絵師です。
なかでも熱心に取り組んだのが、水の表現でした。

幾筋にも分かれた滝と、一直線に落ちる滝

左は日光三名瀑のひとつである〝霧降の滝〟。日光参詣の旅人の様子も楽しい。筋目模様の水流と緑の樹木や岩肌のコントラストが美しい。右は 長野県木曽の木曾八景のひとつである〝小野の滝〟。一気に落下する滝を見上げる人々によって、滝の高さや雄大さを表現。左/『諸国瀧廻リ 下野黒髪山きりふりの滝(しもつけくろかみやまきりふりのたき)』・右/『諸国瀧廻り 木曽海道小野ノ瀑布(きそかいどうおおのばくふ)』葛飾北斎 1833年 シカゴ美術館 The Art Institute of Chicago, Clarence Buckingham Collection

 

自然のなかで水は、雨になり、川になり、海になり、さまざまに姿を変えて存在しています。
ときには雨粒になり、水流になり、波になり、激流になり、しぶきにもなります。
しかし、その一瞬の形にまでこだわって描かれた例は、北斎以前にはなく、刻々と姿を変える水を緻密に描いたのは北斎が初であったと言っても過言ではありません。

水量豊富な滝とチロチロ流れる滝

左は神奈川県の大山を流れる滝とされ、大山詣りで水垢離(みずごり)をする人と奉納される白木の大太刀(おおたち)が描かれている。右は三重県と滋賀県にまたがる鈴鹿峠の宿場と近くを滝。左/『諸国瀧廻り 相州大山ろうべんの滝(そうしゅうおおやまろうべんのたき)』葛飾北斎 江戸時代・19世紀・右/『諸国瀧廻り 東海道坂ノ下清滝くわんおん(とうかいどうさかのしたきよたきかんのん)』葛飾北斎 1833年ごろ シカゴ美術館 The Art Institute of Chicago, Clarence Buckingham Collection

水に対するこだわりは、〝大波〟のニックネームをもつ傑作『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』でも見て取ることができます。
大きくうねる大波には、大小さまざまな波しぶきが描かれていて、北斎は細部の水にまで神経を行き届かせていたのです。

低い滝と高い滝の描き分けが見事

左/東京都港区虎ノ門にあったとされる滝は、溜池から流れ出した人工滝。人々の姿に、江戸の日常をうかがい知ることができる。『諸国瀧廻り 東都葵ヶ岡の滝(とうとあおいがおかのたき)』葛飾北斎 1833年 シカゴ美術館 The Art Institute of Chicago, Clarence Buckingham Collection 右/水が酒に変わったという伝承がある岐阜県養老の滝。水しぶきや川のうねりなど、さまざまな水の形態が描かれている。『諸国瀧廻り 美濃ノ国養老の滝(みののくにようろうのたき)』葛飾北斎 1833年 シカゴ美術館 The Art Institute of Chicago, Gift of Chester W. Wright

そのような水に対する北斎の意識が徹底して表わされているのが『諸国瀧廻り』なのです。
大小、緩急、有名無名さまざまな全国8か所の滝は、それぞれの個性が見事に描き分けられています。
しかも、滝を見上げる旅人と、そばにたたずむ人々を効果的に配し、雄大な自然のスケール感や、滝に対する信仰心まで表わしているのですから驚かされます。

北斎の水の表現を集約した快作

岐阜県郡上市にある阿弥陀ケ滝がモチーフとされ、円形のなだらかな渓流と直線的に流れ落ちる滝のコントラストが秀逸。手前の、滝見をしながら酒盛りをする男たちも面白い。『諸国瀧廻り 木曽路ノ奥阿彌陀ヶ瀧(きそじのおくあみだがたき)』葛飾北斎 1833年 シカゴ美術館 The Art Institute of Chicago, Clarence Buckingham Collection

『諸国瀧廻り』の各図の水の描き方に注目してみると、北斎という絵師のスゴさが改めてよくわかることでしょう。

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和樂web編集部


構成/山本 毅 ※本記事は雑誌『和樂(2017年10・11月号)』の転載・再編集です。 アルファベットに用いた葛飾北斎の絵は、『戯作者考補遺』(部分) 木村黙老著 国本出版社 1935 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1874790 (参照 2025-06-04)
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