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2020.01.30

猫好き浮世絵師・歌川国芳の作品がガラス食器に!おしゃれかわいい「江戸猫ぐらす」を紹介

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葛飾北斎と同時代に活躍した浮世絵師、歌川国芳。

周りには常に数匹から十数匹の猫がおり、いつも懐に猫を抱きながら国芳は絵を描いていたと言われています。猫専用の仏壇には戒名を書いた位牌がずらりと並び、猫の過去帳もあったそう。無類の猫好きと言われる所以です。

そんな国芳ですが、彼にまつわるさまざまな展覧会が近年各地で催されていることから、ご存知の方も多いのではないでしょうか。

国芳の思いそのままに、現代の技術・手法で猫たちを蘇らせた石塚硝子株式会社の素敵な「江戸猫ぐらす」をご紹介しましょう。

オランダ人から受け継いだガラスの製法を学ぶ

石塚硝子株式会社の創業者石塚岩三郎は、下総国(現在の千葉県)関宿の久世大和守の家臣、石塚清助の次男として生まれました。

岩三郎は武芸にとても優れた青年でしたが、武家のしきたりや古い習慣にしばられた生活から抜け出したいという思いが強く、あるとき長崎へと旅立ちます。

当時は鎖国体制下にあり、長崎には幕府公認で唯一の国際貿易港である出島がありました。オランダとの交易が盛んに行われており、さまざまな輸入品を目にする中で、ある日岩三郎は、オランダ語でガラスを表す「びいどろ」とめぐり合います。

そして、その美しさに魅せられた岩三郎は長崎のガラス職人から製法を学ぶことにします。

尾張藩主徳川慶勝公にも献上されたびいどろ

苦心の末、製品を作ることができるようになった岩三郎は江戸を目指します。しかし、その途中、美濃の土田(現在の岐阜県可児市)でガラスの主原料である良質な硅石(けいせき)を発見。岩三郎はこの地でびいどろ作りを始めることにしました。1819年11月のことです。

そして創業200年を迎えた同社は現在、びんや食器といったガラス製品だけでなく、プラスチック容器、紙容器といった生活に必要不可欠な容器を製造する「総合容器メーカー」となりました。

身近なものでできているガラス

そもそもガラスは砂や石からできています。主な原料は「珪砂」「ソーダ灰」「石灰石」です。

原料は約1,500℃で溶かされ、製品に加工しやすいようゴブ(カットされたガラスの塊)にされます。

こちらはてびねりジョッキの製作工程。ゴブは金型に入れられ、ジョッキの形にプレス成型されます。コンベアで運ばれますが、この時はまだ高温なので、熱を持ったガラスは赤いままです。

コンベア上にあるバーナーでファイアポリシング(溶かして研磨する)を行い、表面を滑らかに仕上げます。

レアと呼ばれる徐冷炉で1~2時間ほどゆっくり冷ますとジョッキの完成です。

ガラス製品は徹底した品質管理のもとに製造されているのです。

歌川国芳の猫たちをガラス食器に写し取る

長い歴史と伝統をもつ同社はさまざまな技法を駆使した数多くの製品を生みだしていますが、あるとき浮世絵をモチーフに製品を開発しようという話が持ち上がりました。中でも、鋭い観察眼で猫のしぐさや表情を描いた歌川国芳に着目したのです。

国芳の浮世絵には今も昔も変わらない猫の魅力が表現されている。国芳の描いた猫たちをガラス食器に写し取り、現代の生活の中で使って頂けるようなものにしたい――。「江戸猫ぐらす」はそんな思いから生まれました。

猫たちの表情に注目のなまづぐらす

国芳の浮世絵には猫好きならではの遊び心が満載。例えば「猫の當字」というシリーズでは猫たちが肢体を上手に使って文字となり、魚の名前を表現しています。

「猫の當字」は現在「うなぎ」「かつお」「たこ」「なまづ」「ふぐ」の5種類が確認されており、こちらは「なまづ」を写したビアグラス。

1個のグラスに1つの猫文字が描かれ、3つ揃えば「なまづ」の言葉が完成します。

よく見ると、鯰も参加しています。

みぞれ仕上げが施されたビアグラス

ビアグラスには「五拾三次之内 岡崎の場」「其まゝ地口猫飼好五十三疋」「流行猫の曲手まり」から写されたものもあります。

なまづぐらす同様、ガラスの表面には「みぞれ仕上げ」と呼ばれる特殊な加工が施されており、涼やかな風合いのグラスには、はちまきをした猫や鞠を蹴り上げる猫がワンポイントであしらわれています。

口すぼまりの形状が特徴的な左のグラスは、味の濃いコクのあるビールに最適。
泡持ちがよい飲み口で、舌の真ん中のコクを感じる部分にビールが流れ込み、重厚なコクを引き立てます。

真ん中のグラスは爽やかなビールにピッタリ。
直線的な形状によりビールがストレートにのどの奥に流れ込むため、爽快なのど越しを楽しめるんです。

右のグラスは芳醇な香りと味わいのビールに。
外広がりの飲み口により、まずは舌先の甘みを感じる部分にビールが注がれ、ふくよかな形状により芳醇なビールの香りがより凝縮される形状になっています。

グラスが変わればビールの味わいは変わるもの。
ガラスを知り尽くした同社ならではのこだわりが、それぞれの形状に込められているんです。

ところで、それぞれのモチーフの反対側には猫にゆかりのアイテムが。

同社デサイナーの遊び心も国芳に負けてはいません。

「もっきり」を楽しめる枡酒グラス

ビアグラスと同じモチーフで冷酒グラスと国産のヒノキで作られた枡のセットもあります。

枡は本来体積を計る道具ですが、現在はおめでたい席で日本酒の杯として使われているもの。「ます」を「増す」と捉え、「福が増す」や「益々めでたい」といった意味を込め、大変縁起が良いと考えられています。

このグラスなら、ふちギリギリまでお酒を注ぐ「もっきり」スタイルを自宅で楽しめます。枡の内底にある猫ゆかりのアイテムも見逃せません。

こぼし酒を楽しめる盃&豆皿セット

お酒が間違いなく進む、素敵な器をもう一つご紹介しましょう。

こちらは「猫の當字」シリーズの「たこ」に登場する猫が写されている盃&豆皿セットです。

あたたかみのある手びねり風のガラスで、豆皿を盃の下に敷いてこぼし酒を楽しむこともできますし、豆皿を食べ物の盛り付けに使うこともできます。

周囲に金が施された豆皿には愛らしい猫とともに、よく見ると鯰の姿が!国芳の遊び心がしっかりと織り込まれた逸品です。

食卓を彩る猫の箸置き

箸置きのルーツは諸説ありますが、もともとは自分が使うためのものではなく、神様に捧げる食事とともに供えられた道具だったそうです。

箸置きは現在、食卓を華やかに彩ってくれるアイテムですが、「猫の當字」シリーズからデザインされた、こんな箸置きはいかがでしょう?

たこにかぶりつく猫の後ろには、魚がデザインされ、

可愛らしい肉球が施されている猫の姿も。

えっ!貼り込みはすべて手作業!?

ところで、これらの製品がどのように作られているのかを、江戸猫ぐらすと並ぶ人気商品「風神雷神図うつし」で簡易的に再現していただきました!

用意するものはガラス用の特殊な転写紙とガラス本体です。

まず、転写紙とガラス本体を水に漬けます。

ガラス本体に優しく載せると、

膜厚が薄い転写紙はツルンとシートから外れます。

素早く、しかし丁寧に、水と空気をかきだし、

タオルできれいに拭き取り、乾燥させると、

転写紙の貼り込み完了です。なんと、これまでの工程はすべて手作業なんです!

その後、焼成されると転写紙はガラスと一体化し、製品が完成します。

左は焼成前、右が焼成後の完成品です。熱が入ることにより風神の髪や袋の色合いが変わり、金色がより輝きを増しています。

猫にまつわるアイテム満載の箸置き

国芳のさまざまな作品から選ばれた猫が繊細な和柄とともにあしらわれた個箱入りの箸置きもあります。

よ~く見ると、鈴や小判といった猫にまつわるアイテムがちらほら。箱マニアでもある同社デザイナーのこだわりが随所にみられるパッケージです。

職人の手により、一つひとつ丁寧に作られた可愛らしい箸置きは現在8種類。

こちらは「金魚づくし」と呼ばれるシリーズの一場面をモチーフにデザインされたものです。

武者絵で高い評価を受ける国芳ですが、すべての生き物に慈しみのまなざしを向けていたと言われています。「金魚づくし」は、金魚をはじめとする水中の生き物が擬人化されて描かれており、国芳の豊かな発想力に触れられる作品の一つです。

この猫、実はお話の最後の出てくる化け猫なんですが、どこか親しみを感じてしまう表情です。

国芳と同時代に生きた初代岩三郎は、実際に国芳の浮世絵を見ていた可能性があります。200年の時を越え、自らが生みだしたガラスと猫たちの共演をきっと目を細めて見ていることでしょう。

日本が世界に誇る浮世絵、グラスウェアで楽しんでみませんか?

石塚硝子株式会社

住所:〒482-8510 愛知県岩倉市川井町1880番地
公式サイト:https://www.ishizuka.co.jp/

書いた人

医療分野を中心に活動。日本酒が好き。取材終わりは必ず美味しいものを食べて帰ると心に決めている。文句なく美味しいものに出合うと「もうこれで死んでもいい!」と発語し、周囲を呆れさせる。工芸であれ、絵画であれ「超絶なもの」に心惹かれる。お気に入りは安藤緑山と吉村芳生。