ラグビーワールドカップの興奮を冷めやらぬ今、トップリーグが始まりました。前年とは比べ物にならないほどチケットの売れ行きに、「ラグビー人気は本物だ」という声が上がっています。
私は昔から主に大学ラグビーを見ていたので、嬉しい悲鳴ですね!
ラグビーの試合を見るたびに、思い出す日本文化があります。それは茶道。ストイックでありながら人とのコミュニケーションが欠かせない茶の湯が、ラグビーとダブって見えたのです。考えてみたところ、実は意外と共通点が多かったんです!
「にじり口」はロッカールーム?別世界へのそれぞれの入り口
先日ラグビージャーナリストである村上晃一さんから、元日本代表・林敏之さんの話を伺う機会がありました。テレビや映画でおなじみの、かがめないと入れない「にじり口」について仰っていたそうです。
茶道は、元々武士のもの。そのため、頭を下げなければ、刀を外さないと入れない入り口が生まれました。
元日本代表・林さんは「茶室の中では身分や、人としての上下は関係ない。ただ茶の世界に入っていく。ラグビーのロッカールームも同じだ」とお話していたそうです。
「普通の生活から、ロッカールームを通って、ラグビーだけの世界に入っていく。先輩も後輩も関係なしにラグビーに浸りきる」。プレイヤーの方がそうお話されていたとは初めて聞きました。興味深いですよね!
別世界=フィールドの上では人種や上下は関係ない、ただみんなラガーパーソン。余計なものをそぎ落としたシンプル空間、広さは違えど、ラグビーフィールドと茶室は同じなのかもしれません。
「ルール」を守らなきゃ戦えない!
ラグビーの試合を見たときに、いくつか不思議なルールがあったと思いませんでしたか?例えば「ノックオン」、ボールを前に落とす反則。「コラプシング」はスクラムを故意に崩す反則です。ルールを守らないと、試合になりません。ラグビーは防具なしにぶつかりあう激しいスポーツですが、戦略がものを言うそうです。選手はそれぞれ声を掛け合いながら、事前の練習や現在の状況をもとに今自分が何をすべきか動きます。ちなみに、バレーなどでおなじみの「鳴り物」の応援グッズがラグビーにないのは、選手同士のコミュニケーションを邪魔しないためなのですよ!
また、茶道にも「点前」という、作法があります。「引き柄杓」や「湯返し」など、独特の動きがたくさん。これら基本の動きを組み合わせて、初めてお客様にお茶をさしあげることができるのです。
もちろん、場合によっては省略する場合もあります。ラグビーも戦略上、セオリーを無視して動くことも。ルールブレイクは、ルールを知っているものだからこそできることです。
ラガーパーソンの無駄のない動きを見るたびに、いつも「武士」を思い出します。
同じことができますか?「反復」の重要性
2015年のワールドカップ。メディアがこぞって取り上げた「五郎丸選手のルーティン」を覚えていますか?キックの前に一連の動きを反復することで、心を落ち着けていたのです。
フォワードで組むスクラムや、トライ後やペナルティ後のキック、同じ動きに見えても常に状況が違うのがラグビーの試合。その時頼れるのは普段の「反復」です。ジェイミー・ジョセフヘッドコーチはタックルされたあとにパスする「オフロードパス」を日本代表にみっちり練習させたそうです。これは高度なテクニック。プレッシャーのかかる局面で行えていたのは、体にしみこませたからこそでしょう。
体格のハンデがある、と長年言われていた日本代表が活躍できた要因のひとつだと思います。
一方、茶道にはお茶会という、いわばおもてなしの発表会があります。お客様をお招きし、お茶とお菓子をふるまいます。亭主役になると稽古した点前を行いますが、手順を間違えてしまわないかと、いつもひやひやです。
信頼できるのは今までのお稽古、つまり反復です。実際、私は一度緊張しすぎて頭が真っ白に。おまけに湯気が目の前に広がり、視界は物理的に真っ白でした。薄茶という、一番基礎の何十回と反復したお点前でしたので、なんとか手の感覚を頼りにお茶をお出しできました。
練習は裏切らないという昔から言われている言葉を実感した瞬間でした……!
相手を尊重することが重要!「ノーサイド」の精神
SNSやテレビなどで、試合終了後のラグビー選手同士が、健闘をたたえているシーンがよく流れていましたよね。松任谷由実さんがラグビーをモチーフにした曲のタイトルであり、大泉洋さんのドラマにも使われている「ノーサイド」。試合が終わったら敵味方が関係ない、というラグビーの精神を現した用語です。
ラグビーには「アフターマッチファンクション」という文化があります。試合終了後の選手やスタッフたちが交流するもので、高校ラグビーなどでも行われているんですよ。1823年にイングランドの名門パブリックスクール(私立校)、ラグビー校から発祥したスポーツであることから、「ラグビーは紳士のスポーツ」と言われます。200年経っても、その精神は受け継がれているようです!
一方の茶の湯は安土桃山時代、千利休によって主に武士の間で広まっていった文化です。当時は身分社会で、いつ殺されるかもわからない世界。そんな中、刀を外し共に茶碗を酌み交わす茶の湯は、政治的な意味でも重要な役目をはたしていたようです。
徐々に殺伐とした部分は取り去られていき、人々は「一期一会」の精神でお茶の時間を楽しむようになりました。
なお、茶道では亭主が準備した仕掛けや工夫を読み解く「駆け引き」も楽しみのひとつ。ラグビーも智謀を働かせるスポーツです。
ラガーパーソンはラグビーボール越しに。
茶人は茶碗越しに、他にないコミュニケーションを取っているのかもしれませんね。
お茶の体験とラグビー観戦が人生を救う!?
茶道とラグビーを楽しんでいると、毎回新たに気づくことを見つけます。人々が愛し、積み重ねてきた歴史の中でさまざまなことが培われてきたからなのでしょう。
気分を変えたい方。ラグビーの試合を見に行ったり、お茶席を体験してみたら、新たな人生へのヒントが得られるかもしれませんよ!