Gourmet
2020.03.03

全国のお雑煮の特徴を、日本のだし文化から探る!関東と関西の違いは?沖縄でも食べるの?

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多彩なソースを加える西洋の「足し算」の料理に対し、日本の料理は素材の持ち味を引き出す「引き算」の料理といわれています。うまみを引き出す料理のベースとなるのが、昆布やカツオ節などの天然の素材から抽出された「だし」。素朴ながらも豊かな味わいと香りが感じられるだしを口にすると、ほっと心が落ち着く方も多いのでは?

日本の料理に欠かせないだしについて、全国の「お雑煮文化」・小江戸川越の人気食べ歩きグルメ「ねこまんま焼きおにぎり」の食レポ・北条氏政の「ねこまんまエピソード」とともに詳しくご紹介します!

だしの“うまみ”は、日本人化学者が発見!

だしは「昆布とカツオ節」のように、植物性と動物性のものを合わせるのが一般的で、混合したほうがよりうまみが出ると言われています。この「うまみ成分」は、日本人化学者の池田菊苗博士が1908年、世界で初めて昆布だしから発見しました。当時は「甘味、酸味、塩味、苦味」の4種類が「基本味」でしたが、これらに加えて「うまみ」も仲間入りしたのです。

昆布だしのうまみの正体は「グルタミン酸」というアミノ酸の一種。1913年にはカツオ節から「イノシン酸」、1960年には干し椎茸から「グアニル酸」が、どちらも日本人によってうまみ成分として発見され、現在では世界でも「UMAMI」として共有されるに至りました。

お雑煮から探る全国のだし文化

平安時代には、既に干し魚を煮出してだしをとった「煎汁(いろり)」という料理がありました。またカツオ節についてはカツオそのものの記録が『古事記』にあり、「堅魚(かたうお)」というお供えの品として登場しています。長い歴史を持つだしの文化は、どのように広がっていったのでしょうか。

「関東と関西ではだしの味が違う」とはよく聞く話ですが、実際、全国では地域によってさまざまなだしが使われてきました。そんな日本のだし文化を知るうえで、お雑煮の例が一番馴染みやすく、それぞれの地域の特性がよく表れているので、イラストを元に辿ってみたいと思います。

⬛︎北海道
国内産の昆布の90%が北海道産で、利尻昆布や羅臼昆布など、産地によって味が変わるのも特長です。お雑煮については道外のさまざまな地域から開拓団が入植してきたという歴史があり、具材は各地のものが混在しているようです。

⬛︎東北地方
私が子どもの頃食べていたのは岩手のくるみ雑煮。だしというよりタレですが、くるみダレもよく作っていました。宮城の焼きはぜ雑煮、秋田名物ハタハタが入った男鹿雑煮、干し貝柱のだしがたっぷり使われた福島のこづゆ雑煮など、東北らしい具材とだしが多いです。

⬛︎北陸地方
新潟の越後雑煮は鮭とイクラの親子雑煮、豪華絢爛なイメージです。海産物豊富な富山も海老入りというゴージャスさ。福井はみそ文化圏らしく、みそ味にカツオ節を振った、かぶ入りのかぶら雑煮が有名です。

⬛︎関東地方
江戸雑煮はカツオ節でだしを取り、味付けは醤油とみりんのすまし仕立て。具は鶏肉やかまぼこなどを入れたものが、関東ではオーソドックスなお雑煮です。千葉のはばのり雑煮は関東では特殊な例と言えるでしょう。はばのり雑煮もだしはカツオ節。九十九里周辺で採れるはばのりは、高級品とのことです。

⬛︎甲信越地方
海のない長野ではブリがごちそうで、富山から運ばれたブリは、ハレの日の食べ物として重宝してきたそうです。山梨は山の幸がたくさん入ったお雑煮で、だしはカツオ節のほか、どんこ(乾しいたけ)も使用。山に囲まれた山梨ならではですね。

⬛︎東海地方
愛知は名古屋の赤みそのイメージが強いですが、お雑煮に関してはすまし仕立てが主流のようです。また、三重では地域によって、みそ仕立て、名古屋流に分かれるそう。

⬛︎関西地方
京雑煮のだしは昆布。白みその地域やすまし汁の地域もあるそうです。カツオ節が主流の関東に比べて、関西は昆布だし文化とされています。昆布は奈良時代から朝廷の献上品だったという歴史があり、関西では昆布が主流となりました。

⬛︎四国地方
白みそ仕立てに餡入りのお餅を入れた、香川のあんもち雑煮。瀬戸内特産のいりこだしを使用しています。四国は全体的に「あんもち、白みそ」が主流のようです。

⬛︎中国地方
かき雑煮は広島ならではといえます。ほかにもアナゴやブリ、蛤を入れる地域など、四国同様、瀬戸内の恵みがふんだんに使われています。島根のあずき雑煮は、ぜんざいのようなお雑煮。

⬛︎九州地方
福岡の博多雑煮はあごだし、昆布、鶏肉だしなどを合わせ、醤油味。鹿児島では焼き海老でだしを取る、焼き海老雑煮が代表的だそう。海に囲まれている地域は、全体的に豪華なイメージです。

⬛︎沖縄
お餅を入れたお雑煮を食べる習慣はあまりないそうですが、お正月には豚のモツを煮込んだ「中味汁」という郷土料理を食すのが一般的とか。

各地域とも、だしといい、具材といい、実に多種多様です。各家庭においても、両親の出身地が違うと2種類用意する、ということもあるかもしれません。南北に長い日本列島ならではの、豊かな食文化といえるのではないでしょうか。

本枯節を贅沢に使った「ねこまんま焼きおにぎり」を川越で食べてきた

だしをとる定番の食材は「カツオ節」。だしとしてだけでなく、そのまま食べてもおいしいカツオ節には、本枯節と荒節の2種類があります。中でも「カビ付け」が施される本枯節は、最高級のカツオ節といわれています。

埼玉県の川越市にある乾物店、「中市本店」では、本枯節を使用したカツオ節と煮干しの削り節を使用したイワシ節、2種類の「ねこまんま焼おにぎり」が店頭販売されており、小江戸川越の食べ歩きグルメとして人気です。

通りには食欲をそそる匂いが漂います

昆布とカツオ節を使用した自家製だし醤油の香ばしさと、たっぷりかけられた節の風味があとを引くおいしさです。

たっぷりどっさりのカツオ節&イワシ節

中市本店

北条氏政もねこまんまがお好き?

ご飯にみそ汁の残りをかけた料理(?)を「ねこまんま」という場合もあるようです。日本三大夜戦のひとつ、川越夜戦で上杉謙信を破り、関東を支配した北条氏康(1515~1571年)の息子、北条氏政(1538~1590年)に、「汁かけ飯」というエピソードがあります。

ある日ご飯にみそ汁の残りをかけて食べていた氏政は、それだけでは足りなかったらしく、もう一度みそ汁を追加投入します。それを見ていた父の氏康。「あいつは飯にみそ汁をどれくらいかければいいのか、その加減も分からない。北条家もこれでおしまいか」と嘆きます。氏政は1590年、小田原征伐を招き、豊臣秀吉の命により切腹。氏康は、そうした氏政の失脚を「ねこまんま」から予見していたのかもしれません。

おいしくて栄養もたっぷり!だしはサスティナブルな日本文化

私たち人間が、食べ物からしか摂取できない9つのアミノ酸があります。イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、スレオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、バリン、ヒスチジン。「必須アミノ酸」ともいわれ、実はカツオ節にはこの9つ全てが含まれています。また、昆布はだしが取れるうえ、食べることもできる無駄のない食材です。

食品ロスの問題が取り上げられるなど、何かと食に関する話題が盛んな現代。だしには、食材を無駄にしない知恵と栄養がぎっしりと詰まっているのです。