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2020.03.17

チリモン、ゲットだぜ!ごはんのお供、ちりめんじゃこからレアキャラが激減の謎

この記事を書いた人

大人になっても、ポケットに入るサイズのあの小さなモンスター集めがやめられない。そんなあなたに(もちろんそうでない人にも)、最近子どもたちを中心にその存在が知られつつある極小のモンスターをご紹介します。実はかれら、とっても身近なところから見つかるかもしれないのです。

白飯の上のモンスター? その名はチリモン!

モンスターたちが潜んでいるのはどこかというと、ほかほかごはんのおかずにぴったりのシラスやちりめんじゃこの中。
えっ、こんなところにモンスター?そうなんです、その正体がこちら。
ちりめんじゃこの原料になるカタクチイワシ漁の網にかかった、いろいろな海洋生物たちです。

タツノオトシゴのなかま(写真提供:公益社団法人大阪自然環境保全協会)

クチキレウキガイのなかま(写真提供:公益社団法人大阪自然環境保全協会)

ワタリガニのなかま(写真提供:公益社団法人大阪自然環境保全協会)

アナゴ・ハモのなかまのレプトケファルス幼生(写真提供:公益社団法人大阪自然環境保全協会)

広大な海の世界をぎゅっと小さくしたようで、ちょっと神秘的なほど。
ちりめんじゃこの中から見つかるから「チリメンモンスター」略して「チリモン」と呼ばれているんですって。
チリモンがたくさん混じっている選別前のちりめんじゃこが体験学習の教材になるくらい、小学生を中心に今、チリモン探しの人気が高まりつつあるんです。

海の大切さを子どもたちに伝えたい

火付け役となったのは、チリモンの名付け親でもあるきしわだ自然友の会。公益社団法人大阪自然環境保全協会(ネイチャーおおさか)と共同でチリモンWebインタラクティブ図鑑の開発も行いました。
チリモンはとても小さく、成長過程によって見た目が変わったりとれた時期や場所によって色が変わったりするため、種を見極めるのは専門家でも難しいといいます。
チリモンWeb図鑑には誰でも写真の投稿ができるだけでなく、その1枚1枚を運営スタッフが確認、正体が分からない場合には専門家のネットワークに依頼して種の同定を試みるのだそう。一人でも多くの子どもたちがチリモン探しを通じて海の大切さを学べるようにと、ボランティアによって運営されています。

いざ、チリモンバトルの最前線へ

以前はスーパーで買ったシラスやちりめんじゃこの中に、赤くゆだった小さなカニやタコが混ざっているのは、そんなに珍しいことではありませんでした。むしろちょっとした当たりとして家族で取り合い、おいしくいただいていた記憶があります。
でもそういえば、最近はすっかり見かけなくなりました。なぜなのでしょう。

チリモンがレアな存在になったのは、近年、食品への異物混入が大きな問題となっている影響が大きいようです。
海から水揚げされたカタクチイワシの稚魚がシラスやちりめんじゃこに加工されて商品として出荷される前に、チリモンを探して取り除くために奮闘している人々がいます。
チリモンバトルの最前線を、広島県の尾道で海産物卸を営むカタオカに取材しました。

ちりめん漁の網には、いろんなものが入っている

カタクチイワシの稚魚をとる漁は、目の細かな網を使って行われます。
魚群探知機でカタクチイワシの群れを狙いますが、それでも網にはカタクチイワシ以外にも、海の中のありとあらゆる小さなものがかかるのだそう。メバル、タイ、フグ、タチウオなどの魚の子、エビやカニ、シャコの仲間、魚に寄生するウオノエという生物、タツノオトシゴの赤ちゃんなども。もちろん小さな海藻のくずや木片、プラスチック片、小石などのゴミも入ります。  

(イラスト:おうちごはんレシピ2~小魚~)

それらを丁寧に取り除いているのが、水産加工に携わる人々。カタオカでは1台の選別ラインで1日に約500㎏のちりめんじゃこを選別する作業を、7人で行っているのだそうです。単純に人件費だけでも1㎏あたり100円のコストとなりますが、異物の混ざり具合によっては、出荷基準を下回るまで選別作業を2回3回と行うことも当たり前で、最近では5回まで行ったケースもあったというから、驚きます。

目視で異物をチェックしているようす。機械と人の目で何重にもチェックします。(写真提供:カタオカ)

エビやカニはアレルギーの原因にもなるので、シラスやちりめんじゃこの商品にはたいてい「原料となるイワシ稚魚は、エビ・カニ・イカ等イワシ以外の海産物が混ざる漁法で採取しています」といった注意書きがあります。でも、これほどの手間がかかっているとは正直、想像もしていませんでした。

また、こんなに労力をかけて選別したちりめんじゃこでも、最近はわずかな異物で厳しいクレームになってしまうことが増えているのだそうです。

チリモンを見つけても驚くなかれ

たとえば、ちりめんじゃこの中にフグの稚魚が混ざっていて回収になることが時々あります。ふぐの販売には免許が必要と法律で決まっているので、回収になるのは仕方がありません。(フグの毒は成長過程で蓄積されるので、ちりめんじゃこに混じるような稚魚であれば、食べても害はないのだそうです。)
ですが、近年では生産ロットすべてが回収・廃棄になったこともあり、ちりめんじゃこの生産や販売に携わる人々に大きな衝撃を与えました。

なぜなら、カタクチイワシ漁の網にフグの稚魚がかかるのはよくあることで、もちろん商品になる前に丁寧に取り除くようにはしているけれど、1~3㎝というちりめんじゃこのサイズから考えても、人の手で完全に取り除くのは極めて難しいことだからです。

また、選別に時間をかけるほどよいというわけでもありません。
イワシはそもそも足が早い魚。とれたてを煮て干すというのは、鮮度が落ちやすいカタクチイワシをおいしく安全に食べるための先人の知恵でもあるのです。加工場は桟橋に直結していて、水揚げから1時間以内には茹で上がっているほど大急ぎで加工されているのだそう。異物の除去に時間をかけすぎてしまうと、ちりめんじゃこ本来のおいしさが失われてしまうことにもつながりかねません。

この難しい問題に取り組むために、カタオカでは今、尾道市立大学と連携してちりめんじゃこに混じった異物をAIで判別するシステムを開発しているのだそう。異物混入は食品業界全体の課題でもあり、実用化が期待されています。
カタオカの社長片岡彰一郎さんは、「選別は大変な作業だけれど、同時に海の豊かさを感じる瞬間でもある」といいます。

イワシ漁の歴史は1万年前までさかのぼるって、知っていた?

海は命の源という言葉があります。日本は海に囲まれた島国なので、わたしたちは古くから海の恵みをいただいて命をつないできました。
カタクチイワシを煮て干す加工が行われるようになったのは18世紀、江戸時代のころです。
煮ることでイノシン酸といううまみ成分が生成され、干すことでうまみが濃縮されたカタクチイワシは、1~3㎝の稚魚が「ちりめん」、3~5㎝のものは「かえり」、6㎝以上の成魚は「いりこ」と呼ばれ重宝されてきました。

また、カタクチイワシの稚魚を煮て軽く干したものがシラス、しっかり干したものがちりめん、どちらも同じ魚ですが干し方ひとつで呼び名が変わります。
カタクチイワシは小さな魚ですが、さまざまな呼び名があることからも、日本の食文化のなかでいかに大きな存在を占めているかが分かるのではないでしょうか。

「いろいろな煮干し」写真提供:株式会社カタオカ

イワシ漁の歴史そのものはさらに古く、石器時代までさかのぼります。
食べものを自然の中から得ていた時代には、食べられるものを選び食べられないものをよけることを、きっと誰もが当たり前に行っていたはず。

子どもはもちろん大人も夢中になるというチリモン探し。海の生きものや漁について知ることで、ちりめんじゃこに混じっている小さなモンスターへのまなざしも変わってくるから、不思議です。

取材協力:
公益社団法人大阪自然環境保全協会(ネイチャーおおさか)
株式会社カタオカ
参考書籍:おうちごはんレシピ2~小魚~(本分社)

書いた人

岩手生まれ、埼玉在住。書店アルバイト、足袋靴下メーカー営業事務、小学校の通知表ソフトのユーザー対応などを経て、Web編集&ライター業へ。趣味は茶の湯と少女マンガ、好きな言葉は「くう ねる あそぶ」。30代は子育てに身も心も捧げたが、40代はもう捧げきれないと自分自身へIターンを計画中。