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2020.04.28

自宅にある材料で再現可能!大正時代の節約レシピをつくってみない?

この記事を書いた人

お財布の中身がさみしかったり、口座の残高がびっくりするほど少なかったり……人生のうちで、経済的に余裕がなくなることってしばしばあるもんです。
そんな時、まず最初に削ることになるのは食費だったりしませんか。それでも、ちゃんと栄養は摂りたいし、おいしいものを食べたいですよね。
大衆の文化が成熟する一方でさまざまな危機が起きた大正時代には、節約料理のレシピを掲載した料理本が続々刊行されました。庶民にも洋食の調理法が広まりはじめた大正の、レトロな節約料理レシピを参考にして、当時のメニューを再現してみました!

ざっくり振り返る、大正という時代

そもそも、大正時代ってどんな時代だったんでしょうか。

大正は、明治時代の後に続く1912年から1926年までの15年間の元号です。日本の歴史上、今のところ一番短い時代区分なんですね。
時代のしょぱなから第一次世界大戦(大正3~7〈1914~18〉年)が勃発。主な戦場となったヨーロッパから遠く離れた日本は、戦争景気に沸きました。成金(なりきん)が生まれる一方、物価が高騰して庶民の生活が苦しくなり、米の価格も急上昇。軍用米も増え、米が入手困難になった庶民の不満がつのって、大正7(1918)年には「米騒動」が起きます。そして同年、スペイン風邪の世界的パンデミックも発生しました。
戦後直後は不況の時期もありましたが、のちに工業化が進んで職業婦人やサラリーマンが大量に出現。雑誌の創刊などメディアも発達し、大衆文化が盛り上がります。
時代の終盤には大きな災害に見舞われます。大正12(1923)年9月1日に関東大震災が起き、建物の倒壊や火災で甚大な被害が出ました。

大正時代の絵はがき「京橋通り焼失前の倒壊家屋」。関東大震災の甚大な被害の一端がうかがえる。復興の過程ではインフラが整い、各家庭にガスが普及するきっかけにもなった。
東京都立中央図書館蔵

続々刊行された節約料理本

そんな時代背景から、大正時代、特に第一次大戦中や戦争直後には食費の節約や材料費の安さにフォーカスしたレシピ本が多数出版されました。

『三百六十五日 毎日のお惣菜』(桜井ちか子著 大正6(1917)年、政教社刊)の口絵。“絵に描いたような一家団欒”の絵……。着物で正座だが、テーブルには白いクロスが敷かれている。メニューも洋風?
国立国会図書館蔵

例えば『どなたにも向く安価お料理』(嘉悦孝子著 大正5〈1916〉年、恋人社刊)、『安価生活割烹法』(岩井縣著 大正6〈1917〉年、食物療養院刊)、『安価生活三百六十五日料理法』(河合亀編 大正6〈1917〉年、カワイヤ刊)、『安価滋養食品料理法』(小出新次郎著 大正11〈1922〉年、通信東洋女子大学出版部刊)……などなど。
西洋料理と和食が混ざり合った洋食のメニューが広まりはじめていたこの時代。これらの料理本を開いてみると、いかに安くバリエーション豊かに毎日の食事を提供するか、という工夫に加えて、ちょっとモダンさやおしゃれ感が欲しいという野望が垣間見えたりします。

『一品五銭 今日の料理』の、レトロな節約レシピを作ってみた!

大正時代に刊行された節約料理本の1冊、『一品五銭 今日の料理』(桜井ちか子著 大正5(1916)年、実業之日本社刊)はタイトルの通り、5銭の予算でお惣菜1品を作ろうというレシピ本。しかも、家族4人前で5銭、という高いハードルを設けています。著者の桜井ちか子さんはアメリカでの滞在経験もある教育者で、女子教育に尽力した人物。レシピは西洋料理の技術を取り入れたものが目立ちます。

大正時代の5銭は、どのくらいの価値があったんでしょうか。例として、大正9(1920)年のビールの価格は約27銭。『一品五銭 今日の料理』によれば、卵は1個3銭、玉葱は1個1銭、油揚げ3枚3銭。卵は当時、高価な食材だったのかもしれませんね。

『一品五銭 今日の料理』。表紙も見返しも、洋食器を描いたデザインや色遣いがかわいい。

中身を見ると、さすがにハードルを上げ過ぎたのか、4人前5銭の予算でできる料理はごく一部に限られていて、「炒り豆腐」や「刻昆布(きざみこんぶ)と油揚の甘煮(うまに)」など、豆腐や油揚げにほかの食材を組み合わせて、醤油・砂糖で味付けした料理が多い……。
ほかに、4人前15銭のスープ、4人前10銭以下の吸い物、お惣菜のいろいろ、手軽な西洋料理などの項目があり、レシピには材料費が細かく明記されていて予算からメニューを選ぶこともできます。

『一品五銭 今日の料理』のページ。1品の予算が材料ごとに細かく明記されている

この『一品五銭 今日の料理』に掲載されていたレシピの中から、いくつかの料理をピックアップして再現してみました!
※引用部分、漢数字はアラビア数字に直しました。読み仮名をふる場合は、原著にあるルビの表記をそのまま用いました。

「挽肉のつみ入」はご飯がすすむ甘辛味

「挽肉(ひきにく)のつみ入(いれ)」は、メインのおかずにできそうな1品。「つみ入」とは“つみれ”のこと。魚や肉などの練り物をスプーンなどですくって(つみ取って)調理する料理。イワシのつみれなどはおなじみですよね。
まずは書籍に掲載されている材料と、予算、製法を引用してみましょう。

「挽肉のつみ入」4人前 25銭

【材料】 挽肉(半斤) 20銭
     葱 2銭
     卵(1個) 3銭
【製法】 挽肉の中に卵を交ぜこみ、普通の煮魚の汁位の汁を拵(こしら)へて其の中に匙(さぢ)ですくって入れると固まりますから静かに裏返して〈中略〉その残りの汁で日本葱を煮て付け合せに添えるのです。

それにしても【製法】の文体が独特ですね。

では作ってみましょう。
一斤は600グラムなので、挽肉半斤は300グラム。挽肉は現代では比較的安価だとはいっても、このメニュー、普通に作ると節約料理っぽくないので、挽肉におからを混ぜて作ってみました。しっかり水切りした豆腐でもいいと思います。肉は豚を選びました。

だいたい肉:おからが6:4くらいになるようにして、材料にはないが塩をして、よく練った。

当たり前のように「普通の煮魚の汁位の汁を拵へて」と書かれていますが、「普通の煮魚の汁」とは?? 丸投げですね……。今回は、市販の麺つゆ(濃縮のものは希釈して)100㏄と、砂糖大匙1杯くらい、酒大匙1杯くらいで拵えましたよ。鍋で加熱して、そこへ挽肉の生地をスプーンですくって入れて、火入れしました。
ちなみに、「つくね」は、挽肉などを手でこねて(つくねて)成形する料理を言います。

煮汁はひたひたになるくらいたっぷり用意したほうがいいかもしれない。しっかり火を通すこと!

つみれに火が通ったらひとまず鍋から取り出し、鍋に葱を入れます。葱は大き目のぶつ切りにしてみました。トロッとやわらかく仕上げるには、オイルを少し足してもいいかもしれませんね。

シンプルで当たり障りのないメニューですが、和風の煮込みハンバーグといった感じで、甘辛な味がご飯に合う! 日本酒にも焼酎にも合うので、酒飲みはお酒がすすんでしまいそう。そうすると結局節約にはならないのかも……。

「軽便ソース」で食べる「キャベジのサラド」

「キャベジ」はキャベツ、「サラド」はサラダ。「軽便(けいべん)ソース」の軽便とは、簡単な、手軽な、という意味です。
このメニューにはなぜか予算の表記がありませんでした。他のページで紹介されているキャベツを使うレシピには、「キャベジ3銭」とあります。卵1個と同じ値段ということになりますね。

「キャベヂのサラド」…予算表記なし

【材料】 キャベヂ
     軽便ソース
     (酢、醤油〈しやうゆ〉、胡椒〈こせう〉、砂糖、カレー粉)
【製法】
「キャベヂのサラド」キャベヂを5分(ぶ)位に切り、極(ご)くさっと茹で、笊(ざる)に揚げてよく水を切り、次の軽便ソースをかけて食べるのです。
「軽便ソース」酢と醬油と同量にして其の中に胡椒少量とカレー粉と砂糖とを適宜に加えて一旦煮立て冷めてから用ゐるのです。

1分は約3ミリなので、5分は約1.5センチ。千切りでも構わないと思います。「さっと茹で」というプロセスは電子レンジでの加熱で代用しました。

「軽便ソース」も、「一旦煮立て」の部分は電子レンジで。お好みによりますが、砂糖とカレー粉はたっぷりめに入れた方がおいしいかもしれません。カレー粉は100円ショップでも手に入ります。

材料を見た時、カレー味のサラダ? と怪しさ満載でしたが、スパイシーで意外においしい。カレー粉はメーカーによってスパイスの配合が違うので、どのメーカーのものを使うかで風味や辛さが変わってきますね。盛り付けの際には、食感のアクセントが欲しくて刻んだナッツを添えてみました。ドライフルーツも合うかもしれません。ドライイチジクとか……。チキンやソーセージと一緒にパンにはさんで、サンドイッチにしてもいいですね。

「卵入牛乳スープ」は、手順がポイント

次は「心身の疲労して居る際などには元気を恢復(くわいふく)する功があります」と紹介されているスープです。

「卵入牛乳スープ」4人前15銭

【材料】 玉葱(1個) 1銭
     牛乳(2合) 8銭
     バタ 3銭
     卵黄味(1個)3銭
     メリケン粉
【製法】 バタを鍋に入れ火にかけて融(と)かし、細かく刻みたる玉葱を入れて文火(とろび)で15分間位焦げぬ様に煮立て、其の中へメリケン粉を加へます。別に牛乳を暖(ママ)めて置いて之れを注ぎ込み、水1合を加へ少し煮立ててから之れを裏漉(うらご)しで濾ます。この汁をよく掻き交ぜた卵の黄味の中へ固まらない様に掻き廻しながら注ぎこみ、一寸(ちよつと)煮立てゝ膳に上(の)せるのです。〈以下略〉

バタはバターですね。メリケン粉は精製された小麦粉。当時、アメリカ産の小麦粉をメリケン粉、国産のものをうどん粉と呼んでいたようです。小麦粉がなければホットケーキミックスでも代用できますよ。
バターは高価に感じるので、オリーブオイルで玉葱を炒めました。あらかじめレンジで加熱しておいた方が時短になります。牛乳2合の後に水1合を追加するレシピになっていますが、水は入れずに牛乳を3合にしてみました。

このレシピには【注意】として、「あべこべに汁の中へ卵を入れると卵とぢになって了(しま)ひます」とあります。ボールに卵黄を入れ、つぶしてよく混ぜ、混ぜながらスープを注ぎました。この手順は遵守しましょう。味は塩と胡椒でつけました。

シャバシャバなカルボナーラ風味スープ、という感じ。玉葱は濾さないでそのまま具にしてもいいかも。もっと玉葱をたっぷり、倍量ぐらい使ってもいいかもしれません。パスタを入れれば腹持ちもいいですね。

卵の白味を使ったデザート「舎利別氷菓子」

「卵入牛乳スープ」は卵の黄味だけを使うので、白味が余ってしまいます。『一品五銭 今日の料理』の著者桜井ちか子さんが書いた別の料理本『三百六十五日 毎日のお惣菜』には、卵の白味を使ったデザート「舎利別(シャリベツ)氷菓子(アイス)」が紹介されています。
舎利別、舎利別……仏教用語みたいですが、シャリベツアイスって、シャーベットのことですね。

「舎利別氷菓子」…予算表記なし

【材料】 砂糖(50匁〈もんめ〉)
     鶏卵(白味2個)
     湯(3合)
     果物の汁(大匙3杯)
【製法】砂糖に湯を注(さ)し、果物の汁を加へて一旦煮立て、冷めてからレモンを加味し、アイス・クリーム器の罐(くわん)に入れて〈中略〉凍らせるのです。稍(やゝ)固つた頃に泡立てた卵の白味を加へ、〈中略〉直(す)ぐに食べてもよし、〈中略〉氷で詰めて置いてから食べてもよいのです。

湯と砂糖と果汁を合わせて煮立てるプロセスは、果汁100%のジュースを使うことで省略。レシピの原文ではアイスクリームメーカーを使って作るように書かれていますが、今回は、ジュースを凍らせて、しっかり泡立てた白味と合わせて、ミキサーで混ぜました。香りづけにワインやジンなど、少しお酒を入れてもいいですね。

こっくりしてふわふわ。失敗のないデザートです。卵の白味が余った時、お好みの果汁やフルーツで作ってみてください。果実をトッピングするのもいいですね。これも酒好きの案ですが、「舎利別氷菓子」にお酒を注いでフローズンカクテルにするのも美味。
大正時代の冷蔵庫は木箱に氷を入れて冷やすアナログなもの。しかも、どの家庭にもあるような代物ではなかったはず。現代のような冷凍庫なんてなおさらあり得ないですから、アイスクリームや氷菓子を家庭で作って食べるのは特別おしゃれなことだったと想像できます。

「節約料理」とはいってもこれらのレシピはたぶん、大正時代のセレブな奥さまがこぞって作った超モダンなメニューだったでしょう。それでも、ちゃんとコストを意識しようという意気込みを感じます。
いつの時代にも困難な局面はありますが、お金を掛けなくても楽しくおいしい食事はできます。大正時代に思いを馳せ、令和風にレシピを再構築して作ってみてくださいね。

書いた人

寺社巡り、歳時記、やきものなど、さまざまな日本文化にまつわるウィークリーブックの編集担当を経て、料理専門誌編集部へ。たんぱく質不足。炭水化物過多。お腹はゆるゆるでいいが背中はバキバキでありたいので、背筋を中心に日々トレーニングしたりしなかったり。