9月に入り、夏の猛暑が一段落。いよいよ芸術の秋がやってきた感じがします。2018年の秋も首都圏や関西圏を中心に、注目の展覧会が目白押し。今からどれに行こうか考えるだけでも楽しくなってきますよね。
さて、ここ数年、特に大型の企画展で観客を楽しませてくれるのが、展覧会とタイアップして制作される記念グッズ類です。図録や絵ハガキ、付箋、マスキングテープ、Tシャツ、トートバッグといった定番グッズはもちろん、有名な老舗ブランドとタイアップしたお菓子類、会場限定のカプセルトイなど多種多様なグッズが販売されるようになりました。
そんな中、9月8日から上野の森美術館で始まった個性的なテーマの展覧会「世界を変えた書物」展で、思いがけずスゴい展覧会グッズと出会うことができました。展覧会の内容と合わせて、レポートします。
「世界を変えた書物」展とはどんな展覧会なの?
「世界を変えた書物」展は、金沢工業大学が約40年かけて世界中からコツコツと集めてきた、自然科学系の稀覯本コレクションをお披露目する展覧会です。同大学のライブラリーセンター内に設置された「工学の曙文庫」約2000冊の中から、人類史に画期的な進歩をもたらした科学理論や、発見を収めた書籍約130点を選りすぐって、展示室内のガラスケースで特別展示しています。
驚いたことに、入場料は完全無料。展覧会のチラシで主催者を見てみると、大型企画展に名を連ねる事が多いテレビ局や新聞社の名前はそこにありません。金沢工業大学の宮下智裕教授や、宮下研究室の学生さんたちが、すべて自分たちだけで作り上げた展覧会なのです。
ひと通り展示を見てまわり、「無料にしては展示内容も濃いし、ちょっと掘り出し物的な展覧会でお得だったな~」と、会場を出ようとしたその時、グッズ販売コーナーがあることに気がつきました。
秀逸なデザイン! 京友禅のオリジナル風呂敷
何気なく足を止めてそのラインナップを見てみると・・・。
無料の展覧会にも関わらず、並んだグッズ類のクオリティが高いのです。展示を見たら、別の美術館へとすぐにはしごしようと思ったのですが、はしごは中止。グッズをしっかり吟味することにします。
特に目を引いたのが、展覧会場限定で販売されていた特製風呂敷でした。全6種類用意されていて、それぞれ館内で展示されている稀覯本の印象的なイラストが上品にプリントされています。触ってみると、麻っぽい生地で、厚手で温かみのある上質な手触り。あぁ、これはクオリティ高いな、と思って価格を見たら、、、
やはり、5,000円!! ・・・というお土産としては、非常に気合いが入った価格です。
でも、それもそのはず。販売スタッフに聞いてみると、なんとこの風呂敷はこの展覧会のために、安政2年(1855)創業の京友禅の老舗「岡重」に頼み込んで制作した、こだわりの逸品なのだそうです。なるほど! だからこそこのクオリティなのですね。
ほのかに麻の香りがする上品な触り心地に加え、しっかり厚手なので頑丈です。うん、長く使えそう。こういうグッズは、一期一会です。これを逃したらもう買えなくなるはず。よし!気合だ、ということで、その場で即購入しました。さっそく、自宅に帰ってきて使ってみました。
一升瓶だってほら、こんな感じでしっかりと包むことができます。生地に厚みと弾力があるので、中に包んだアイテムをしっかり守ってくれそうです。これはいい買い物をしました。
他にも意外性あふれるグッズがたくさんあります
さて、風呂敷には大満足でしたが、それ以外にも良さそうなグッズがたくさんありましたのでいくつか紹介しておきます。
まずは、古書をかたどった会場限定のレザーブック&ノート。外観は、何やら古い辞書のような趣です。
パラパラめくってみると、中はところどころ、展示された古書の印象的なイラストが印刷された、無地のノートでした。面白いのは、ノートの色合いです。経年変化を表現しようとした、温かみのある濃いクリーム色は、稀覯本のような雰囲気満点。仕事で使っていたら、取引先の好奇心をがっちり掴めそうです。
次に、展覧会のパンフレット。いわゆるよくある図鑑のようなB4版ではなく、タブロイド紙のような大判なのです。
広げると、新聞みたいな感じ。変わってますね!
このタブロイド、なんとテーマ別に2種類用意されているのです。・・・本当に無料の展覧会ですか? この展覧会(笑)、凝り方がスゴい!
さらに、面白いなーと思ったグッズが、購入してその場で自分オリジナルの図柄を好きなように配置できる、小型トートバッグ。これは珍しいですね!
まずはレジでお会計を済ませます。
そのあと、グッズコーナーに設置されている専用プリントブースで、5種類のスタンプを使って、インクをトートバッグに転写します。練習用の紙も置いてあるので、こちらでスタンプを押した時のイメージも確認できます。
販売スタッフから「スタンプ台でインクをしっかりつけることです」と、上手に転写するコツを教えていただきました。一度乾いてしまえば、その後、変に滲んだりすることもなくしっかりとインクが定着するので、安心してチャレンジしてみてほしいとのこと。
その他に、注目したのがチケットホルダー。3種類用意されています。これ自体は、大型展覧会ならどこに行っても販売されている定番グッズなのですが、販売スタッフから面白い使い方を教わりました。なんと、チケット入れ以外の用途として、冬場はこれを「マスク入れ」として使って欲しい、というのです。
試しに入れてみたら、本当にぴったり! こんな使い方があったのか、と嬉しくなってこれもその場で購入しました。みなさんも、是非チケットホルダーをマスク入れに使ってみてくださいね。職場や学校などで披露したら、ちょっと新鮮で驚かれるかも知れません。
撮影OK! カメラを持って偉人たちが残した「知の森」へ分け入ろう
さて、グッズだけでなく、肝心の展示内容もご紹介します。
まず、アーチ状のゲートを抜けていくと、待っているのは展覧会用に特別製作され、“知の壁”と銘打たれた、天井までぎっしり稀覯本で埋め尽くされた書棚です。
どうでしょうか? 年月を経て大切に守られてきた稀覯本が発する独特のオーラみたいなものが感じられませんか? 棚に収められた稀覯本を直接手に取ることはNGですが、写真撮影がすべてOKなので、お気に入りの角度を見つけて、インスタ映えする写真をバンバン撮ることもできます。
さて、書棚を抜けていくと、今度は“知の森”と名付けられた展示スペースが待っています。ここでは、金沢工業大学ライブラリーセンターの約2000点から選りすぐった約130点の稀覯本が、1冊ずつガラスケース内で紹介されています。
嬉しいのは、著者とタイトルが表示されているだけでなく、1冊1冊すべて詳細な解説パネルがついていること。ガラスケースの中に収められた書籍の内容や出版背景、著者の専門分野、科学史の中での位置づけなどを、しっかり把握することができます。
驚くことに、本展で展示されている書籍のほとんど全部が「初版本」なのです。浮世絵でも「初摺り」が特に貴重とされるように、稀覯本の蒐集においても「初版」であることは非常に価値を持つのだといいます。
また、約130冊が展示された稀覯本の中でも、特に著名な科学者が書いた代表的な書物や、時代を大きく書き換えた重要な書物は、「Check20」というパネルでハイライトされていますので、これを重点的に見ていくだけでも、いかに金沢工業大学のコレクションがスゴいかがわかります。
例えば、アリストテレス「ギリシア語による著作集」、アルキメデス「四辺形、円の求積法」といった、ギリシャ時代の偉人が記した著作から、ニコラス・コペルニクス「天球の回転について」、ヨハネス・ケプラー「新天文学」、アイザック・ニュートン「自然哲学の数学的原理(プリンキピア)」といった、ルネサンス期以降の近代の大科学者たちの初版本も網羅。
さらに、近現代では、エジソンの発明した特許説明書、トーマス・オールヴァ・エディソン「ダイナモ発電機・特許説明書・特許番号No.297,587」、初めて空を飛んだライト兄弟が飛行記録を記した、ウィルバー・ライト「航空実験」、放射性物質の発見など、核物理学に大きく貢献したキュリー夫人ことマリー・スクウォドフスカ・キュリー「放射性物質の研究」・・・といったところまで、小学生でも知っているような歴史上の偉人が手がけた書籍がそこら中に置いてあるのです。
こうやって、大量の稀覯本に囲まれながら、知の巨人たちが人生を捧げて取り組んできた研究や発見を俯瞰して見てみると、不思議な感慨が湧き上がってきます。すなわち、21世紀現在、我々が享受している豊かな生活や高度な科学文明は、歴史上のレジェンドたちが、先人の実績や発見をベースにして、少しずつブレイクスルーを絶え間なく繰り返してきた結果の上に築かれたものなんですよね。
直感的でわかりやすいインスタレーションも見どころ
・・・そんなことを考えながら、展示後半となる2Fへと順路を上がっていくと、こうした「知の連関」「知の集積」みたいなものをわかりやすく表現してくれたアート展示が待っていました。作品からは金沢工業大学の学生さんたちが、手作りで制作した跡も感じられます。
これは、書籍に見立てたベニヤ板を縦にうず高く積み上げることによって、ある分野における科学的な知見や研究成果の集積を表現したインスタレーション。ひとりの研究者が生み出した偉大な研究成果は、過去の研究者たちの膨大な努力や試行錯誤があってこそ成り立っているのだということが、直感的に理解できます。
続いては、それぞれ少しずつ領域での異なる発見や理論が、別の科学分野の次の発展に寄与しながら、全体として科学が発達してきた様子を、ベニヤ板を縦横に積み重ねたブロック状のインスタレーション。単純な作りながら直感的に科学発展の法則や性質を表現しています。
会期は今月の24日(祝・月)まで! いますぐ出かけよう
いかがでしたでしょうか。お金をかけている大規模な企画展と比較すると、入場前はどうしても地味な印象があった「世界を変えた書物」展でしたが、体験してみると、展示はもちろん、グッズのこだわり、クオリティに至るまで、非常によく考え抜かれていました。
この秋、都心における芸術のメッカ・上野地区で楽しめる、超穴場的な優れた展覧会です。写真撮影も自由にできますし、無料なので気軽に立ち寄ってみてください。稀覯本のもつ独特の魅力を是非味わってみましょう。お土産には「岡重」の風呂敷も是非!
文/齋藤久嗣 撮影/小学館写真室 藤岡雅樹、齋藤久嗣
「世界を変えた書物」展
会場 上野の森美術館
会期 2018年9月8日〜9月24日
公式サイト