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京の扇屋から法橋ヘ大出世！
桃山時代から江戸時代へ、日本美術の流れの橋渡しをした俵屋宗達（たわらやそうたつ）は、町人であったために生没年や絵師となった経緯の記録はなく、謎多き絵師とされています。
俵屋宗達という名は、扇絵や屛風絵、金銀泥（きんぎんでい）の下絵といった絵画を制作販売する「俵屋」を営んでいたことからつけられたもので、絵師として知られるようになったのは、才能に恵まれていた芸術家・本阿弥光悦（ほんあみこうえつ）が自身の書の下絵を宗達に描かせたことに端を発します。
やがて、大画面の障壁画に取り組むようになった宗達は『風神雷神図屛風（ふうじんらいじんずびょうぶ）』をはじめとした金碧画（きんぺきが）や水墨画の名画を次々と制作。60歳を過ぎたころ、朝廷から僧侶の位階に準じた高位「法橋（ほっきょう）」に叙せられます。町人としては異例の大出世でした。
琳派はここから始まった
その名が一字使われていることから、琳派は尾形光琳（おがたこうりん）によって始まったと思われがちなのですが、光琳が手本にしたのは宗達の絵。琳派の大もとは宗達だったのです。
ふたりの活躍時期は約100年の隔たりがあるものの、光琳は『風神雷神図屛風』や『松島図屛風』など熱心に模写して「たらし込み」技法やデザイン的な作画法を学び取り、『舞楽図屛風（ぶがくずびょうぶ）』の大胆な金地構成にならって、宗達の画法を身につけました。
このように師弟関係にない者が先人の作品から学ぶことを私淑（ししゅく）といい、宗達に私淑した光琳、光琳に私淑した酒井抱一（さかいほういつ）など、意欲的に絵を学ぼうとした者たちが見つけ出した名画を手本にすることをくり返したことで、琳派は時を超えて受け継がれていったのです。
モチーフ継承の原点
琳派の特徴のひとつとして、画題やモチーフの継承があげられます。光琳や抱一、鈴木其一（きいつ）らが受け継いだ宗達の『風神雷神図屛風』は、琳派にとっての〝型〟。日本美術史に欠かせないモチーフとなっています。
では、宗達のこのユニークな風神雷神のルーツはどこにあるのか。中国の原本にならってつくられた『絵因果経（えいんがきょう）』とも『三十三間堂（さんじゅうさんげんどう）』の国宝『風神・雷神像』を図案化したともいわれますが、中国の敦煌石窟（とんこうせっくつ）壁画や新疆（しんきょう）キジル石窟壁画には宗達画と同じように、風袋を持った風神や連鼓（れんこ）を持った雷神が描かれていたのです。
真実はわかりませんが、宗達が図案化したモチーフが琳派に受け継がれていったという歴史には、美を愛した者たちのロマンが感じられます。
カリスマ絵師04 俵屋宗達プロフィール
たわらや そうたつ
生没年不詳。その前半生は謎に包まれたままだが、絵屋を営み、自宅で茶会を催していた記録から、裕福な町衆だったと思われる。本阿弥光悦の引き立てで絵師として名を成し、数多くの名画を創出。日本美術に新たな潮流を生み出した功績が高く評価されている。
※本記事は雑誌『和樂（2018年4・5月号）』の転載です。
