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2025.01.23

アール・デコ様式の東京都庭園美術館で堪能するアートの世界。 美容家・石井美保の「和魂美才」vol.9

美容家・石井美保さんが、日本文化と和装の魅力を伝える連載「和魂美才」。今回は国の重要文化財に指定されている、港区白金台の東京都庭園美術館を訪れました。「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」の現代アートの展覧会が開催されている館内で、過去と現在を行き来するような貴重な体験をお届けします。東京都庭園美術館の学芸員、森千花さんとのアート談義をお楽しみください。

建物すべてがアート!? アール・デコ様式の美術館に感動

東京都庭園美術館の学芸員、森千花さん(右)から解説を受ける石井美保さん(左)。作品は鉄でできた青木野枝さんの《ふりそそぐもの/朝香宮邸 I》

石井美保(以下、石井):美術館というと、閉鎖された白い空間が多いと思うのですが、ここ東京都庭園美術館はまったく正反対。アール・デコ様式*の素敵な建物自体が美術館なんですよね?

*アール・デコ様式:1910年代から30年代にかけて、フランスを中心にヨーロッパを席巻した工芸・建築・絵画・ファッションなどすべての分野に波及した装飾様式の総称です。直線と曲線の知的な構成と、幾何学模様が特徴。

森千花(以下、森):はい、この建物自体が芸術作品といってもいいほどです。1933(昭和8)年に朝香宮の自邸として建てられたのですが、本館は、主要な部屋の内装にアンリ・ラパンやルネ・ラリックなど、フランスのアール・デコ様式における著名なデザイナーを起用しています。さらに、宮廷建築を担っていた宮内省内匠寮(くないしょうたくみりょう)も、建物の設計の他、本館2階の朝香宮家のプライベートルームの内装を主に手がけ、まさにフランスと日本のアール・デコ様式が合体した、大変貴重な建築物です。2015(平成27)年には、国の重要文化財にも指定されています。

ルネ・ラリック作のガラスレリーフ扉がある、本館の正面玄関に佇む美保さん。モチーフは有翼の女性像で、型押ガラス製法でつくられています。

石井:とにかく、建物に入ってから、どこを見ても何ひとつ同じものがない。窓の形も天井も照明も、ラジエーターカバーも、ひとつひとつ凝ったデザインで本当にため息が出ます。

通称〝香水塔〟で知られる「噴水塔」。アンリ・ラパンがデザインし、フランス国立セーヴル製陶所で製作されました。

第一階段の凝ったデザインも要チェック。大理石と鉄の異素材の組み合わせが目を惹きます。

第一階段を上がったところにある、二階広間照明柱。柱が照明になったような斬新なデザインに驚きます。

森:アール・デコの時代は、さまざまな素材を組み合わせたデザインが特徴です。各部屋でガラスや鉄、大理石や木材などを組み合わせているものが多く見られます。

石井:今回の展示も、鉄とガラスですね?

大理石の暖炉に金物のラジエーターカバーが(左、本館2階 若宮居間)。階段の途中にはガラスと鉄の円形デザインの丸窓(右)。

森:そうなんです。今回の展示「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」のキャッチコピーに、「朝香宮邸でつむぐ鉄とガラスの創造」と入れました。1933年竣工の静謐な空間にある鉄とガラスと、現在の生命感あふれる鉄とガラスの作品が生み出す対話を楽しんでいただきたいと思います。

石井:今回の展覧会で感じたのは、時間と空間を捉えた作品です。単なるモノとしての作品ではなく、その場に佇むと時間の流れを感じたり、見ている人の想像をかきたてたりするような感覚があります。ここにいること自体に価値があるというか。写真では絶対にわからない、自分がここに佇んでこそ感じられるダイナミックさや、柔らかさもある、不思議な時間の流れが感じられます。

森:この建物だからこそ、過去と現在の対話ができるのではないかと思います。

部屋の意匠とリンク&光を楽しむ青木野枝/三嶋りつ惠の作品

石井:鉄とガラスって、すごく異質なものに感じましたが、ここでは本当にぴったりと収まっていますね。個々の部屋にもとから存在していたかのように、部屋の意匠とマッチしています。

森:作品と部屋の照明デザインが呼応していたり、部屋の雰囲気に合ったサイズやボリューム感のある作品が展示されています。ふたりのアーティストがここに何度も足を運んで構築したからこそのリズムやバランスが生まれているのだと思います。

石井:どちらの作品も相当な重量だと思いますが、展示を見ていると軽さを感じます。

森:実は、青木野枝さんの鉄の作品は、熱で溶断してこのようなリングの形をつくっています。鉄でありながら線で構成されているので、光を通すことで軽やかな感覚が生まれています。三嶋りつ惠さんの大きなガラス作品もボリューム感がありますが、無色のガラスの透明感にこだわって制作し、光を反射させたり通過させたり、周囲の光を巧みに使っています。

石井:確かに、時間とともに移ろう自然光といっしょに楽しめて、本当に贅沢な展示ですね。だからこそ「そこに光が降りてくる」という展覧会のタイトルなのだと、納得しました。朝、昼、夕と時間を変えて、何度も見たくなりますね。

青木野枝さんの《ふりそそぐもの/朝香宮邸 Ⅲ》。天井から下がる照明のデザインとリンクしているよう。

三嶋りつ惠さんのガラス作品《光の海》を見る、石井美保さん。ボリューム感のあるガラスに圧倒されながらも、光の美しさを楽しみます。

2階の第一浴室には、青木野枝さんの《ふりそそぐもの/朝香宮邸 Ⅵ》が。鉄×石けんの作品が愛らしく展示されています。

三嶋りつ惠さんの《制作をめぐる資料》の数々。ガラス窓から入る光の帯が美しい。

どの部屋も見逃せない。すべて異なる照明にも注目したい!


本館の展示室や廊下の天井から下がっている、さまざまなデザインの照明。どこに何があるか、ぜひ探してみてください。

取材した展覧会:「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」
2025年2月16日(日)まで

問い合わせ

東京都庭園美術館
住所:東京都港区白金台5丁目21−9
電話: 050-5541-8600(ハローダイヤル)
営業時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
定休日:月曜(祝日の場合は翌平日)
公式ウェブサイト

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石井美保

美容家、トータルビューティーサロンRiche代表。深い美容愛とさっぱりした物腰で、幅広い層にファンが多い。自身の経験に基づく美容法とコスメ選びは、常に注目を集めている。

インタビュー・本文/國藤直子(STRIPE) 写真/目黒智子 着付け/星山奈保子 ヘア/高倉里美 撮影協力/東京都庭園美術館
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