建物すべてがアート!? アール・デコ様式の美術館に感動
石井美保(以下、石井):美術館というと、閉鎖された白い空間が多いと思うのですが、ここ東京都庭園美術館はまったく正反対。アール・デコ様式*の素敵な建物自体が美術館なんですよね?
森千花(以下、森):はい、この建物自体が芸術作品といってもいいほどです。1933(昭和8)年に朝香宮の自邸として建てられたのですが、本館は、主要な部屋の内装にアンリ・ラパンやルネ・ラリックなど、フランスのアール・デコ様式における著名なデザイナーを起用しています。さらに、宮廷建築を担っていた宮内省内匠寮(くないしょうたくみりょう)も、建物の設計の他、本館2階の朝香宮家のプライベートルームの内装を主に手がけ、まさにフランスと日本のアール・デコ様式が合体した、大変貴重な建築物です。2015(平成27)年には、国の重要文化財にも指定されています。
石井:とにかく、建物に入ってから、どこを見ても何ひとつ同じものがない。窓の形も天井も照明も、ラジエーターカバーも、ひとつひとつ凝ったデザインで本当にため息が出ます。
森:アール・デコの時代は、さまざまな素材を組み合わせたデザインが特徴です。各部屋でガラスや鉄、大理石や木材などを組み合わせているものが多く見られます。
石井:今回の展示も、鉄とガラスですね?
森:そうなんです。今回の展示「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」のキャッチコピーに、「朝香宮邸でつむぐ鉄とガラスの創造」と入れました。1933年竣工の静謐な空間にある鉄とガラスと、現在の生命感あふれる鉄とガラスの作品が生み出す対話を楽しんでいただきたいと思います。
石井:今回の展覧会で感じたのは、時間と空間を捉えた作品です。単なるモノとしての作品ではなく、その場に佇むと時間の流れを感じたり、見ている人の想像をかきたてたりするような感覚があります。ここにいること自体に価値があるというか。写真では絶対にわからない、自分がここに佇んでこそ感じられるダイナミックさや、柔らかさもある、不思議な時間の流れが感じられます。
森:この建物だからこそ、過去と現在の対話ができるのではないかと思います。
部屋の意匠とリンク&光を楽しむ青木野枝/三嶋りつ惠の作品
石井:鉄とガラスって、すごく異質なものに感じましたが、ここでは本当にぴったりと収まっていますね。個々の部屋にもとから存在していたかのように、部屋の意匠とマッチしています。
森:作品と部屋の照明デザインが呼応していたり、部屋の雰囲気に合ったサイズやボリューム感のある作品が展示されています。ふたりのアーティストがここに何度も足を運んで構築したからこそのリズムやバランスが生まれているのだと思います。
石井:どちらの作品も相当な重量だと思いますが、展示を見ていると軽さを感じます。
森:実は、青木野枝さんの鉄の作品は、熱で溶断してこのようなリングの形をつくっています。鉄でありながら線で構成されているので、光を通すことで軽やかな感覚が生まれています。三嶋りつ惠さんの大きなガラス作品もボリューム感がありますが、無色のガラスの透明感にこだわって制作し、光を反射させたり通過させたり、周囲の光を巧みに使っています。
石井:確かに、時間とともに移ろう自然光といっしょに楽しめて、本当に贅沢な展示ですね。だからこそ「そこに光が降りてくる」という展覧会のタイトルなのだと、納得しました。朝、昼、夕と時間を変えて、何度も見たくなりますね。
どの部屋も見逃せない。すべて異なる照明にも注目したい!
取材した展覧会:「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ惠」
2025年2月16日(日)まで
問い合わせ
東京都庭園美術館
住所:東京都港区白金台5丁目21−9
電話: 050-5541-8600(ハローダイヤル)
営業時間:10:00〜18:00(入館は17:30まで)
定休日:月曜(祝日の場合は翌平日)
公式ウェブサイト