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2019.10.04

「肥後守」和式折りたたみナイフがすごい!海外でも大絶賛、その魅力を語る!

この記事を書いた人

日本人には知られていないが、海外では人気の日本製品。

そのような内容の記事を、筆者は他のメディアでも書くことがある。日本人は、案外自分たちのことをよく知らない。たとえば「海外では日本のこんな製品が話題になってるんだよ」と書くと、時折その記事がバズってしまう。疑い深い人は「澤田はまた嘘をついている」などとSNSに書いたりするが、まあそれだけこのネタはよく読まれるということだ。

今回は、ナイフの話である。

肥後守(ひごのかみ)と男子小学生

さて、筆者澤田真一はナイフコレクター。

ナイフは文明の礎である。道具を作るにも料理をするにも、ナイフは絶対に欠かせない。また、ブレードの製造は高度な技術がなければできない。人間が人間である所以、それはナイフの存在である。

昔の子供は、それを直感的に理解していた。

兵庫県三木市の企業永尾かね駒製作所は、『肥後守(ひごのかみ)』という折り畳みナイフを製造している。真鍮の鞘に収める、極めて単純な構造のナイフである。

▼永尾かね駒製作所『肥後守定 和式ナイフ 折りたたみ 青紙割込』

「チキリ」と呼ばれる部分を押し、ブレードを露出させる。それをロックする機構はない。が、下手に突く動作をしなければブレードが勝手に動いてしまうことはない。

かつての男子小学生は、誰しもがこの肥後守を愛用していた。鉛筆を削る作業もさることながら、そこら辺で拾った枝に手を加えて新しい玩具も作った。ペティナイフや彫刻刀の代わりにもなる。昔の子供は恐ろしくクリエイティブだったのだ。

肥後守は「青紙割込」であることでも知られている。全鋼の廉価版もあるが、肥後守と言えば日立金属の特殊鋼「青紙」を2枚の軟鉄で挟んだ三枚構造ブレードだ。軟鉄、鋼、軟鉄のサンドイッチは日本式ブレードの最大の特徴と言ってもいい。海外のナイフカスタマーの間では「Sanmai」でそのまま通じる。

その上で肥後守は、ブレードが肉厚だ。やんちゃ坊主が乱暴に扱ったとしても、ビクともしない耐久力を誇る。

日常生活から消えた肥後守

そんな肥後守が日常生活の光景から姿を消して久しい。

これは昭和30年代から始まった「刃物追放運動」が元凶と言われているが、筆者はそうは思わない。確かにそのような運動があったのは事実であるが、ピントのずれた大人がどれだけ叫ぼうとも生活必需品を取り上げることなどできるはずがない。

要は、肥後守が自然と「生活必需品」ではなくなったのだ。カッターナイフという実用性に優れた製品が普及した上、そもそもナイフで木を削る機会がなくなった。鉛筆はシャープペンシルになり、子供たちの玩具は木の棒から家庭用ゲーム機になった。さらに言えば、鉛筆を削るにしても専用の削り器がある。

だが、それらは単に時代が変容しているに過ぎない。肥後守の品質に何ら影響を及ぼすものではないのだ。

子供の遊び道具にしてはあまりにもハイグレードな、三枚鋼の折り畳みナイフ。あのパブロ・ピカソが愛用していたことで知られるフランスのオピネルも、カーボンかステンレスの一枚鋼である。海外のナイフマニアは、三枚鋼のナイフが一般に普及している事実に驚愕する。

海外のナイフコレクターも絶賛


海外にも肥後守ファンは多く存在する。

『肥後守』という名前自体は永尾かね駒製作所の商標登録だから、自分で肥後守をコピーしたとしてもそれを肥後守として流通させることはできない。だから永尾かね駒製作所の手に寄らないものは総じて「肥後ナイフ」と呼ばれる。

独自の工夫を凝らした肥後ナイフを開発して、クラウドファンディングに出展したナイフ職人もいる。

欧米では、ナイフコレクションやカスタムナイフの製造がある種の市民権を得ている。「ナイフを集めている」からといって、それを理由に色目で見られることはまずない。アメリカでは牧場の蹄鉄師がそのままナイフ職人に転身することもある。

一方で、欧米のナイフ職人の中には日本を目指す者も少なくない。兵庫県三木市、岐阜県関市、新潟県三条市の主幹産業は刃物製造だ。彼らにとってはこれらの都市は「ナイフの聖地」であり、ここで修行を積んでこそ一人前という意識を共有している。

そんな彼らから見た肥後守は、日本の刀剣製造技術を雄弁に物語る至高の逸品なのだ。

いざという時の備えに


日本人が肥後守を見直す時が、確実に近づいている。

昭和から平成に入り、日本では自然災害が相次いだ。電気も水道も通信回線もストップしたら、頼れるのは手に持って扱う道具だけしかなくなる。本格的なアウトドアを経験した人なら理解できると思うが、とりあえずナイフ1本あれば大抵のことはできる。木を削って原始的な錐もみ式火起こし器を作るにも、ナイフは大活躍する。

逆にナイフがなければ、できることは一気に減ってしまう。「切れない」というのは実に不便だ。スーパーマーケットに行けば切り身になっている肉や魚が売られているが、我々現代人は「最初から加工されている状態」に慣れてしまった。そのため、自分の手でモノを加工しなければならない時になると慌てふためく。

筆者は静岡県静岡市在住。ここは南海トラフ地震の危険性が叫ばれる地域でもある。いざという時に備え、仕事場の脇にいつも肥後守を置いている。

▼永尾かね駒製作所『肥後守定 和式ナイフ 折りたたみ 青紙割込』

書いた人

ノンフィクションライター、グラップリング選手、刀剣評論家。各メディアでテクノロジー、ガジェット、ライフハック、ナイフ評論、スタートアップビジネス等の記事を手がける。