日本文化の入り口マガジン
探していたわけではないけれど、つい手にとってしまうようなものがある。雑貨大好きな私にとってそれは見た目に加え、成り立ちや、作り手の想いなど、どこかに物語を秘めたもの。そんな出合いを求めて入ってみたものの、子どもはすぐに飽きてしまって、気まずくお店を後に・・・
「入るんじゃなかった・・・」と、いつも後悔してしまう。
ところががここ「カタカナ」はそうではありません。難しい顔で買い物をしている人は誰一人おらず、大人も子どもも、みんなニコニコ。楽しそうに自分の気に入ったものを手にしている。そんなお店は自由ヶ丘にあります。
小さなお店にギュッと詰まった日本各地のかわいい、かっこいいものたち。日用品から、服飾品、食品など様々なものが並んでいます。
「何屋? って言われるくらい本当にいろんなものがあります(笑)。たくさんの入り口を持つことで、いろいろな人に来ていただきたい。気軽に日本のものに触れていただけるようにと、敢えてカテゴリーを絞っていません」とオーナー(株)タンケン社代表取締役の河野純一さん。
「カタカナ」では、どこか懐かしく新鮮な日本のおもちゃで、子どもたちがいつの間にか夢中になって遊んでいる姿が見受けられます。子どもにもっとと言われ、帰れない親も多いとか。
「オープン当初、おもちゃも、大人の鑑賞用として並べていたものが多く、子どもの客層は意識していませんでした。でも、オイル時計を毎日見にくる子がいて(笑)。彼らは、毎日何かを感じてくれているんです」
「お店をやっていると、いい時もあれば悪い時もあります。そんな時に、純粋に応援してくれる子どもの言葉に救われたことがありました」
子どもたちがこのお店で楽しんでくれているならと、今でも必ず一定のスペースで日本製のおもちゃや絵本などを紹介しています。
価格の安さが求められるおもちゃは、産地が海外にシフトし、日本製の良質なおもちゃを探すことは容易ではありません。河野さんは、日本製にこだわりながら、今度はどうやって子どもをびっくりさせようかと毎シーズン知恵を絞っています。
「カタカナ」のもうひとつの魅力は皆が集まれる場であること。2週間ごとのペースで大きなイベントを開催し、他にも週末マルシェなど、様々なスタイルで参加できるイベントを企画しています。
不定期で開催される夏の夜市もそのひとつ。普段と違う雰囲気の中、いつもは関わりのない客同士が会話を始め、話が弾んで、お客様にお店でワークショップを開いてもらったこともあるそうです。
河野さんは、もともと大手アパレルのインポートブランドのバイヤーで、海外を飛びまわる忙しい日々を送っていました。
「ここを始めたきっかけは2つあります。ひとつは海外の取引先から、『カワノの使っているものってかっこいいよね』と言われたことです。当時洋服は全身インポートでコーディネートしていました。でも持っていた日本製のノートやシャーペンが彼らには格好良く感じるのだなと、その時気がついたのです」
「もうひとつは、妻の病気です。当時、薬の副作用で味覚障害になり、食欲がなくなっていく妻のことで悩んでいたときのことです。とある記念日のプレゼントに曲げわっぱがほしいと言われました。その当時はどうして欲しいのかも良くわからず、高いな~って思いながらも曲げわっぱを買いました。ところがそれを使ってお弁当を作ったら、彼女が美味しかったと言ってくれたんです。それまで曲げわっぱって『おばあちゃんが使うもの』というイメージだったのに、その時からキラキラと輝きだして、日本のモノってすごい! と思い、それを知らせたいと考えるようになったんです」
現在は完売続出でなかなか手に入れることが難しい<柴田慶信商店>の曲げわっぱ。河野さんの長年の想いでようやく2019年9月7日(土)から曲げわっぱのイベントを開催することになりました。
おみやげってプレゼントと違って気軽なもの。『日本のかっこいいを集めたおみやげやさん』をコンセプトに、気楽なお店でありたいという想いを込めて雑貨屋激戦区の自由ヶ丘で「カタカナ」を開いたのが2010年。
現在では、毎日のように地元の子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで、土日には沿線からもお客さんが来る人気店になりました。訪れる人に共通するのは、「背景のあるものが好きということ」。流行ではなく、純粋にそのものを楽しむ人々が集まります。
しかしながら、どうやって日本全国のかっこいいものを自由ヶ丘に集めているのでしょうか。
「以前は勘をたよりに動いていました。あてもなく現地に直接行って、県庁の観光課で工芸品の紹介を見て、その場で電話したりしていました。でも、当たり外れも多くありましたね」
今は何かのカテゴリーが欲しいと思うと、仲良くなった多くの取引先や、その世界のキーマンが、喜んで河野さんに紹介してくれるそう。
写真は、新木場「CASICA」での1周年イベント「ニュー縁日」の様子。 百貨店のイベントを通じて声が掛かり、出店に至ったそうです。
「ポップアップイベントでは、新しいお客様に出会えるだけでなく、同じ場所で出店しているお店の人とも仲良くなります。ライバルではあるけれども、一緒に肩を組んでいければと思っています」
全国を飛び回るさがしモノの旅の中で、アイデアが生まれ、商品化されたものもあります。飛行機好きの河野さんがこだわったのは美濃焼の箸置き。
「僕は、飛行機が好きで、美濃焼のANAの箸置きがあったんです。それで、JALも作りたい!と。ライセンスを取るのが大変な中、なんとか掛け合ってできたのがこの箸置きです」
現在は「カタカナ」の他、羽田空港と金沢21世紀美術館でも取り扱う人気商品です。
「さがしモノの旅で産地を訪ねると、必ず直面するのが後継者の問題。元気な産地は若い人たちが入ってくることを受け入れる土壌があります」
それを実体験したのが大分別府・福岡八女での竹細工の出会いだそうです。
「跡を継ぐ人が居ないというのは、それまで賃金の問題が大きいのかな、と思っていました。実はそれだけではなく、産地のオープンさも重要な要素だったのです。大分の別府に、竹細工の職業訓練校があります。入学するのは、3分の2が県外の人。作り手が皆若いので驚きました」
産地に、技術を学びたい人を受け入れ育てていく土壌があることで、新たな作り手が集まってくる。彼らの新鮮な目線から魅力的な作品を作り上げていくことで、また若い人たちが興味をもつ。そういう良い循環があることに気づかされたそうです。
オープンから10周年目になる「カタカナ」の使命とは? との質問に、笑いながら、
「僕たちは、生き方として、あくまでも肩肘を張らず、みんなの日本文化の入り口として、日本一敷居の低いお店でありたい思っています。この店をきっかけに日本の日用品や服飾品、伝統工芸品などに興味をもっていただくこと。そして、気になる分野を見つけて皆さんで興味を深めて楽しんでもらえたらいいなと思っています」と河野さん。
日本の各地には、その地に愛着をもった人達が始め、土地への想いや生き方を映し出してつくられるお店が増えつつある様に感じます。そして、それに共感した仲間がまたお店を作り、広がっていくことで文化を発信し、ひとつの文化圏のようなものを形成している場所がいくつかあります。
「東京では蔵前などもその文化圏を感じられる場所ではないでしょうか。僕らも、このお店を中心に、食堂や文具店など、また違った形で広がっていく。そうしているうちに、仲間が増えて繋がったりしながら、ひとつの『カタカナ文化圏』のようなものを形成できたらと考えています」
そして、「お店のもつポテンシャルは大きく、街をよくするのも悪くするのもお店」だという河野さんの言葉に深く共感しました。
他県の人やよその国の人から、「東京に来たら自由ヶ丘に行きたいよね」という目的地になってもらえるような『カタカナ文化圏』の構想が河野さんのアイデアノートにあふれていました。
店舗名:katakana/カタカナ
住所: 158-0083 東京都世田谷区奥沢5-20-21 第一ワチビル1F
営業時間: 平日 11:00-20:00
定休日: 不定休
公式webサイト: http://katakana-net.com/
【イベント情報】※会期終了しました
「柴田慶信商店 曲げわっぱ展」
開催日:9月7日(土)~9月20日(金)
会場:カタカナ自由が丘店
イベントでは樹齢150年以上の貴重な天然杉を用いた伝統ある曲げわっぱが約30種類並びます。また、おにぎり好きの河野さんのアイデアから生まれたおにぎり専用まげわっぱも発売予定です。いつものおにぎりがもっと美味しくなることまちがいなし!!
同時に、わっぱ洗いに最も適している和歌山の高田耕造商店のたわしのマルシェも開催されます。9月7日(土)・8日(日) には、高田さんによる「棕櫚のほうき作りワークショップ」も開催。親子での参加も可能です!