有田焼、九谷焼、信楽焼…。“○○焼”と名がついた焼き物は、とにかくいろいろな種類がありますよね。そんななか、「備前焼」の窯元・一陽窯の取材があると聞き、焼き物初心者である私きむらは、ひっそりと同行させてもらいました。
うかがう前は、「それぞれの違いがよくわからなーーい」と、心のなかで叫んでいたのですが、取材をとおして、備前焼ってなんだ? 他の焼き物との違いは? どうやってつくるの? などなど、たっぷりある疑問も徐々に解決していきました。
実はとってもかわいい備前焼
取材先は、東京から新幹線にゆられて約4時間。JR赤穂線・伊部駅から徒歩数分の場所にある、一陽窯のギャラリーです。
正直、備前焼にもいまいちピンときていなかった、きむら。Googleで画像検索してみると、「茶色い、ちょっと渋いな〜」というのが第一印象でした。ですが、実際に見てみるとどうでしょう!
「まるんとしたフォルムがたまらなくかわいい〜」まさかの胸キュン。今まで遠い存在だった焼き物を、一気に身近に感じた瞬間でした。
知っておきたい、備前焼の3つの特徴
さてここで、備前焼の大まかな3つの特徴をご紹介します。他の焼き物との違いも検証してみましょう。
生産地は岡山県備前市伊部地区周辺
まず1つ目の特徴は生産地。備前焼は、岡山県備前市伊部地区周辺でつくられています。今回訪ねた一陽窯も、伊部駅を降りてすぐ。窯の煙突が見えてきます。
ちなみに、日本三大陶磁器のひとつ「有田焼」は、佐賀県有田町が生産地。陶土を原料とする「信楽焼」は滋賀県甲賀市で生産されています。焼き物の種類は、つくり方だけでなく生産地によっても異なってくるのですね。初心者にとっては、意外と知らないことかもしれません(私だけでしょうか〜)。
釉薬を使わない
釉薬を焼き物の表面にかけることで、色を付けたり光沢を出したりすることができます。備前焼では、この釉薬を一切使いません。そのため土の風合いが残り、自然の温かさを感じるなじみ深い焼き物に仕上がるのです。
長時間ゆっくりと焼き締める
備前焼は、約10日間かけてゆっくりと最高温度約1200℃まであげていきます。焼く窯は、階段状の1番下で薪を焚き、1番上に煙突がある“登り窯”。薪の焚き口と煙突の間に陶器を加熱するための複数の部屋があって、長時間かけて焼き締めるのでとても丈夫。投げても割れないといわれるほどです。
備前焼ができるまで
撮影/きむら
備前焼の魅力と特徴がちょっとずつわかってきたところで、一陽窯3代目の木村肇さんが、かわいいリーフレットを使って備前焼ができるまでを説明してくださいました。
一陽窯3代目・木村肇さん
まずは原料について。備前焼の原料は、伊部周辺の田んぼの2〜3m下にある粘土。備前焼は釉薬を使わないので、原料の土はとても重要です。この泥を掘って採土し、土をつくるのは、作家にとってとても大切な作業だといいます。
そして、採土した原土は、扱いやすい土に変化させるため2〜3年かけて乾燥させます。その後、原土を粉砕し選別。水でかき混ぜて余分なものを取り除き、水分を調整して粘土にしていきます。さらに、粘土の空気を抜くために、蕎麦打ちに似た菊練りという練り方で練ります。
なんと長い道のり…。ここでやっと、焼き物初心者の私でも知っている「轆轤(ろくろ)」の登場です。形をつくる作業に突入し、できあがったものから、自然にゆっくりと乾燥させていきます。
ついに窯焚き。一陽窯では、火入れは1年に2回(春と秋)。火入れをしている約10日間は、昼夜を問わず交代で窯の見張りをするそうです。1回の窯焚きでこれだけの量の薪を使い切ってしまうとはおどろきです…
撮影/きむら
やっと完成〜〜! かと思いきや、ここからひとつひとつ手作業で手入れをしていくそう。最後の最後まで丁寧に、時間をかけてつくっていく……ニッポンの手仕事の素晴らしさに、きむら、改めて感動してしましました。
一陽窯のかわいい商品をご紹介
フェルメールピッチャーは和樂の大人気商品
かわいくて、こんなに大切につくられている備前焼。買い物心がうずうずしてしまいますよね!
撮影/パイルドライバー・小池紀行
実は、一陽窯と和樂がコラボして誕生した、とびっきりの商品がありました。その名も「フェルメールピッチャー」。誰もが知るフェルメールの名作「牛乳を注ぐ女」をイメージしてつくっていただいたピッチャーです。
これが2018年和樂10・11月号に掲載されると、驚くほどの速さで完売! そんなフェルメールピッチャーが、2019年3月1日発売の和樂4・5月号でなんと復活! これは要必見です!!
一陽窯ギャラリーできむら的オススメはこちら!
撮影/きむら
取っ手のついていない急須、宝瓶(ほうひん)。かわいいもの好きは、まずこのコロンとした見た目に心をギュッっと掴まれます。もちろん良さは外見だけではありません! 煎茶や番茶など、それぞれのお茶の特徴に合わせてつくり分けられているところにも、こだわりを感じます。実際に使用している和樂編集長セバスチャン高木に、その良さを聞いてみました。
「僕は煎茶用の宝瓶を使っています。煎茶は湯冷しを使うから、番茶用より薄いつくりで、煎茶を飲むためだけにつくられているから、煎茶の味をグッと引き出してくれる。贅沢な道具ですよね」
備前流! お茶のある時間の楽しみ方
お茶を飲むためのこだわりの宝瓶を紹介したところで、備前とお茶文化についてもちょっぴりご紹介します。実は、今回取材でおじゃましたのは、フェルメールピッチャー復活に関連して、和樂2019年4・5月号の特集「お茶のある風景」で紹介することになったため。茶祖・栄西の出身地(吉備津)であり、独特な製法の美作番茶もある岡山で生活をしている人たちが、お茶の時間をどのように楽しんでいるのかも垣間見ることができました。
「僕の友人がやっている岡山県富原地区では、茶畑を茶畑っぽくやっていないのが特徴かな。村の人が裏山の空いているスペースでお茶を育てて、みんなで刈ってみんなで集める。畑がひとつひとつ小さいから、農薬や肥料が必要ないんですよね。集めた茶葉は製茶所に持ちこんで蒸したり焙煎してもらうみたいです」(木村さん)
このようにお茶を通して地域の交流ができるのは、お茶の時間を楽しむ文化があるからこそではないでしょうか。
瀬戸内海を一望できるカフェが素敵
一陽窯からちょっと足を伸ばすなら、牛窓のオリーブ園に2018年春にオープンしたコーヒー専門店「山の上のロースタリ」がオススメ。開放感あふれる大きな窓から瀬戸内海を一望できるという最高のロケーションにある店内では、ここでしか購入できない一陽窯・木村肇さんの作品も販売中! おいしいコーヒーとゆったりとした時間、そして瀬戸内の絶景を楽しめるこの上ない贅沢なカフェです。
◆山の上のロースタリ
住所 岡山県瀬戸内市牛窓町牛窓412-1 牛窓オリーブ園 オリーブショップ2F
TEL 0869-34-2370
公式サイト
おまけ:備前焼で食べるご飯は格別だった…!
取材の日、お昼に木村さんが手作りシュウマイをご馳走してくださいました。どれも絶品でご飯がススムススム…! お茶碗やうつわはもちろん備前焼。温かみのある備前焼はこんなにも料理を引き立てるのですね。
かわいくて、料理も引き立ててくれる備前焼。次に一陽窯におじゃました際は、うつわを購入して、料理を頑張ってみようかな…と、ひそかに考え中のきむらです。
◆一陽窯
住所 岡山県備前市伊部670
TEL 0869-64-3655
備前焼にスポットを当てた展覧会が東京都近代美術館で開催中!
詳しくはこちらから↓
人間国宝の作品がずらり!「備前焼」520年の歴史をたどれる特別展が開催中
文/きむら 取材撮影/篠原宏明