Craft
2019.10.11

職人に刀剣の魅力を聞く!若手刀匠、黒本 知輝さんインタビュー

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刀剣は、昔に作られた、昔のもの、というイメージがあるかたも多いのではないでしょうか? 平安時代や鎌倉時代の名刀も多く現存しており、1000年ほど昔のものとは思えないほどの美しさを今に伝えています。

しかし、令和の今でも、刀剣は新しく作り出されているんです。今回は刀を作る職人、刀匠(とうしょう)、黒本 知輝(くろもと ともき)さんにお話を伺いました。

刀匠・黒本知輝さんに聞いた、刀の魅力とは?


黒本 知輝刀匠 プロフィール

1986年4月2日生まれ。大阪府出身。
2012年 無鑑査刀匠・吉原義人氏に入門
2017年 刀匠資格取得
2018年 独立
2019年 株式会社 日本玄承社設立、代表取締役

【受賞歴】
公益財団法人日本美術刀剣保存協会 現代刀職展(旧・新作名刀展)
2018年努力賞受賞、入選2回

ご挨拶させていただき、さっそく質問攻め開始。

まずは、黒本刀匠ご自身のお話から伺いました。

– なぜ、刀匠の道を選ばれたのですか?
黒本知輝刀匠(以下、黒本):これ、よく聞かれる質問なんですが、なかなかはっきり「こうです」と明確に答えるのが難しくて。非常に感覚的なものだったんですよね。自分の場合、これをこう思ったからこうなった、というような、きちんと筋道の通ったものではなかったんです。ただ、小さい時からチャンバラ映画や時代劇などを観ていて、物心ついた頃には、こんなかっこいいの、自分でも作れたらいいな、とは思っていました。

– 映画などから刀に惹かれたのですね。
黒本:はい。それである時、刀剣の展示会があって行ってみたんです。弟子入りさせてくれる師匠を探していたので、びびっとくる作品に出会えないかな、と。そこで、現在の師匠である吉原義人(よしはらよしんど)師匠の作品に巡り会ったんです。

– 運命の瞬間ですね。刀剣に関わる職人の中の、最高位を持つかただとか。
黒本:無鑑査(むかんさ)というのですが、現在の刀職の制度の中で最高位の称号になります。展示会で、この作品を作った刀匠に入門したい、と決めて、そこからは師匠に直訴でした。熱意を伝えて必死に頭を下げ、毎日師匠の仕事場に通って見学していました。それで2週間経った時、師匠から、それならやってみるか? と言っていただけて、ようやく入門を許されたんです。

– 情熱的ですね。2018年に独立されたということですが、何年くらい修業をされたのですか?
黒本:6年ほどです。刀を作るには、刀匠資格を持った刀匠のもとで5年以上修業して、その後に国の試験に合格する必要がありますから、資格を取って、さらに1年ほど修業を続けて、独立した形です。

刀の魅力とは?

– 刀の魅力、というのは、どんなところにあると感じておられますか?
黒本:まずは美しさ、でしょうか。見た目の美しさもそうですし……刀は対人用の武器であると同時に美術品でもあるという、一見矛盾しているように見えるものですよね。だけど、人を傷つけるのではなく、人を「守る」というほうに重きが置かれているように感じていて、そんなところに美学を感じますね。日本人の気質を表しているというか。それから、持った時の緊張感。身が引き締まる思いがします。刀から醸し出される尊さとでも言うんでしょうか、そうしたものを強く感じますね。「もの」に精神性を問うのは、今は日本刀くらいではないでしょうか。

– 持った人の心の支えになるのですね。
黒本:そうですね。今も昔も、それは変わらないんじゃないでしょうか。それと、刀ってすごく手間がかかるんです。作る段階もそうですし、作り上げてからも、お手入れをきちんとしていないと錆が出たり、傷がついたり。そうしたところにも惹かれますね。
   

今の時代に作られている刀の魅力とは?

– 今の時代に作られている刀に特有の魅力というのもあるのでしょうか?
黒本:あります。美術品に限らず、その時代ごとの好みや流行というのがあるわけですけれど、時代時代で姿形が変わっていって、それは「時代」を映しているものだと思うんです。だから、今作られている刀は、まさに「今この時」の時代を反映していると思うし、そういうものを自分としては作っていきたいですね。時代を経ると、どうしても錆や刃こぼれなどで研ぎ直さないといけなくて、そうすると作った当時の姿というのは失われてしまうことになります。生まれたての一番きれいな姿を見られるというのも、今作られている「現代刀」の魅力ではないかな、と思っています。

– 今の時代を映す、ですか。刀は今も現在進行形で生きているのですね。
黒本:唯一無二の、自分だけの刀、というのも、今生きている刀匠に注文したら作れるわけです。お客さんと相談しながら、お客さんの夢を詰め込める、というのは、作り手としても楽しいものですよ。

– お聞きしていると、とてもアーティスティックな面が大きいと感じたのですが、刀匠さんは刀に関わる職業である「刀職(とうしょく)」の1つと言いますから、職人さん、ということなのでしょうか?
黒本:いろいろな考え方があると思いますので、自分は、というお話をさせていただきますが。職人であり、アーティストであり、その両方を兼ね備えているのではないかと思います。そうでないと、現代にはそぐわなくなってきている気がします。ただ、そのバランスは人によって違うとも思うので、職人とアーティストが8:2の人もいれば、6:4や4:6の人もいるかな、と。そこはそれぞれの信念とか主義に大きく影響を受ける部分だと思います。

– 昔の刀工で、好きな作風のものはありますか?
黒本:たくさんありますよ。備前(岡山県)で作られた作品ですと、長船長光、長船兼光、備前三郎国宗、吉房などの福岡一文字派、一文字則宗、備中(岡山県)の青江派、山城(京都)の来国行、来国光、もちろん、義人師匠の作品も好きですし……これ、全部挙げていったら、それだけで記事1本書けるんじゃないですか?(笑)
– それはそれで書きたい気もします(笑)

黒本刀匠の作品拝見!

小休止しましょうか、と、黒本刀匠が持ってきてくださったのは、ご自身の作品。
大迫力! そして、とても美しい……

吉原一門の特長でもある、透き通るような美しい地鉄に、丁子乱れ(ちょうじみだれ)と呼ばれる華やかな刃文を焼いた太刀です。
華やかでありながら凛として、武器としての機能も備えながらどこか優しさも感じさせるような、とても素敵な作品でした。

今後の活動予定を伺いました

最後に、これからどんな活動をしていきたいか、将来のビジョンを伺いました。

黒本:去年独立して、今、自分の鍛冶場を建設予定です。同門の刀鍛冶3人で立ち上げた刀剣の会社「日本玄承社(にっぽんげんしょうしゃ)」がありまして、鍛冶場が完成したら、そのメンバーで新作をたくさん発表していく予定です。昔の備前長船や一文字派の工房のように、日本玄承社としての合作を作っていこうと話し合っていて、今からわくわくしています。古いものを写すだけでなく、「温故知新」で今の感覚、現代のエッセンスも取り入れた「今の時代の刀」を作っていきたいと思っています。古いものを大切にして、古いものから学びながら、前衛的な作品にも挑戦していきたいですね。美術品ですが、見た目の美しさだけではなく、機能美という視点も忘れずに考えていきたいと思います。

– 本日はお忙しい中、本当にありがとうございました。

黒本知輝刀匠 基本情報

会社名: 株式会社 日本玄承社(にっぽんげんしょうしゃ)
住所: 627-0212 京都府京丹後市丹後町三宅314
営業日・営業時間: 不定休、メールにてお問い合わせください
e-mail: genshousya@gmail.com
YouTube:https://youtube.com/channel/UC7t6PfZVWsBt7039UZiyxJw
instagram:https://instagram.com/nippongenshosya
Twitter:https://twitter.com/genshousya

記事中人物写真:高野 駿(たかの しゅん)フォトグラファー
刀剣写真提供:黒本 知輝刀匠

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人生の総ては必然と信じる不動明王ファン。経歴に節操がなさすぎて不思議がられることがよくあるが、一期は夢よ、ただ狂へ。熱しやすく冷めにくく、息切れするよ、と周囲が呆れるような劫火の情熱を平気で10年単位で保てる高性能魔法瓶。日本刀剣は永遠の恋人。愛ハムスターに日々齧られるのが本業。