職人技を未来へつなぐ拠点「le19M」
le19Mは、2021年にシャネルによってパリ北部オーベルヴィリエに誕生したクラフツマンシップの新たな拠点です。「職人の技術を支援し、未来へ伝える」ことを目的に設立されました。

建築を手がけたのはルディ リチオッティ。この空間には、刺繍、羽根飾り、靴、帽子、金細工など、11のメゾンダールが入居し、約700名の職人が日々ものづくりに携わっています。彼らは、シャネルのオートクチュールをはじめとする数々の創作を支える存在です。

そして、le19Mの一角にあるギャラリー「la Galerie du 19M」では、職人技やその美意識の魅力を広く発信。その活動の一環として、パリでの展示をはじめ、ダカールやマルセイユなど世界各地で巡回展を開催してきました。そして今回、東京で初めてアジア展が実現しました。
3つの章でめぐる、技と創造の世界
「la Galerie du 19M Tokyo」の会場は、3つの章で構成され、それぞれが異なる視点からクラフツマンシップの輝きを伝えています。
le Festival(フェスティバル)

まず現れるのは、建築家・田根剛氏(ATTA- Atelier Tsuyoshi Tane Architects)が会場構成を手がけた「le Festival」。le19Mに属する11のメゾンダールの世界です。天井からは布地や刺繍サンプルが吊り下げられ、テーブルには道具や素材が職人の気配そのままに並びます。

アトリエ モンテックス(刺繍)、メゾン ミッシェル(帽子)、マサロ(靴)、ゴッサンス(金細工)、パロマ(生地)、ルサージュ(刺繍・ツイード)など、各メゾンが手掛ける技が集結。ここでは、完成品だけではなく、制作の「過程」そのものに焦点が当てられ、アトリエの空気を感じながら職人の手仕事が生まれる瞬間を追体験できます。光の陰影や展示の高さまで計算されたこの空間は、まるで一つの大きな作品のように感じられるでしょう。
Beyond Our Horizons(未知なるクリエイション、その先へ)
第2章のテーマは「クリエイティブ・ヴィレッジ」。エリアは、「le Passage(パサージュ)」「les Ateliers(アトリエ)」「le Rendez-vous(ランデブー)」「la Forêt(フォレスト)」「le Théâtre(シアター)」「la Magie(マジック)」の6つのパートから構成され、日仏約30名の職人やアーティストによる共同制作が紹介されています。le19Mのメゾンダールと日本の工芸家が出会い、素材や感性を通じて対話を重ねることで、新たな創造の地平を拓く試みです。

障子に施されたのは、フランスの刺繍工房アトリエ モンテックスとルサージュ アンテリユールによる、四季の風景をイメージした装飾。畳の縁にはルサージュのツイードがあしらわれるなど、空間の随所に日仏のクラフツマンシップの協働を見ることができます。
織物、紙、土、そしてツイードや刺繍といった多様な素材と手仕事が、互いに呼応し合う作品の数々。日本の職人たちが持つ緻密な手仕事の精神と、le19Mの職人たちの革新的なアプローチが交差することで、工芸の枠を超えた“アートとしてのクラフツマンシップ”が表現されています。
このエリアは、CHANEL、le19Mと映画監督や編集者、デザイナーなどで構成されたエディトリアル コミッティの監修によって構成されているのも特徴。職人やアーティスト同士の交流が、どのように新しい表現を生み出すのかを体感できる場といえるでしょう。
Lesage(ルサージュ)— 刺繍とツイード、100年の物語


最後は、1924年創設のメゾン・ルサージュの100周年を記念するエリアです。これまでの刺繍とツイードの軌跡を、アーカイブ作品とともに振り返ります。
ビーズやスパンコール、羽根など、繊細な素材が並び、刺繍の過程を間近に見ることができる空間は圧巻の一言。時代を越えて受け継がれてきた技術の進化が一望できる空間で、ルサージュがファッションを超えて文化の一部として存在していることを感じさせます。
手のぬくもりを感じる体験空間
会場の中ほどにある「le Rendez-vous(ランデブー)」は、数寄屋職人とle19Mの職人たちが共同で作り上げた空間です。東京の天空を背景に、職人技を間近に体感できる特別な場所として設けられました。ここでは、この展覧会のために制作されたサウンドインスタレーションが響き、職人たちの世界を音で感じることができます。

さらに、エディトリアルコミッティメンバーや職人、アーティストを迎え、日本とフランスのクラフツマンシップの対話をテーマにした特別トークも開催予定。この展覧会は、見るだけでなく、「作る」という行為を五感で理解するための場所でもあるのです。
パリと東京 文化としての“ものづくり”を未来へ
この展覧会が東京で行われていることには、明確な意味があると感じさせられます。le19Mが目指すのは、「技術を守り、未来へつなぐ」こと。そして東京は、古いものと新しいもの、伝統と革新が共存する街。パリと東京。二つの都市は、距離こそ離れていますが、職人の精神には通じるものがあります。
日本には、布や紙、漆、金属といった素材に対して深い敬意を払う文化が根づき、シャネルのメゾンダールもまた、素材に語らせる美の哲学を大切にしてきました。
“ものづくり”を芸術として捉え、単なる生産過程ではなく、そこに宿る美意識と創造性を妥協しない。そうした文化を持つ日本だからこそ、le19Mの理念と真に対話できる場所として選ばれたのではないでしょうか。
六本木という現代的な都市空間で、パリの職人と日本の工芸家の技が並ぶ光景は、時代や言語を超えて「作ることの喜び」を伝えてくれるでしょう。
展覧会情報
会期:2025年9月30日(火)〜10月20日(月)
会場:東京シティビュー/森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)
時間:10:00〜18:30(最終入場 17:30)
金・土・祝前日は10:00〜19:30(最終入場 18:30)
入場料:無料(日時指定・4歳以上は事前予約が必要)
主催:CHANEL
予約ページ
タイトル画像 ©CHANEL

